夫からもらった生活費を入金した妻の口座も相続税の課税対象になるの?

相続税のルールには、一般の生活感覚では理解しがたいものもあります。そこには税務署独特の考え方(ルール)があるからです。このルールを知らずにいると余計な税金がかかってしまうことも!そうならないためには、是非その考え方を知っておいていただきたいと思います。今回は、夫からの生活費を妻の銀行口座に入れている家での相続における注意点を解説します。
相続税のルールには、一般の生活感覚では理解しがたいものもあります。そこには税務署独特の考え方(ルール)があるからです。このルールを知らずにいると余計な税金がかかってしまうことも!そうならないためには、是非その考え方を知っておいていただきたいと思います。今回は、夫からの生活費を妻の銀行口座に入れている家での相続における注意点を解説します。
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まず一番に知っておいていただきたいのは、税務署からみると「夫の稼いだお金は夫のものである」ということです。こんなことを言うと「夫の給料は、夫だけのものではない!」と非難を浴びそうですが、実際税務署はそう思っています。
もちろん、夫の稼いできたお金を勝手に使ってはいけないと言っているわけではありません。夫のお金でエステに行こうと、ブランドバッグを買おうと、海外旅行に行こうと、それが「扶養義務者の生活費をまかなう」という範囲であれば、税務署の関知するところではありません。
たとえ、妻のランチが3000円で、夫のランチが500円だったとしても、税務署は何も言いません。
では、どんな時に問題になるのか。U子さんご夫婦を例にみてみましょう。U子さんは専業主婦。子どもを2人育て上げました。夫は会社員です。家のローンを含め、お金の管理はすべてU子さんの仕事。夫の給与口座から毎月生活費を引き出し、それをU子さん名義の通帳に入れて、やりくりしています。そして、余ったお金で友達と旅行に行ったり、時には、お子さんやお孫さんにお小遣いをあげたりしています。
このようなご夫婦は、世の中にたくさんいらっしゃいますよね。U子さんのように、夫のお給料を引き出して自分名義の預金に入れ、そこから生活費として使っている行為自体は、何の問題もありません。前にも言いましたが、税務署は、こういった場合、預金の名義が妻だとしても、実際は夫の財産であると考えているからです。妻は財産の管理者であっても所有者ではないということ。ですから、この行為を「贈与だ」なんて言いません。
U子さん夫婦のような関係が問題になるのは、夫が亡くなった時の相続税の調査の時です。税務署は「U子さん名義の家計費通帳も亡くなった夫の財産で、相続税の対象だ」と言ってくるのです。特に問題になりやすいのは、妻やお子さん、お孫さんの名義の銀行預金や証券口座にたんまりとお金が残っているようなケース。実際、私が相続税の申告のお手伝いをしていると、夫の預金よりも妻の預金の方が多い、などという強者も少なからずいらっしゃいます。
しかし、妻たちはそんな言い分に納得できません。皆さん口をそろえて「これは夫の財産でなくて、私の財産です。夫にもらった少ない生活費をやりくりして貯めたお金です」などとおっしゃるのです。
私も妻ですから、その気持ちは痛いほどわかります。でも、税務署はそれを許してくれません。夫が稼いできたお金は、誰の名義になっていようと夫の財産であるというのが、税務署の基本方針です。
もし本当に「私のお金」ならば、そう主張すべきです。ただその場合は、「親からの相続や自分で稼いだもので、夫とは関係がない」ということ、もしくは「夫からもらった」と主張されるのなら、「贈与でもらった」ことを証明しなければなりません。
しかし贈与の証明となると、相続税の調査の時には「あげた」(と思われる)側の夫は既に亡くなっています。それゆえ贈与を証明するのはとてもむずかしいのです。
だいたい、「夫のお金は自分のお金」と思ってやりくりしてきているわけですから、「贈与」だったなんて認識はない人がほとんどでしょう。つまり、税務署ルールでいえば、間違いなく、その財産は夫のものだということです。それを知らずに、相続税の申告で妻名義の預金を相続財産として申告していなければ、後からペナルティが科されてしまうのです。
相続税が少しでもかかりそうであり、そして妻に渡った生活費を相続税の対象にしたくないというのであれば、夫婦間であっても、いつの時点で財産の移転=「贈与」があったのかをはっきりさせておくことが肝心です。
「夫婦間でそんな、水くさいことをするなんて」などと言わず、たとえ夫婦間でも、贈与があったかどうかをはっきりさせ、贈与があったら証拠を残す。これが、一般常識では測れない、税務署のルールから身を守る方法なのです。
では、具体的にどう証拠を残せばいいのでしょうか。おススメなのが「生活費で残った分は妻に贈与する」という契約書を作る方法です。ただし、年間110万円を超える贈与を受けた場合には贈与税の申告が必要です。その場合「なんだ、生活費は余っているのか」と、ご主人に生活費自体を減らされてしまうリスクもあるので、くれぐれも注意してください!
(記事は2021年2月1日現在の情報に基づきます)
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