贈与契約書がない場合の対処法 あとから作れる? ないことのデメリットや注意点も解説
生前贈与について契約書を作成しないと、相続トラブルのリスクが高まります。贈与契約書を作成しなかった場合は、トラブルを避けるために過去にさかのぼって作成することも検討しましょう。弁護士が、生前贈与の贈与契約書がない場合のデメリットや対処法、注意点などを解説します。
生前贈与について契約書を作成しないと、相続トラブルのリスクが高まります。贈与契約書を作成しなかった場合は、トラブルを避けるために過去にさかのぼって作成することも検討しましょう。弁護士が、生前贈与の贈与契約書がない場合のデメリットや対処法、注意点などを解説します。
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自分の財産を無償で贈る生前贈与については、契約書の作成が必須ではありません。契約書を作成せず、口頭で生前贈与を行うことも可能です。
書面によらない贈与は各当事者が解除できますが、履行の終わった部分については解除不可とされています(民法550条)。したがって、金銭や不動産といった贈与の目的物の引渡しが済んでいれば、書面によらない贈与であっても、原則として確定的に有効です。
ただし法的には認められるとしても、契約書を作成せずに生前贈与を行うことには、次のようなデメリットがあります。トラブルを避けるためには、贈与契約書を作成することが望ましいでしょう。
贈与契約書を作成しないと、贈与の時期や金額、方法などについて、贈与者(贈与をした人)と受贈者(贈与を受けた人)の認識がずれてしまうおそれがあります。贈与が実行されても、その後に贈与者と受贈者が揉めてしまい、深刻なトラブルに発展するケースも少なくありません。
贈与契約書を作成すれば、贈与の内容や条件について、贈与者と受贈者の間で明確に認識を共有できます。その結果、贈与に関するトラブルのリスクを抑えられます。
贈与契約書が存在しない場合、過去に行われた生前贈与の内容の検証が困難です。
そのため相続が発生した際に、受贈者とほかの相続人の間でトラブルが生じやすくなります。たとえば生前贈与について、受贈者がほかの相続人から「もっともらったのではないか」「別の機会にも贈与を受けたのではないか」と疑われ、相続トラブルが深刻化する事態になりかねません。
贈与契約書を作成しておけば、生前贈与の内容が明確になるため、上記のようなトラブルの回避に繋がります。
相続税対策を目的として生前贈与を行う場合は、贈与契約書を締結する必要性が高いです。贈与契約書を作成しないと、税務調査で相続税対策を否認される可能性が高まります。その場合、名義預金と判断されて相続税が課されたり、定期贈与と判断されて、贈与税が課されたりします。
ただし税務調査では、契約書の有無だけでなく、贈与の実態が伴っているか否かが重点的に調査されます。贈与契約書を作成していても、贈与が否認されるケースはあるので、税理士などのアドバイスをふまえて適切な対策を講じましょう。
過去の贈与について、贈与契約書を作成していない場合には、早めに以下のいずれかの対応を行うことが望ましいです。
覚書と贈与契約書は、どちらも法的な合意書面であり、その効力に差はありません。どちらかを適宜選択して作成しましょう。
1つ目の対処法としては、過去に行った贈与を確認する旨の覚書(確認書)を締結することが考えられます。
覚書(確認書)には、以下の事項を記載しましょう。
① 過去に行われた贈与の内容
(例)金銭の贈与であれば、金額や日付、振込先口座の情報などの贈与の方法
② ①が贈与者の受贈者に対する贈与である旨の確認
覚書(確認書)のサンプルを紹介しますので、適宜アレンジしてご利用ください。
2つ目の対処法としては、過去にさかのぼって贈与契約書を締結することが考えられます。
過去の贈与について贈与契約書を作成する際には、以下の事項を記載しましょう。
① 贈与の内容
(例)甲は乙に対して、○年○月○日(以下「実行日」という。)付で、金○○万円を贈与する。
② 贈与日にさかのぼって契約書が効力を生じる旨
(例)本契約書は、実行日にさかのぼって効力を生じるものとする。
贈与契約書を作成する際のポイントについては、以下の記事も併せてご参照ください。
【関連】ひな型付きで解説! 生前贈与をするなら贈与契約書は作るべき? 書き方と注意点
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相続の相談が出来る税理士を探す相続トラブルの予防や税務調査などに備えて、過去にさかのぼって贈与契約書を作成する際には、以下の3点にご留意ください。
過去にさかのぼって贈与契約書を作成することは、贈与の事実と契約書の内容が整合していれば特に問題ありません。
贈与契約書を作成する際には、実際に行われた贈与の内容をよく確認して、その内容を正しく反映しましょう。
税務調査が来ることがわかり、慌てて贈与契約書を作成するような場合には、贈与者の承諾を得ず勝手に作成するケースがしばしば見られます。
受贈者が贈与者に無断で贈与契約書を作成する行為は「有印私文書偽造罪」に該当し、「3か月以上5年以下の懲役」に処されます(刑法159条1項)。贈与契約書を作成する際には、必ず贈与者の承諾を得て、贈与者と共同で作成しましょう。
贈与の時期や方法によっては、課される税金の金額や税目が変わる場合があります。
納付すべき税金を少なくしようとして、事実と異なる内容の贈与契約書を作成した場合は、税務調査によって「重加算税」が課されることがあるので要注意です。
国税庁による令和3事務年度における相続税の調査等の状況p1(国税庁)によれば、令和3事務年度においては、相続税の実地調査(税務調査)が行われた6317件のうち、858件(15.5%)に重加算税が課されています。
重加算税を避けるためにも、事実と異なる贈与契約書を作成することは厳に慎みましょう。
相続対策として生前贈与を行う際には、以下の各点にご注意ください。
贈与の証拠を残すためには、贈与契約書の作成に加えて、記録が残る形で贈与を行うことが望ましいです。きちんと贈与を記録化しておくことが、後のトラブルの予防につながります。
現金の手渡しなどではなく、たとえば銀行振込などの方法による贈与をご検討ください。
税務調査の際に生前贈与を否認されるパターンの代表例が、「名義預金」と「定期贈与」です。
①名義預金
名義預金とは、受贈者名義の銀行口座に振り込んだ贈与金が、実質的に贈与者のものであると判断されることを言います。名義預金には、相続税が課されてしまいます。
特に、銀行口座を受贈者が管理していた場合には、名義預金と判断される可能性が高いです。
②定期贈与
定期贈与とは、毎年一定額の贈与をする旨を、受贈者と贈与者があらかじめ合意していたと判断されることを言います。定期贈与については、合意時点でその総額につき贈与税が課されます。
贈与契約書を作成せず、毎年同じ時期に一定額を贈与していると、定期贈与と判断される可能性が高いです。
名義預金や定期贈与とみなされた場合、相続税対策が無駄になってしまいます。税理士などのアドバイスをふまえて、名義預金や定期贈与と判断されないように対策を講じましょう。
相続開始前3年以内に行われた生前贈与は、相続税の課税対象となります。2024年1月1日以降に行われた生前贈与については、相続開始前7年分まで相続税の課税対象が拡大されます。
贈与税の非課税枠を利用して行われた生前贈与(=暦年贈与)についても、上記の期間内に行われたものについては、相続税が課される点にご注意ください。
贈与税の非課税枠を利用した生前贈与(=暦年贈与)は、相続税対策として効果的です。しかし、より効果的に相続税対策を行うためには、複数の方法を組み合わせて用いることが推奨されます。
一例として以下の対策が考えられます。適切な対策は個々の事情によって異なるため、税理士などにご相談ください。
相続時精算課税制度を利用する
小規模宅地等の特例を利用する
配偶者の税額の軽減を利用する
遺言書を作成して、相続税が軽減されるように相続分を指定する
不動産を購入して、相続財産の評価額を減らす
生前贈与について贈与契約書を作成しなかった場合は、後の相続や税務調査などに備えて、今からでも覚書(確認書)や贈与契約書を作成することをお勧めします。
ただし、過去にさかのぼって贈与の書面を作成する際には、事実との整合性をきちんとチェックすることが大切です。書面に不備があるとトラブルのリスクが高まるので、弁護士などの専門家にご相談ください。
(記事は2023年8月1日時点の情報に基づいています)
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