目次

  1. おしどり贈与の仕組みと配偶者のメリット
  2. おしどり贈与のデメリット
  3. 遺言書作成のほうが効果的なケースも

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「おしどり贈与を利用して、相続税の負担を軽くすることはできますか」

東京都在住の専業主婦の女性(65歳)が、少し不安そうな表情で事務所を訪れました。高齢の夫(70歳)のことを思い、家族の将来のためいざという時に備えておきたい――そんな気持ちからの相談です。

きっかけは、インターネットで見かけた「おしどり贈与」という制度の記事でした。自宅の土地や建物を夫から自分へ生前に贈与すれば、将来の相続財産を減らして相続税の負担を軽くできるのではないか。ご夫婦で築いてきた大切な住まいを、これからも守り続けたいという思いが込められていました。

おしどり贈与は長年連れ添った夫婦に認められる特例で、将来の家族のために財産を守る節税対策として非常に有効な対策です。ただし、実際に利用する際にはいくつか注意すべき点もあります。今回は、この制度の仕組みとポイントについて解説します。

おしどり贈与は、長年連れ添った配偶者の生活を保障し、夫婦で築き上げた財産への貢献を考慮する趣旨の制度で、婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用の不動産やその購入資金を贈与する際に利用できます。

贈与税の基礎控除110万円とは別に、最大2000万円まで非課税で贈与できるため、将来の相続財産をあらかじめ減らすことで相続税の負担を軽くする効果が期待できます。ただし、贈与を受けた年の翌年3月15日までに居住を開始することなど、一定の要件を満たす必要があります。

一方で、長年連れ添った配偶者を守るために相続税の負担を軽減する優遇措置は、おしどり贈与以外にも用意されています。具体的には、配偶者が相続した財産にかかる相続税については、法定相続分または1億6000万円のいずれか多い金額までは非課税です。さらに、自宅敷地については「小規模宅地等の特例」により、土地の評価額を最大80%減額できます。これらを活用すれば、おしどり贈与を利用しなくても相続税がかからないケースは少なくありません。

したがって、ご主人の財産が法定相続分や1億6000万円を超える場合には、おしどり贈与によって生前に財産を移すことで相続税の圧縮が可能になります。さらに将来の子への相続(二次相続)を見据える場合にも有効です。単なる節税にとどまらず、ご夫婦の財産を最適な形で次世代に引き継ぐための一つの選択肢となります。

【関連】小規模宅地等の特例とは? 適用要件から計算例、必要書類までわかりやすく解説

「おしどり贈与」には、いくつか注意点があります。まず、不動産の名義変更には不動産取得税や登録免許税がかかりますが、これらは相続時の名義変更より税率が高く、結果的にコストが増える可能性があります。

また、贈与を受けた配偶者が先に亡くなった場合には、他の相続人との遺産分割協議の内容によっては、贈与した財産が贈与した配偶者の元に戻ってしまうこともあります。その場合、名義変更にかけた費用や時間が無駄になるリスクがある点にも留意が必要です。

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相談者の夫の財産は約5000万円ほどとのことでした。この金額であれば、配偶者には1億6000万円まで相続税がかからない優遇規定があるため、「おしどり贈与」を使う必要はありません。

私は相談者にこうお伝えしました。

「おしどり贈与を利用するよりも、将来に備えて遺言書を作成されることをお勧めします。ご夫婦で築いてこられた大切なご自宅を、将来も安心して守り続けるために、奥様が確実に取得できるよう遺言に明記しておくのが最も確実な方法です」

おしどり贈与のデメリットを考慮すると、今回のケースではむしろ遺言書の作成こそが、夫婦の思いを叶えつつ無駄な費用を避ける最善策でした。インターネットの情報だけで判断すると、後から「こんなはずではなかった」と後悔しかねません。特例や控除を正しく理解し、ご自身の状況に合った方法を選ぶためにも、相続に詳しい専門家へ相談することを強くお勧めします。

(記事は2025年9月1日時点の情報に基づいています。物語は税理士の実体験に基づいた創作です)

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