贈与税の時効は原則6年 申告漏れがわかれば厳しいペナルティ

贈与を受けたにも関わらず申告せずに放置した場合、時効が成立して贈与税の負担を免れることができるのでしょうか、そんなことはありません。贈与税の申告漏れは、後から厳しいペナルティを受けかねない危険な行為です。元東京国税局国税専門官のライターがその訳を解説します。
贈与を受けたにも関わらず申告せずに放置した場合、時効が成立して贈与税の負担を免れることができるのでしょうか、そんなことはありません。贈与税の申告漏れは、後から厳しいペナルティを受けかねない危険な行為です。元東京国税局国税専門官のライターがその訳を解説します。
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贈与税の申告義務があるにも関わらず申告しなかった場合、国税局や税務署による税務調査を経て、贈与税の更正、決定、税を課する賦課決定(以下「課税処分」)を受ける可能性があります。ただし、法定申告期限から一定年数が経過すると、国税局や税務署は課税処分を行えません。国税局や税務署が課税処分を行える期間を「除斥期間」といいますが、より一般的な言葉にすると「時効」になります。この除斥期間は、ほとんどの税目では「法定申告期限の翌日を起算日として、原則5年」と定められています。
ところが、贈与税については、例外的に除斥期間が原則6年となっています。贈与税の法定申告期限は、贈与を受けた翌年3月15日(休日の場合は翌日)ですから、その翌日を起算日として、6年間は課税処分が行われる可能性があるということです。
さらに、「偽りその他不正の行為」によって税額を免れ、または還付を受けたことが明らかとなった場合、除斥期間が7年に延びます。贈与があったことを忘れた頃に課税処分を受ける可能性もあるので、注意が必要です。
そのような事態を避けるためにも、まずは贈与税の申告が必要となる条件を理解し、申告義務が生じたら確実に期限内申告を行いましょう。贈与税の申告方式には「暦年課税」と「相続時精算課税」がありますが、いずれの方式も、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日(休日の場合は翌日)の間に申告を行う必要があります。ただし、暦年課税の場合は年間110万円以内の贈与は非課税のため申告不要です。
なお、実際にお金の受け渡しがなかったとしても贈与税がかかるケースがあります。たとえば、無償または著しく低い対価で不動産の名義変更をした場合です。税務署は、こうした名義変更の情報を登記情報から把握しているため、贈与税の申告を怠ると申告漏れを指摘されるおそれがあります。
繰り返しますが、贈与税の申告が必要であるにも関わらず申告をしないと、最長で7年間は課税処分を受ける可能性があります。では、7年が経過しさえすれば、放っておいてもまったく問題ないのでしょうか? 実はそんなことはありません。なぜなら、贈与税ではなく、「相続税の申告漏れ」と判断されることもあるからです。
ここで、贈与について規定する民法549条の条文を見てみましょう。
「贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。」
この条文を見てわかるように、贈与が有効に成立するには、「贈与する人の意思表示」と「贈与を受ける人の受諾」が必要になります。したがって、「親が勝手に家族名義の預金口座を作って管理していた」「子が入院中の親の財産を勝手に引き出していた」といった場合、贈与として認められません。
こうなると、そもそも贈与はなかったわけですから贈与税はかからないのですが、新たに相続税の問題が生じます。たとえ子の名義の預金でも、親が支出・管理していて子がその存在を知らなかったのであれば、「実質的に親の財産である」と判断され、相続税の課税財産になってしまうのです。
国税庁では、税目別に申告や課税処分の統計を発表しています。平成30年度の贈与税調査の情報(統計年報)を見ると、平成30年中に行われた贈与について、50人が過少申告加算税を、3645人が無申告加算税を課されています(加算税の説明は後述)。ここから伺えるのは、「申告誤り」よりも、「無申告」に対する処分のほうが圧倒的に多いということです。
また、同統計年報には、過年分(平成29年以前)の贈与について、平成30年度に行われた課税処分の件数も示されています。593人が過少申告加算税、1万1754人が無申告加算税、64人が重加算税を課されています。これらの数値を見ると、平成30年中に行われた贈与に対する処分件数と比べて、過年分の贈与に対する処分件数のほうが多いことがわかります。この結果は、贈与税の申告漏れは、数年後に行われる相続税調査の過程で明らかになるケースが多いことと無関係ではありません。
贈与税のルールは相続税法の中で規定されており、「贈与税は相続税の補完税」と言われることもあります。贈与税と相続税はこのような関係にあることから、相続税調査を行う税務職員は、「生前贈与の検証は相続税調査において不可欠」という意識をもっています。死亡日から何年も遡って財産の移動状況を調べることも珍しくなく、こうして相続税だけでなく贈与税の申告漏れも明らかになるのです。
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相続の相談が出来る税理士を探す最後に、贈与税や相続税の申告漏れに対するペナルティについて説明します。本来の申告期限までに正しく申告をしていなかった場合、次表の通り加算税が賦課されます。
申告漏れのペナルティは上記の加算税だけにとどまりません。通常、正しい申告ができていなければ、納税もできていないことになります。納税の遅れに対しては、加算税とは別に「延滞税」が課されるため、さらなる税負担が生じます。このようなペナルティを避ける一番の方法は、正しく手続きを行うことです。贈与を行うのなら、贈与契約を交わすなどして当事者の合意の証拠を残しましょう。さらに贈与税の申告を正しく行い、相続税調査の際に困らないようにしましょう。転ばぬ先の杖として、税理士に相談するのも有効な手立てです。
(記事は2020年9月1日時点の情報に基づいています)
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