相続人名義の財産にも税務調査

税務署勤務時代、私は主に相続税の調査を担当し、相続人の自宅に出向いてお話を伺うことが何度かありました。その際、まずは被相続人に関するお話を聞くのですが、その後に必ず聞いていたのが、相続人の収入や財産でした。被相続人だけでなく、相続人の通帳を見せてもらうこともありました。

本来、相続税は被相続人が遺した財産に対して課せられます。相続人の収入などを聞く必要はないと思われるかもしれません。しかし、相続税調査は、相続人の情報も重要な判断要素なのです。なぜなら、被相続人の財産が相続人に流れていないかを確認しなくてはならないからです。

具体的に例を挙げます。わかりやすいのは、「●月●日に、被相続人の口座から現金300万円が出ている」という情報を確認したうえで、「●月●日以後、相続人の口座に300万円が入金されていないか?」ということを確認するようなケースです。

このような場合、生前贈与で支払われたのか、税逃れのために資金を動かしたのか、または他の理由があったのか、といったことを確認することになります。

相続税対象となる「名義預金」とは

相続税の調査では、たとえ被相続人の預貯金に目立った動きがなかったとしても、相続人の預貯金が調べられることがあります。それは「名義預金」の問題があるからです。

名義預金という言葉に法律上の定義はありません。ですが、要は「名義は違うものの、実質的に被相続人の財産」と認められる預金のことです。たとえば、相続人の名義で開設した口座であっても、被相続人の財産として相続税の対象となることがあります。

名義預金か否か、判断基準は

それでは、具体的にどのような場合に名義預金と判断されるのでしょうか?過去の判例によると、以下の4点を総合的に勘案して判断します。以下、ポイントを整理しました。

1 財産の資金源は何か

⇒被相続人がお金を出したのでは?

2 生前贈与がなされたものか

⇒適切に相続人に生前贈与されていれば、名義預金ではない。

3 その財産の管理及び運用を誰がしていたか

⇒被相続人が通帳などの管理・運用をしていたのか?

4 財産から生ずる利益を誰が享受していたか

⇒被相続人が利息や配当などを享受していなかったか?

これらの要素を踏まえて調査しますが、名義預金の判断は簡単にできるわけではありません。たとえば、資金の動きを見るにしても、数年前ならまだしも、何十年前まで遡って確認するのは現実的には難しいでしょう。

そのため、相続人名義の預金について「どのように蓄えたのか?」という観点から聞き取り調査を行うこともあります。

たとえば、結婚してからずっと専業主婦(夫)だった相続人が、数千万円もの預金をもっていたような場合をイメージしてください。こうしたケースは名義預金の疑いがあるため、その資金の出どころなどを確認することになります。

名義預金は申告漏れの可能性も

名義預金は、申告漏れとなるケースが少なくありません。国税庁がウェブサイトに掲載している「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集」の事例⑥においても、以下のような注意が書かれています。

「名義にかかわらず、被相続人が取得等のための資金を拠出していたことなどから被相続人の財産と認められるものは相続税の課税対象となります。したがって、被相続人が購入(新築)した不動産でまだ登記をしていないものや、被相続人の財産と認められる預貯金、株式、公社債、貸付信託や証券投資信託の受益証券等で家族の名義や無記名のものなどの被相続人名義以外のものも、相続税の申告に含める必要があります」

相続税の対象となる財産は、名義だけで判断できるものではありません。名義預金だけでなく、不動産や株式などでも、実質的に被相続人の財産と認められるものがあれば、名義によらず相続税申告に含める必要があるのです。

それでは最後に、名義預金と判断されないために、やっておいたほうがいいことを紹介します。

生前贈与と書類保管が対策に

名義預金の判断条件を踏まえると、もっともシンプルな対策は、被相続人から相続人にお金を動かすときは、きちんと生前贈与するということになります。贈与契約書を結び、贈与税の申告をしておけば、法律上その財産は相続人のものです。名義預金と判断されることはありません。

また、自分の収入や自分が得た財産に関する情報も、できるだけ残しておいたほうがいいでしょう。たとえば、専業主婦(夫)の方でも、自分名義の預金が「独身の頃の収入」「パートで貯めたお金」「実家からの相続」といった事実が明らかであれば、名義預金の疑いを避けられます。

そのためにも、通帳や源泉徴収票、実家から相続した際の遺産分割協議書など、自分名義の財産に関わる書類は、できるだけ保管しましょう。そして、家族の財産の分が混ざらないように、書類を整理しておくことが大切です。

(記事は2020年2月1日時点の情報に基づいています)