「相続対策にマンション購入がいい」と言われるわけ 税理士が注意点を解説
「相続対策にマンションを購入するといい」と聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。その理由はなぜでしょうか。また、その場合の注意点は何ででしょうか。税理士が解説します。
「相続対策にマンションを購入するといい」と聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。その理由はなぜでしょうか。また、その場合の注意点は何ででしょうか。税理士が解説します。
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相続対策にマンション購入がいいといわれる理由は、相続税を計算するための評価の仕組みを理解するとよくわかります。
現金や預金は1億円所有していれば1億円で評価します。
一般的にマンションは土地と家屋を分けて評価をします。
●土地の評価
土地の評価は、路線価方式又は倍率方式による評価方法があります。
路線価方式は「路線価×一定の補正率×地積」で評価しますが、
路線価は売買価格の目安とされる公示価格の80%相当が目安です。
また、倍率方式は「固定資産税評価額×一定の倍率」で評価しますが、
固定資産税評価額は公示価格の70%相当が目安です。
●家屋の評価
家屋の評価は、「固定資産税評価額×1.0」で評価しますが、
固定資産税評価額は時価の50%~70%が目安です。
つまり、1億円の価値のある財産を所有していれば、現金よりもマンションを購入した方が評価を下げることができます。
マンションが賃貸用だとさらに評価額が下がります。
●貸家建付地(土地)の評価
土地の場合、「自用地の評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)」で評価します。
借地権割合は地域により30~90%(概ね60~80%地域が多い)で設定されています。また、借家権割合は全国一律30%で設定されています。つまり、賃貸用の土地は
自用地の評価額の8割前後で評価されます。
●貸家(家屋)の評価
家屋の場合、「自用家屋×(1-借家権割合×賃貸割合)」で評価します。つまり、賃貸用の家屋は、
自用家屋の70%で評価されます。
小規模宅地等の特例を適用するとさらに評価額が下がります。
自宅用としてマンションを購入した場合は、一定の要件のもと、土地の評価額に対して330㎡まで80%減額できます。また、賃貸マンションとして購入した場合は、一定の要件のもと、土地の評価額に対して200㎡まで50%減額できます。複数の不動産を所有している場合や不動産を取得する相続人の状況により必ずしも適用できるとは限らないので、小規模宅地等の特例まで含めて相続対策を検討している方は、税理士にご相談ください。
事例を用いて、現金1億円を所有している場合と1億円で賃貸マンションを購入する場合で相続税の比較をしてみましょう。
・相続人は長男1人(基礎控除3600万円)
・被相続人は現金1億円のみ所有
≪相続税の計算≫
(1億円-3600万円)×30%-700万円=1220万円
● 相続人は長男1人
● 被相続人は1億円で賃貸マンション(建物6000万円、土地4000万円(持分考慮後の敷地面積40㎡))を購入
● 自用地の相続税評価額は時価の80%、自用家屋の相続税評価額は時価の60%
● 借地権割合は70%、借家権割合は30%、賃貸割合は100%
● 小規模宅地等の特例の要件を満たす
≪相続税の計算≫
(1264万円(土地)+2520万円(建物)-3600万円)×10%=18.4万円
「借金をしてマンションを購入することにより相続税を減らすことができます」という情報がよくあります。借金は「債務控除」としてマイナスの財産になるため、借金の分だけ相続税を減らすことができると思われがちですが、実際に減るかどうかはその方の財産の状況によります。
※賃貸マンションの価値及び評価額は前述と同様のものとして考えます。
1億円の借金ができますが、相続財産は1億円で賃貸マンションを購入した場合と変わらず3784万円となります。
1億円の借入で賃貸マンションを購入することにより財産よりも借金の方が多くなるため、相続税がかかりません。
※借金が財産よりも多い場合は小規模宅地等の特例は適用しませんが、比較するために便宜的に小規模宅地等の特例適用後の金額で比較しています。
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相続の相談が出来る税理士を探す賃貸マンションを所有すれば基本的に毎月安定した家賃収入を得ることができます。年金だけでは老後資金が不安であれば、家賃収入から安定的な老後資金を確保することができます。
サラリーマンの場合、不動産所得がマイナスのときは給与所得のプラスと損益を通算して所得税を節税することができます。
自己資金でマンションを購入する場合、相続税の節税ができても相続税の納税資金が不足する可能性があるため注意が必要です。
1億円の現金を相続人で分割することは難しくありませんが、1億円で購入したマンションを相続人で分割することは容易くありません。そのため、マンションを誰が相続するかで揉める原因になることがあります。
賃貸マンションは空室リスクがあります。空室になると収支がマイナスになるだけでなく、相続税の評価の際にも借地権割合や借家権割合、小規模宅地等の特例が適用できなくなります。また、中古物件などは修繕などで想定外の出費を伴う可能性があります。
マンションの価値が下がれば希望の価格で売却できなかったり、借入がある場合には全額返済ができなかったりする場合があります。
賃貸マンションの購入は相続税が減少しますが、不動産所得がプラスになると所得税は増加します。そのため、トータル的に節税を検討したい場合は、相続税だけでなく所得税のことも含めて検討することをお勧めします。
相続対策によるマンション購入は税務当局が非常に注目しているところでもあります。最近の裁判で、上記のような評価方法が認められなかった事例があります。必ずしもマンションを購入したからといって評価が下がるわけではありませんので、相続対策でマンションを購入する場合は、物件の不動産としての評価も含めて税理士に相談してから購入することをお勧めします。
(記事は2021年8月1日時点の情報に基づいています)
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