へそくりで貯めた4千万円に相続税がかかる!? 名義預金の怖~い話
「実録!税理士が語る相続税の怖~い話」シリーズでは、ベンチャーサポート相続税理士法人のベテラン税理士が、自身の経験も交えて、よくある相続トラブルについて解説します。 今回のテーマは、亡くなった本人以外の名義の銀行口座なのに、相続財産とみなされることがある「名義預金」についてです。どのような場合に相続財産とみなされるのか、事例とあわせて見ていきましょう。
「実録!税理士が語る相続税の怖~い話」シリーズでは、ベンチャーサポート相続税理士法人のベテラン税理士が、自身の経験も交えて、よくある相続トラブルについて解説します。 今回のテーマは、亡くなった本人以外の名義の銀行口座なのに、相続財産とみなされることがある「名義預金」についてです。どのような場合に相続財産とみなされるのか、事例とあわせて見ていきましょう。
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結婚してからずっと専業主婦だった寛子さん(75歳)。夫の正弘さん(享年80歳)と二人、これまでつつましく暮らしてきたそうです。昨年に正弘さんが亡くなり、半年ほど経った先日、税務署から「相続についてのお尋ね」という郵便物が届いたとのことで驚いて、当事務所へご相談に訪れました。
「夫はそんなにいい会社に勤めていたわけでもないし、遺してくれたのはたったの800万円です。どうして税務署からこんな手紙をもらうんでしょうか。」とおっしゃる寛子さんですが、正弘さんが生前に親から相続した自宅は、東京23区内にあり、土地の評価額だけでも5,000万円はあると思われます。相続税申告が必要となる可能性があるため、自宅以外の財産についても聞き取り調査を始めました。
読書が好きで、飼い犬の散歩を日課としていた正弘さん。お金のかかる趣味が特にあったわけではなく、年に1回、温泉旅行へ夫婦で行くのがたまの贅沢だったそうです。親から相続した自宅の建物はリフォームをしていますが、新築一戸建てを購入するより安い費用に抑えられているはずで、株や車といった興味もなかったとのこと。また、お子さんはおらず、生活費もさほどかかっていないようです。
しかし、財産はご自宅以外に、預貯金の800万円だけしか残っていません。
寛子さんに「毎月の生活費はどのようにされていましたか?」と尋ねたところ、毎月正弘さんの給料のほぼ全額を寛子さんが受け取り、食料品や光熱費など必要な生活費を支払った後、寛子さん名義の銀行口座に貯金していたというのです。
つまり、寛子さん名義の銀行口座に預けてあるお金は、正弘さんの給料だったのです。冠婚葬祭があったときや、毎年の楽しみである年1回の温泉旅行の費用などは、この寛子さんの銀行口座から出していたというのですが、口座を調べてみると、なんと4,000万円もの預金がありました。
寛子さんは20代前半で結婚し、これまで親から財産を相続したこともなく、正弘さんの収入だけで生活してきました。寛子さんもこの銀行口座のお金は、生活費として正弘さんから受け取ったものの残りと認識しています。要するに、この寛子さん名義の預金は寛子さんの財産ではなく、正弘さんの財産ということになります。
このことを説明すると、寛子さんはかなり戸惑われた様子。「私が必死で生活費を切り詰めて貯めてきたお金なのに、私のものじゃないなんて……。」
毎月の生活費を夫が妻に渡して、それを妻が管理することは一般的によくあることですが、だからといって妻の財産になるわけではありません。妻が夫から贈与を受けたことが明らかな場合は妻の財産となりますが、贈与はあげる側が「あげます」、もらう側が「もらいます」という双方の意思表示が必要です。
今回のケースは、寛子さんの預金は二人のための生活費として使用しており、贈与が成立していたとは言い難いのです。寛子さんの銀行口座にあるお金は「名義預金」と呼ばれる、口座の名義人と実質的所有者が異なる預金となります。そこで、この名義預金は、正弘さんの相続財産に含めて相続税を計算する必要があります。
「税金、いくらになってしまうのでしょうか……。」
相続税法には、配偶者の相続する財産額が1億6千万円または法定相続分までであれば、相続税がかからないとする制度「配偶者控除」があります。「夫の財産は妻の貢献、妻の財産は夫の貢献があって築き上げられたもの」という考えからです。ただし、相続税がかからないことが明らかである場合も、配偶者控除を適用するには相続税申告が必要となります。
寛子さんも相続税申告が必要ですが、他に法定相続人がいないため寛子さんがすべて取得しても相続税がかからないことをお伝えすると、ホッとしたご様子でした。
寛子さんのケースは生活費の残りを貯めておく、いわゆる「へそくり」が名義預金とみなされた事例でした。寛子さんの場合は預金を自分のお金と思い込んでいましたが、自分のものではないと分かっていた相談者の方もいらっしゃいました。
雅子さん(73歳)の夫である英雄さん(享年77歳)は、会社を退職した後も外注として仕事を請け負っており、安定した収入がありました。ある日、英雄さんの父親が亡くなり、多額の財産を相続したところ、その中に年間約40万円の駐車場収入がある土地もありました。英雄さんは収入が増えることで、所得税や住民税、国民健康保険の負担がこれ以上増えることを懸念し、駐車場を借りている人たちに賃料を雅子さん名義の銀行口座へ入金させました。しかし、確定申告書に自分の所得として記載していませんでした。
その後、英雄さんが亡くなり、当事務所で相続税申告と英雄さんの準確定申告(亡くなった人の確定申告)を請け負うことになりました。相続税申告のための現地調査で、駐車場としての使用を確認した土地があるものの、英雄さんの昨年の確定申告書には駐車場収入が計上されていませんでした。雅子さんに理由を尋ねると、駐車場収入が入金されている雅子さん名義の銀行口座のことは「秘密にするように」と英雄さんから言われていたと明かしました。
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相続の相談が出来る税理士を探す現地調査で駐車場としての使用を確認していても、準確定申告を請け負っていなかったら、駐車場収入用の名義預金の存在に私たちも気づかなかったでしょう。雅子さんには本来、この駐車場収入は英雄さん名義の銀行口座に入金して、英雄さんの収入として確定申告すべきものであること、たとえ雅子さん名義の預金であっても英雄さんの相続財産として計上すべきであることを説明しました。
雅子さんは恐らくそうだろうと気づいていたようです。私たちが名義預金の存在に気づかず、準確定申告書に駐車場収入を計上しないまま税務調査を受けた場合、雅子さんの返答内容から隠蔽とみなされて重加算税というペナルティを課される可能性がありました。この場合の重加算税は、なんと35%もの税率になります。相続税申告においても、この名義預金を相続財産として計上していなければ、所得税と同様、隠蔽とみなされるかもしれません。
さらに、相続税申告では、隠蔽または仮装されていた財産について、配偶者控除を適用することができません。これは意図的に相続財産から除き、その後の税務調査で指摘を受けたとしても配偶者が取得すれば相続税がかからずに済む、という悪知恵を防ぐためです。
雅子さんには、相続税申告で名義預金を相続財産として初めから計上すれば、配偶者控除を適用できるとご説明すると、この名義預金を申告することに同意しました(最終的に相続税申告と準確定申告に加えて、英雄さんの過去の所得税の修正申告も当事務所が請け負うことになりました)。
他人の持ち物に自分の名前を書いても自分のものにならないように、お金も自分の銀行口座に入金したからといって自分のものにはなりません。どのような経緯で銀行口座に入金されたお金なのか、その経緯が重要となります。
自分で働いて稼いだのか、相続したのか、贈与されたのか……。これらに当てはまらない場合、名義預金となる可能性が非常に高いといえます。ご家族の相続税の申告時には、あなたの銀行口座に入金されているお金は自分のものと言えるかどうか、改めて確認するようにしましょう。
(物語は2023年6月1日現在の情報と税理士の実際の体験に基づいた創作です)
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