相続税の追徴課税とは? よくあるケース、税率、納税の負担を減らす方法を解説
相続税の税務調査を受けた世帯の約9割が、本来納めるべき税金との差額を支払う追徴課税の対象となっています。状況によっては、納税できないほど多額の納税を求められる可能性もあります。元国税専門官のライターが、相続税調査で追徴課税を受けやすいケースや税務調査に選ばれやすい家庭、追徴課税を支払えない場合の対処法を紹介します。
相続税の税務調査を受けた世帯の約9割が、本来納めるべき税金との差額を支払う追徴課税の対象となっています。状況によっては、納税できないほど多額の納税を求められる可能性もあります。元国税専門官のライターが、相続税調査で追徴課税を受けやすいケースや税務調査に選ばれやすい家庭、追徴課税を支払えない場合の対処法を紹介します。
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相続税の申告誤りなどが想定される場合、税務署により税務調査が実施されます。税務調査の結果、何らかの問題が発覚した場合、本来納めるべき税金に加え、それとの差額である追徴課税がかかることがあります。
税務署が被相続人(以下「亡くなった人」)の自宅などに出向き、税務調査を行うことを「実地調査」といいます。2022年12月に国税庁が発表した「令和3事務年度における相続税の調査等の状況」によると、1年間に全国で相続税の実地調査が6317件実施され、そのうち5532件で、相続税の申告漏れなどの違法行為が指摘されています。
つまり、実地調査を受けた家庭では、約87.6%もの割合で申告誤りなどが指摘されたということです。追徴課税の金額は実地調査1件につき平均886万円に上っており、少なくない税負担が生じていることがわかります。
相続税の申告漏れや納税漏れが明らかになった場合、本税の不足分はもちろん、追徴課税も納める必要があります。追徴課税には複数の種類がありますので、それぞれ確認しておきましょう。
本来申告すべき税額よりも少ない税額で申告を行った場合、不足額に応じて「過少申告加算税」がかかります。過少申告加算税の税率は10〜15%ですが、自主的に修正申告を行った場合は免除されます。
無申告加算税は、申告期限までに申告を行っていなかった場合の追徴課税です。本来の税額のうち50万円までは15%、50万円を超える税額に対しては20%をかけて、無申告加算税を計算します。自主的に期限後申告をした場合は、無申告加算税の税率が5%に軽減されます。
意図的に財産を隠すなどした場合、過少申告加算税や無申告加算税に代えて重加算税がかかります。重加算税の税率は、過少申告に対するものは35%、無申告に対するものは40%という高い税率になっています。
ここまでに説明した加算税は、申告の不備に対する追徴課税です。これに加え、納税が遅れたことに対する追徴課税として課されるのが延滞税です。延滞税は「納税が遅れた金額」と「遅れた日数」に応じて計算するため、納税が遅れるほど増えていきます。延滞税の税率は、納期限の翌日から2カ月以上遅れると税率が高くなるしくみになっています。
私が国税職員だったころ、税務調査で指摘される内容はある程度パターン化していました。以下は税務調査で特に目をつけられやすいポイントのため、申告書を提出する前に問題がないか確認しておきましょう。
相続が発生すると、亡くなった人の預金口座が凍結されます。そのため、葬儀費用などに備えて死亡直前に多額の現金が引き出されることがありますが、相続開始時点で引き出した現金が残っているならば相続税申告書に計上しなくてはいけません。税務署は特に死亡直前のお金の動きをチェックするため、こうした現金の申告漏れはすぐに発覚します。
相続税調査では、亡くなった人名義だけでなく、家族名義の財産のチェックも行います。これは、家族名義の預金などでも、実質的に亡くなった人のものと判断できるケースがあるからです。たとえば亡くなった人が生前に勝手に妻名義の口座を作って、そこに多額のお金を貯めていたような場合は、こうした預金は名義預金として相続税申告書に計上しなくてはいけません。
亡くなった人が不動産を所有していた場合、評価計算を行ったうえで相続税申告書に記載します。この評価計算を誤った結果、相続税が本来よりも低い金額になってしまうケースは少なくありません。不動産は高額になりやすいので、ちょっとしたミスが税額に大きく影響するおそれがあるのです。
相続税申告書をつくるときに、特に判断が難しいのが保険です。保険契約者や被保険者、保険金の受取人などの状況によって、税金の取り扱いが変わります。「相続税の対象にならない」と思っていた保険が実は課税対象ということがあるので、慎重に確認しましょう。
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相続の相談が出来る税理士を探す相続税の税務調査や追徴課税のリスクは、ルールを知ることで避けることができます。特に次の3点は重要です。
最初から正しい内容で相続税申告と納税をしておけば、追徴課税を受けることはありません。そのためには、相続財産を正しく把握し、漏れなく申告をする意識が大切です。たとえ自身が認知していない相続財産があったとしても、税務調査で発覚すると追徴課税の対象となるおそれがあります。家族名義の預金や保険なども慎重に検討し、申告すべきものは漏れなく申告しましょう。
相続税申告書を提出した後に申告漏れに気づいた場合は、できるだけ速やかに正しい内容で修正申告をしましょう。税務署から調査通知が来る前に自主的に修正申告をすれば、過少申告加算税はかかりません。逆に、税務調査で申告漏れを指摘されるまで放置すると、加算税や延滞税を負担することになります。最悪の場合、「意図的に財産を隠していた」と判断されて重加算税の対象となってしまいます。
相続税の期限までに遺産分割が完了しそうになければ、未分割の状態でもいったん申告書を作成し、期限内に申告と納税を済ませておくことをお勧めします。こうすることで期限内の申告と納税を済ますことができ、追徴課税を避けられます。
なお、未分割で相続税申告を行うと、「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」が使えないので納税額は多くなります。ただし、当初の相続税申告書と合わせて「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておけば、遺産分割協議が終わったあとで特例を使って相続税の申告をやり直せます。申告については、国税庁の「[手続名]相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続」も参考にしてみてください。
納税義務は、たとえ自己破産をしても免除されません。追徴課税の督促が来ても支払えなければ、財産の差し押さえが実施される可能性があります。督促がなされてから財産が差し押さえられるまでの期間はケースバイケースで、3カ月の場合もあれば、1年以上の場合もあり、最終的には強制的に財産を売却されます。そのような事態を避けるための対処法を紹介します。
換価の猶予とは、すでに差し押さえられている財産や、今後差し押さえの対象となりうる財産の換価処分(公売)を猶予し、分割納付を認めるという制度です。この制度を利用するには、次のすべての条件を満たす必要があります。
差し押さえを避けるために、金融機関などからお金を借りて滞納税額を支払う方法も、検討の余地があります。ただし、必要な資金を借りられるとは限らず、借りられたとしても金利の負担が生じるので、注意が必要です。
原則として本人が支払います。ただし、相続税には「連帯納付義務」というルールがあり、本人に代わってほかの相続人が納税を求められる可能性があります。本人が相続税を支払わず、督促に応じないような場合、一緒に相続した人に督促がいきます。
相続税の税務調査の時期は申告後、1~2年が目安です。相続税調査が終わると、申告誤りなどの状況に応じて、速やかに追徴課税の通知が行われます。
相続税の追徴課税が行われたことに不服がある場合は、処分を行った税務署長や国税局長に対して「再調査の請求」を行う、もしくは国税不服審判所長に対して「審査請求」を行う、という方法で処分の正当性を検証してもらえます。いずれの手続きも、原則として処分の通知を受けた日の翌日から3カ月以内が期限となっています。
税務署が課税処分を行えるのは、「法定申告期限の翌日を起算日として、原則5年」と定められています。ただし、「偽りその他不正の行為」によって税額を免れ、または還付を受けた場合、この期間が7年に延びます。
相続税は、ほかの税金よりも税務調査で申告誤りを指摘されやすく、多額の追徴課税がかかるおそれがあります。そのようなことのないように、正しい内容で申告をすることを心がけるとともに、納税資金の準備も意識しておくことが大切です。相続税に関して不安があれば、早めに税理士に相談をしておくと良いでしょう。
(記事は2023年5月1日時点の情報に基づいています)
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