目次

  1. 1. 成年後見人とは
  2. 2. 相続で成年後見人が必要なケース
    1. 2-1. 遺産分割協議をする場合は必要
    2. 2-2. 遺言書がある場合は、不要
  3. 3. 相続において成年後見人ができること
    1. 3-1. 遺産分割協議への参加
    2. 3-2. 相続放棄・限定承認
    3. 3-3. その他の相続手続き|相続登記・相続税申告など 
  4. 4. 成年後見人の選任手続き
  5. 5. 相続のために成年後見を申し立てる場合の注意点
    1. 5-1. 相続税申告10カ月に間に合うよう、早めに申請する
    2. 5-2. 本人と成年後見人の利益相反関係に要注意
    3. 5-3. 親族が成年後見人になれるとは限らない
  6. 6. 判断能力のない人が相続人になる際の事前対策
    1. 6-1. 遺言書を残す
    2. 6-2. 成年後見人を事前につけておく
  7. 7. 相続と成年後見に関してよくある質問
  8. 8. まとめ 判断能力に問題がある相続人がいたら、司法書士に早めに相談を

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認知症などによって判断能力を欠く人が自ら契約などの重要な法律行為を行おうとすると、正しい判断ができず、結果として不利益を受ける恐れがあるため、その行為は無効とみなされます。

そこで、本人に代わって契約の締結や解除、財産の管理を行い、保護・支援するのが成年後見人です。成年後見制度に基づく仕組みで、家庭裁判所で選任されます。

判断能力を欠く相続人がいる場合の相続手続きにおいて、成年後見人が必要なケースと不要なケースについて解説します。

被相続人(亡くなった人)の遺言書がない場合、相続人全員で話し合って遺産の分配方法を決める「遺産分割協議」をすることになります。

この遺産分割協議への参加は法律行為であり、認知症などによって判断能力を欠いた相続人(本人)が参加した場合には無効となってしまいます。このようなケースで遺産分割協議を進めるためには、成年後見人が必要です。選任された後見人は、本人が不利にならないよう、ほかの相続人と協議し、協議成立後は名義変更などの相続手続きを行ってくれます。

なお、遺産分割協議を成立させずに放置しておくと、遺産は相続人全員の共有状態のままとなり、不動産の名義変更や故人の預貯金の解約など相続手続きを進めることができなくなってしまいます。

遺言書があれば、基本的にその内容に従って遺産を分けることになるため、遺産分割協議は不要です。従って、判断能力がない相続人がいても、遺言書に従って相続する場合には、成年後見人をつける必要はありません。

また、遺言書がなくても、法律で決められた遺産の分け方の目安である「法定相続分」の割合で遺産を分ける場合にも遺産分割協議を必要としないため、成年後見人の選任は必要ありません。ただし、不動産がある場合は、相続人全員の共有名義となるため、全員の合意がないと売却や建物の建て壊しもできません。そもそも判断能力がない人は同意ができないため、相続後の管理処分が難しくなるため、おすすめできません。

相続手続きにおいて、認知症など判断能力がない人に代わって、成年後見人ができることは以下の通りです。

  • 遺産分割協議への参加
  • 相続放棄・限定承認
  • その他の相続手続き|相続登記・相続税申告など

成年後見人は判断能力を欠いている相続人(本人)に代わり、遺産分割協議に参加することができます。

成年後見人が参加する遺産分割協議では、成年後見人が家庭裁判所と相談しながら、本人の利益を守るという観点から、協議内容に問題がないか判断します。従って、最低でも法定相続分割合に相当する遺産が受け取れるような内容でなければ、合意することは難しいでしょう。

成年後見人は、相続放棄や限定承認の申し立て手続きを本人に代わって行うこともできます。申立てに家庭裁判所の許可を得る必要はありませんが、実務上は家庭裁判所に相談しながら進めていくことになります。

相続放棄によって、マイナスの財産(負債)の義務を免れることができますが、一方でプラスの財産(預貯金など)も相続できなくなります。成年後見人は相続放棄した方が本人の利益になるかどうか慎重に見極めた上で、相続放棄をするかどうか判断することになります。

その他の相続手続きの代理についても成年後見人が行います。不動産を相続した場合には、登記申請を成年後見人が本人を代理して行うことができます。また、相続税の申告が必要な場合にも代理して手続きを行うことができます。

いずれの場合も、成年後見人自らが申請や申告の準備をしなければならないという意味ではなく、本人に代わって司法書士や税理士に手続きを委任することができるということです。専門家への報酬や実費などの手続き費用は本人の財産の中から支払われます。

成年後見人に関する相談対応について、多くの司法書士が力を入れています。相続手続きにおいて、判断能力が不十分な相続人がいる場合には、早めに司法書士に相談しましょう。

実際に成年後見人の選任が必要になった場合にどのような準備や手続きが必要なのでしょうか。

まず、成年後見人選任申し立てには、裁判所様式の書類セットを入手します。これらの書類は裁判所のホームページからダウンロードすることも可能です。

参照:東京家庭裁判所後見・保佐・補助開始申立セット(書式)
*)管轄の家庭裁判所によって多少様式が異なる場合があります

その書類セットの中に「診断書」が入っており、まずはこの「診断書」を医師に依頼します。依頼する医師は、認知症などの専門の精神科医でなくてもよく、他の診療科目を専門とするかかりつけ医でかまいません。成年後見制度は、その判断能力の程度により後見・保佐・補助と分けられており、本人がどの段階にあるかをあらかじめ医師に診断してもらいます。

さらに、公的書類の収集のほか、財産の内容や収支、本人の身上監護に必要となる情報などを記載した書類を揃えていきます。場合によっては、担当のケアマネジャーさんに記載をお願いするものもあります。

一式そろえたら、本人の居所を管轄する家庭裁判所に申し立てます。住所地ではなく、居所ですから病院や施設に入っている場合にはそこを管轄する家庭裁判所に申し立てます。

その後は、面談や調査などを通して家庭裁判所が内容を審査して、審判を出します。さらに審判が確定するまでに2週間かかります。

審判書と確定証明書をセットで提示することにより成年後見人として法律行為ができます。また、確定後は後見登記がされるため、その登記事項証明書を提示することでも、成年後見人の資格を証明することができます。

ケースにもよりますが、準備から審判確定までは、平均して2〜3カ月かかることが多いです。

【関連】成年後見人の手続き 申し立てから選任までの流れ、必要書類、費用を解説

相続手続きのために成年後見人の選任申立てを行う際、あらかじめ知っておくべき注意点があります。

相続税申告は、「10カ月以内」という比較的短い期限が定められています。成年後見人選任申し立てには、準備から審判確定まで2~3カ月かかるので、早めの準備が必要です。

成年後見人と本人(判断能力が不十分な人)が共に相続人となる遺産分割協議などでは、成年後見人自らも相続人の1人でありながら、本人の代理もするというのは、法律上「利益相反」と言い認められません。成年後見人が遺産をたくさんもらおうとすると、本人のもらえる遺産が減るというように利害が相反してしまいます。

父親が亡くなる前から、認知症の母親の成年後見人を子どもが務めていた場合などが、このケースに当てはまります。遺産分割協議を進めるためには、別途本人を代理するための特別代理人の選任を申し立てることになります。

本人の財産の額が多い場合などには、親族を成年後見人として選任せずに弁護士や司法書士などの専門職を後見人とするケースが多いため、親族を後見人候補として希望しても認められないことがあります。また、上述したような利益相反関係があらかじめわかっている場合にも、専門職後見人が選任されることが多いでしょう。

実際に、相続が開始してから慌てて成年後見人選任申し立てをすると、選任手続きを含め、遺産分割協議等がまとまるまでに時間がかかります。これを避けるための対策として以下のような方法があります。

相続人が判断能力を欠く状態でも、遺産分割協議を要せずに遺産の分配をスムーズに行えるように生前に遺言を作成しておくのも1つの方法です。遺言で財産の承継者として指定された人は、遺言者の死亡時に判断能力が不十分であっても成年後見人を選任することなく遺産を受け取ることができます。

ただし、判断能力を欠く人が実際の手続きを自分で行うのは難しいので、遺言書の中で「遺言執行者」(遺言の内容を実現する役目の人)をあらかじめ指定しておくことをおすすめします。

認知症が判明した時点で、成年後見人選任申し立てをしておくことで、将来本人が相続人となる相続が開始しても、利益相反でない限りスムーズに遺産分割協議ができます。成年後見人は本人の生活をサポートしてくれますので、早めの制度の活用を検討するとよいでしょう。

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Q. 認知症で判断能力を失った相続人に、成年後見人がついていなくても相続できる?

遺産を法定相続分で承継する場合には、できます。ただし、法定相続分割合の共有持分登記をした後で、その不動産を売却する場合には、判断能力を欠いた相続人は売主の地位で契約に加わることができません。結局、成年後見人の選任を要することになります。

また、遺言で遺産の承継者として指定されている場合には、成年後見人を選任することなく、遺産を受け取ることができます。

Q. 相続が終わった後に成年後見人をやめてもらうことはできる?

成年後見人は、遺産分割協議を目的として選任されたとしても、ワンポイントの役割を想定されておらず、原則として本人が亡くなるまで成年後見人として本人の財産管理及び身上監護を行わなければなりません。

さらに、弁護士や司法書士が後見人に選任された場合には報酬が発生し、原則として本人が亡くなるまで本人の財産の中から報酬が支払われることになります。

Q. 成年後見人の報酬はどのくらいですか?

基本的に、年1回、成年後見人からの報酬付与申し立てに対し、家庭裁判所が管理している本人の財産額や行った職務内容を勘案して判断されます。目安として、管理財産額が1,000万円以下であれば、月1〜2万円(年間20万円程度)であるケースが多く、管理財産額により増額されます。また、遺産分割協議に参加して本人の財産が増加したような場合にも、その分が考慮されます。

相続が開始して、判断能力が問題となる相続人がいる場合には早めに弁護士や司法書士に相談することをおすすめします。

弁護士や司法書士は、成年後見人選任申し立てについて、先を見通した上でスムーズに準備することができるため、安心して任せることができます。また、相続手続きにまつわる相談もあわせてできるため、なるべく早く相談するようにしましょう。

(記事は2023年9月1日現在の情報に基づきます)

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