目次

  1. 1. 夫婦間であっても資金移動には贈与税がかかるのが原則
  2. 2. 夫婦間のお金のやりとりで贈与税がかからないケースもある
    1. 2-1. 生活費・教育費
    2. 2-2. 年間110万円以内
  3. 3. 「名義預金」として相続税の課税対象になることも
  4. 4. 事例で考える|夫が稼いだお金は夫だけのもの?
    1. 4-1. 夫の給与を移しても、生活費にあてるのであれば問題なし 
    2. 4-2. 夫の死亡時に問題が! 妻の口座も相続税の課税対象になる
    3. 4-3. 「贈与でもらった私のお金」を証明できるか?
    4. 4-4. 夫婦間の生活費でも証拠として「贈与契約書」を作成する
  5. 5. まとめ

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贈与税とは、個人が別の個人から無償で財産を取得したときにかかる税金です。両者の関係が夫婦であっても、原則として贈与税がかかります。親子でも兄弟でも同様です。

このため、夫の銀行口座から妻の口座へお金を移した場合も、贈与税の対象となります。

ただし、夫婦間であっても贈与税がかからないケースもあります。

夫婦や親子、きょうだいなどの扶養義務者から生活費や教育費にあてるために取得した財産で、通常必要と認められるものについては、贈与税の対象にはなりません。

贈与税には年110万円の基礎控除があるので、年間で110万円以内であれば、夫婦間で財産のやりとりがあっても、基本的に贈与税はかからず、申告も不要です。ただし、贈与税は1年間にもらった財産の合計額が対象となるので、夫から妻へ財産の移転が110万円以下でも、妻がほかの人からも贈与を受けて合計が110万円を超えると贈与税がかかるので、注意が必要です。

「名義預金」とは、口座の名義人と実際にお金を預金している人が違う預金のことをいいます。夫の口座から妻の口座へお金を移して生活費として使っている場合、贈与税の対象にはならないと説明しましたが、夫が亡くなった場合には、相続税の対象となることがあるので要注意です。名義は違っても、実質的に亡くなった夫の財産とみなされるためです。

【関連】名義預金は相続税がかかる? 判断基準からペナルティ、時効、対策方法まで紹介

以上見てきたように、夫の口座から妻の口座へのお金のやり取りは、生活費や教育費のためであるか、妻がその年に贈与された合計金額が110万円以下であれば、贈与税の対象にはなりません。一方で、夫が亡くなった場合には、妻の口座や名義預金とみなされて相続税の対象になることがあります。

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以下では、夫からの生活費を妻の銀行口座に入れているU子さんご夫婦を例に考えてみましょう。

U子さんは専業主婦。子どもを2人育て上げました。夫は会社員です。家のローンを含め、お金の管理はすべてU子さんの仕事。夫の給与口座から毎月生活費を引き出し、それをU子さん名義の通帳に入れて、やりくりしています。そして、余ったお金で友達と旅行に行ったり、時には、お子さんやお孫さんにお小遣いをあげたりしています。

このようなご夫婦は、世の中にたくさんいらっしゃいますよね。まず一番に知っておいていただきたいのは、税務署からみると「夫の稼いだお金は夫のものである」ということです。こんなことを言うと「夫の給料は、夫だけのものではない!」と非難を浴びそうですが、実際税務署はそう思っています。

U子さんのように、夫のお給料を引き出して自分名義の預金に入れ、そこから生活費として使っている行為自体は、何の問題もありません。税務署は、こういった場合、預金の名義が妻だとしても、実際は夫の財産であると考えているからです。妻は財産の管理者であっても所有者ではないということ。ですから、この行為を「贈与だ」なんて言いません。

U子さん夫婦のような関係が問題になるのは、夫が亡くなった時の相続税の調査の時です。税務署は「U子さん名義の家計費通帳も亡くなった夫の財産で、相続税の対象だ」と言ってくるのです。特に問題になりやすいのは、妻やお子さん、お孫さんの名義の銀行預金や証券口座にたんまりとお金が残っているようなケース。実際、私が相続税の申告のお手伝いをしていると、夫の預金よりも妻の預金の方が多い、などという強者も少なからずいらっしゃいます。

しかし、妻たちはそんな言い分に納得できません。皆さん口をそろえて「これは夫の財産でなくて、私の財産です。夫にもらった少ない生活費をやりくりして貯めたお金です」などとおっしゃるのです。

私も妻ですから、その気持ちは痛いほどわかります。でも、税務署はそれを許してくれません。夫が稼いできたお金は、誰の名義になっていようと夫の財産であるというのが、税務署の基本方針です。

もし本当に「私のお金」ならば、そう主張すべきです。ただその場合は、「親からの相続や自分で稼いだもので、夫とは関係がない」ということ、もしくは「夫からもらった」と主張されるのなら、「贈与でもらった」ことを証明しなければなりません。

しかし贈与の証明となると、相続税の調査の時には「あげた」(と思われる)側の夫は既に亡くなっています。それゆえ贈与を証明するのはとてもむずかしいのです。

だいたい、「夫のお金は自分のお金」と思ってやりくりしてきているわけですから、「贈与」だったなんて認識はない人がほとんどでしょう。つまり、税務署ルールでいえば、間違いなく、その財産は夫のものだということです。それを知らずに、相続税の申告で妻名義の預金を相続財産として申告していなければ、後からペナルティが科されてしまうのです。

相続税が少しでもかかりそうであり、そして妻に渡った生活費を相続税の対象にしたくないというのであれば、夫婦間であっても、いつの時点で財産の移転=「贈与」があったのかをはっきりさせておくことが肝心です。

「夫婦間でそんな、水くさいことをするなんて」などと言わず、たとえ夫婦間でも、贈与があったかどうかをはっきりさせ、贈与があったら証拠を残す。これが、一般常識では測れない、税務署のルールから身を守る方法なのです。

では、具体的にどう証拠を残せばいいのでしょうか。おススメなのが「生活費で残った分は妻に贈与する」という「贈与契約書」を作る方法です。ただし、年間110万円を超える贈与を受けた場合には贈与税の申告が必要です。

その場合「なんだ、生活費は余っているのか」と、ご主人に生活費自体を減らされてしまうリスクもあるので、くれぐれも注意してください!

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夫の口座から妻の口座へお金を移して家計をまわすことが贈与税の対象になることは、通常はありません。ただし、夫が先立った場合に、妻の口座にあるお金が夫の財産として相続税の課税対象になることがあります。

少しでも不安に感じることがあれば、早めに税理士に相談することをお勧めします。

(記事は2023年4月1日時点の情報に基づいています)

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