目次

  1. 1. 相続人名義の財産にも税務調査が入る
  2. 2. 名義預金とは
  3. 3. 名義預金であるかの判断基準
    1. 3-1. 財産の資金源はどこか
    2. 3-2. 生前贈与が成立していたか
    3. 3-3. 預金口座を誰が管理していたか
    4. 3-4. 預金口座による利益を誰が得ていたか
  4. 4. 名義預金を含めずに相続税申告した時のペナルティ
  5. 5. 名義預金には時効がない
  6. 6. 名義預金に見なされないための対策
    1. 6-1. 贈与契約書を作成する
    2. 6-2. 贈与税申告をする
    3. 6-3. 預金口座を名義人が管理する
  7. 7. 名義預金のよくある質問
  8. 8. まとめ 名義預金に見なされないためにも贈与契約書を活用しよう

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税務署勤務時代、私は主に相続税の調査を担当し、相続人の自宅に出向いてお話を伺うことが何度かありました。その際、まずは被相続人に関するお話を聞くのですが、その後に必ず聞いていたのが、相続人の収入や財産でした。被相続人だけでなく、相続人の通帳を見せてもらうこともありました。

具体的に例を挙げます。わかりやすいのは、「●月●日に、被相続人の口座から現金300万円が出ている」という情報を確認したうえで、「●月●日以後、相続人の口座に300万円が入金されていないか?」ということを確認するようなケースです。

このような場合、生前贈与で支払われたのか、税逃れのために資金を動かしたのか、または他の理由があったのか、といったことを確認することになります。

相続税の調査では、たとえ被相続人の預貯金に目立った動きがなかったとしても、相続人の預貯金が調べられることがあります。それは「名義預金」の問題があるからです。

名義預金とは、実際のお金の所有者と名義が異なる預金のことを言います。例えば、祖父母が孫名義の口座をつくって預金したり、専業主婦(夫)が配偶者の収入を自身の名義で預金したりするケースがよくある事例です。なお、法律上には「名義預金」という定義はありません。

名義預金は名義人の財産ではなく、被相続人の財産とみなされます。従って、相続税の対象となります。税務署は名義預金に目を付けていますので、注意が必要です。

名義預金や税務調査について不安のある方は、税理士に相談することを検討するとよいでしょう。

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相続発生時に名義預金と判断される際は、以下の項目から総合的に判断されます。ここでは、過去の判例をもとに具体的な判断ポイントを紹介します。

  • 財産の資金源はどこか
  • 生前贈与が成立していたか
  • 預金口座を誰が管理していたか
  • 預金口座による利益を誰が得ていたか

財産の資金源が被相続人によるものであった場合は、名義預金と判断されるケースが多いです。たとえ口座名義が異なっていた場合であっても、被相続人の財産によって形成された預金は「被相続人の財産」と見なされます。

たとえば、結婚してからずっと専業主婦(夫)だった相続人が、数千万円もの預金をもっていたような場合をイメージしてください。こうしたケースは名義預金の疑いがあるため、その資金の出どころなどを確認することになります。

国税庁がウェブサイトに掲載している「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集」の事例⑥においても、以下のような注意が書かれています。

「名義にかかわらず、被相続人が取得等のための資金を拠出していたことなどから被相続人の財産と認められるものは相続税の課税対象となります。したがって、被相続人が購入(新築)した不動産でまだ登記をしていないものや、被相続人の財産と認められる預貯金、株式、公社債、貸付信託や証券投資信託の受益証券等で家族の名義や無記名のものなどの被相続人名義以外のものも、相続税の申告に含める必要があります」

相続税の対象となる財産は、名義だけで判断できるものではありません。名義預金だけでなく、不動産や株式などでも、実質的に被相続人の財産と認められるものがあれば、名義によらず相続税申告に含める必要があるのです。

相続人に適切な生前贈与がされていれば、名義預金と見なされることはありません。しかし、以下のような状況に当てはまる場合は、名義預金と疑われる可能性があります。

  • 相続人が預金の存在を知らない
  • 名義人や親権者が贈与の事実を知らない
  • 現金の手渡しなどで贈与の証拠がない

被相続人が通帳や印鑑を管理している場合は、名義預金として見なされます。

財産が贈与された場合は、受け取った人が財産を管理・利用できる状態でなければなりません。そのため、預金口座を利用するための通帳や印鑑を被相続人が管理していた場合は、「被相続人の財産である」と判断されます。

また、被相続人と同一の印鑑を利用して口座開設をした場合は、相続人に印鑑を渡せなくなってしまいます。名義預金として疑われるリスクを軽減させるためにも、孫や子どもなどの名義人の印鑑で口座を開設したり、届出印を変更したりするとよいでしょう。

預金口座の利息や配当を被相続人が受け取っていた場合は、名義預金とみなされるケースがあります。利益の受け取りが預金口座の管理・運用している行為であると考えられるためです。

相続税の調査では、これらの要素を踏まえて実施されますが、名義預金の判断は簡単にできるわけではありません。たとえば、資金の動きを見るにしても、数年前ならまだしも、10年前や数十年前まで遡って確認するのは現実的には難しいでしょう。

そのため、相続人名義の預金について「どのように蓄えたのか?」という観点から聞き取り調査が行われるのです。

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相続税の調査で指摘を受けた場合は、修正申告の時期に応じたペナルティが課せられます。

ペナルティの種類には、過少申告加算税や無申告加算税などがあり、期限内に相続税申告をしていなければ、法定申告期限(相続発生後10ヶ月)以降に自主申告した場合であっても「5%」の無申告加算税がかかります。税務調査での指摘によって修正申告や期限後申告をした場合は、より高い税率を納めることになるので、名義預金の存在に気付いたらすぐに申告しましょう。

また、申告の不備に対するペナルティとは別に、納税の遅れに対しては延滞税がかかります。延滞税は納期限の翌日から完納するまでの日数に応じて課されます。

【関連】相続税の申告漏れがあった場合、どんなペナルティがある?

名義預金に時効は存在しません。

贈与税では原則6年といった時効期限が設けられていますが、贈与が成立していない名義預金は贈与税の時効が適用されないことを認識しておきましょう。また、相続税も原則5年で時効を迎えますが、納税が遅くなるほど延滞税が重たくなるので、可能な限り早く修正申告と納税をすることが大切です。

【関連】贈与税の時効は原則6年 申告漏れがわかれば厳しいペナルティ

ここでは、名義預金と見なされないための対策を紹介します。

贈与は口頭でも成立しますが、客観的な事実として証明するために「贈与契約書」を作成すると名義預金と見なされるリスクが軽減できます。贈与契約書とは、財産を贈与する時に作成する契約書をいいます。

また、相続発生後に他の親族から財産の使い込みを疑われるリスクも軽減できるので、可能な限り贈与契約書を作成しておくのがおすすめです。

【関連】ひな型付きで解説! 生前贈与をするなら贈与契約書は作るべき? 書き方と注意点

贈与税申告をすることで、贈与があった事実を証明する方法もあります。

なお、贈与税の原則的な計算方法である暦年課税制度の場合、110万円の基礎控除があるため、110万円以下の贈与は申告する必要がありません。そのため、一定金額を超えた贈与でなければ申告ができないので注意しましょう。

名義人が預金口座からお金を引き出したり、利用したりできる状態であれば、贈与が成立していると見なされ、名義預金として指摘を受ける心配がなくなります。そのため、名義人に通帳や印鑑を渡したうえで、預金を活用してもらうとよいでしょう。

名義預金でよくある質問をご紹介します。

Q. 名義預金を使ってしまったらどうなる?

口座名義人が名義預金を使うと、贈与を受ける意思表示をしたことになり、贈与が成立します。この場合、口座残高によっては贈与税申告が必要となるケースがあるので注意が必要です。受贈者(贈与を受けた人)が名義預金の存在を知ったタイミングで、口座残高が110万円を超えている場合は、贈与税申告をしたうえで納税をしなければなりません。

Q. 名義預金を自分の口座に戻したら贈与税がかかるの?

贈与が成立していない状況であれば、贈与者の口座に移しても贈与税はかかりません。なお、受贈者が預金口座からお金を引き出したり、利用していたりすると、贈与が成立していると見なされるので注意しましょう。

Q. 名義預金を解約すると贈与税がかかりますか?

名義預金を解消するのであれば、贈与者の口座に移したうえで解約すれば贈与税はかかりません。税務調査で尋ねられた時は「名義預金を解消した」と伝えるとよいでしょう。

名義預金の判断条件を踏まえると、もっともシンプルな対策は、被相続人から相続人にお金を動かすときは、きちんと生前贈与するということになります。贈与契約書を結び、贈与税の申告をしておけば、法律上その財産は相続人のものです。名義預金と判断されることはありません。

また、自分の収入や自分が得た財産に関する情報も、できるだけ残しておいたほうがいいでしょう。たとえば、専業主婦(夫)の方でも、自分名義の預金が「独身の頃の収入」「パートで貯めたお金」「実家からの相続」といった事実が明らかであれば、名義預金の疑いを避けられます。

そのためにも、通帳や源泉徴収票、実家から相続した際の遺産分割協議書など、自分名義の財産に関わる書類は、できるだけ保管しましょう。そして、家族の財産の分が混ざらないように、書類を整理しておくことが大切です。

名義預金について心配なことがあれば、税理士に相談することも検討するとよいでしょう。

(記事は2023年4月1日時点の情報に基づいています)

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