目次

  1. 1. 遺産分割が進まないパターン
    1. 1-1. 連絡を取れない相続人がいる
    2. 1-2. 不仲でもめてしまう
    3. 1-3. 遺産を隠される、遺産の使い込みなどがある
    4. 1-4. 特別受益や寄与分を主張される
    5. 1-5. 前婚の子供と死亡時の家族が遺産分割協議を行う
    6. 1-6. 分割方法で意見が合わない
  2. 2. 遺産分割が進まないときの対処法
    1. 2-1. 相手方と連絡を取れるとき
    2. 2-2. 相手方と連絡が取れないとき
    3. 2-3. 遺産隠しをされているとき、使い込みなどがある時
    4. 2-4. 不仲である場合
  3. 3. 遺産分割協議が決裂したときの対処方法
  4. 4. 遺産分割が進まないときの相続税申告
  5. 5. まとめ

遺産分割が進まない原因として、おもに以下のパターンがあります。

先述の(4)の段階(遺産をどのように分けるかを相続人で決める)の問題です。連絡が取れない相続人がいる場合、連絡の取れる相続人だけで遺産分割協議をすることはできません。遺産分割協議の当事者の一部を除外してなされた分割協議は無効となってしまうからです。

そのため、遺産分割協議に当たっては、これらの者がいる場合には何らかの方法で連絡を取って遺産分割協議をする必要があります。

共同相続人が遠方に住んでいるなどの理由で連絡が取りにくい場合は、まずは郵便や電話などの方法で連絡を取ることになります。しかし、他の相続人の連絡先や住所などを知らない場合には、その調査から始まります。調査方法については、本籍地の役所に申請をし、戸籍の附票を取る方法があります。戸籍の附票には住民票上の住所が書いてあります。

その後、住民票上の住所に手紙を送ってみましょう、相手方の反応を見て、連絡が返ってこない場合には、さらなる対応を考える必要があります。

最近たまに見かけるケースでは「相続人が外国にいて住所がわからない」という場合もあります。そのような場合には外務省に相続人の住所を問い合わせて判明することもあります。

これも④の段階(遺産をどのように分けるかを相続人で決める)の問題です。遺産分割は当事者の間の協議で話を進めていくため、不仲であるとそもそも話を進めるのが困難な場合があります。不仲ゆえに当事者間での話し合いが不可能となり、何年も解決しない場合もあります。このような場合には、裁判所で遺産分割調停をして解決していくのがもっともよい方策でしょう。

遺産を隠される、遺産の使い込みがある場合は、②の段階(遺産分割の対象となる財産の範囲を確定する)で遺産分割の対象財産が決められず、遺産分割協議を進めることが出来なくなってしまいます。

よくあるケースでは、兄弟のうち一人が親の財産を管理しており、ほかの兄弟は親の財産をまったく把握していないというケースです。当事者としては、被相続人の預貯金が異常に少ないと感じる場合、財産の開示を求めることになりますが、相手方がまったく開示に応じないことがあります。このような場合、他の相続人はその開示を受けずに分割協議を進めることに納得できないのが通常でしょう。

また、遺産の使い込みの疑いがある場合には、預貯金の流れを追うことが出来ない相続人と、遺産の使い込みの疑いをかけられた相続人とで感情的な対立が生まれ、遺産分割協議が進められなくなる場合が多々あります。

話し合いができればよいのですが、最終的には使い込みの有無については訴訟で決着をつけることになります。

特別受益や寄与分については、一部の相続人と被相続人の間で行われた行為について問題となることが多く、他の相続人が不公平感を抱きやすい問題です。

特別受益とは、簡単に言えば、生前に被相続人から相続人がもらったお金や物は遺産の前渡しを受けたものと考えて、遺産に戻したうえで各相続人の具体的な相続分を決定しようとする制度です。

特別受益の対象となるのは、民法上「遺贈、婚姻若しくは養子縁組のための贈与、生計の資本としての贈与」とされています。例えば「長男は生前の被相続人から自宅購入資金として1000万円をもらったのに、妹はもらっていない」という場合が典型的なケースです。

生前贈与が特別受益になるかは、それが相続財産の前渡しと評価できるかによることとなり、贈与の額、その趣旨、時期などから総合的に判断されることとなりますので、その判断が難しいといえます。

相続人間で協議を進めていく中で、特別受益のトラブルが生じ得やすい場合としては、生命保険金請求権の取得、婚資など、高等教育のための学資、死亡退職金、遺族給付があった場合です。これらについては、お金をもらったから必ず特別受益になるというものでもなく、相続人間でもめやすい事柄であるといえるでしょう。

また、寄与分で問題となり得やすい場合としては、相続人が被相続人の世話をしていた場合が考えられます。寄与分は、被相続人の財産の維持や増加に貢献した場合に、他の相続人よりも相続財産を多く分けてもらうことができる制度です。

寄与分が認められる場合についても法律的な判断が含まれる事項であり、生前、相続人と同居して世話をしていたということだけでは、寄与分が認められにくいという点でもめやすい事柄といえるでしょう。

揉めやすい理由としては、前婚の子供さんとしては、離婚後の生活について面倒を見てもらえておらず、被相続人が亡くなってから、死亡人の家族から連絡が来た場合には、自分に対する扱いと死亡時点の家族との扱いの差を感じ、感情的な対立が生じやすいといえるでしょう。

また、死亡時の家族に財産を引き継がせるとの内容の被相続人の遺言があった場合、前婚の子供についても遺留分が認められていることから、遺留分の主張がなされもめることがあります。

例えば不動産の分割方法について、相続人が異なる分割方法を主張してくる場合が考えられます。

遺産分割における分割方法については、大きく分けて①現物分割、②代償分割、③換価分割が考えられます。一人は売却して代金を分けたいと考え(③換価分割)、もう一人は自分が不動産を取得したいと考える場合(②代償分割)などが典型的でしょう。

分割方法で意見がまとまらない具体的な場合として、遺産に不動産が含まれている場合が考えられます。遺産の使用状況などを踏まえて、それぞれにメリットのある分割方法を主張することになるためもめやすい原因となります。

次に、遺産分割協議が進まなくなった場合の対処法について、ケース別に解説します。

家族親族間の問題は、まずはお互いに譲り合って話し合うべきです。話し合いの際には、特別受益や寄与分のような法律の基本的な考え方は全員で共有する必要があるでしょう。わからなければ弁護士に相談することをおすすめします。法律の専門家である弁護士に相談することで妥当な解決案を示してもらえるからです。

また、相手方と連絡が取れたとしても、感情的な対立が深まり相手方から無視され分割協議が進められない場合も考えられます。そのような場合には、第三者である弁護士などを入れ、弁護士を介して一度交渉してもらった方が良いでしょう。

これだけで解決に至る場合もありますが、弁護士を入れても分割協議に応じない場合もあります。その際は、遺産分割調停を申し立て、裁判所の手続きの中で相手方との分割協議を進める必要があります。

遺産分割調停では、当事者双方から事情を聴き、必要資料などの提出をし、遺産の評価を行い、事情を把握したうえで各当事者がどのような分割方法を希望しているか意向を聴取して話し合いがなされます。話し合いという点では、分割協議や弁護士を入れた場合とも共通していますが、裁判所で行う手続きのため、裁判所外の話し合いより協議が進みやすいですし、話し合いがまとまらない場合には自動的に審判手続きが開始され、裁判官が審判で遺産分割の内容を強制的に決めてくれます。

住所地の調査をしたものの、その場所に居住しておらず、連絡がそもそも取れないという行方不明の場合には、『不在者財産管理人』という制度を利用することになります。不在者管理人とは、簡単にいえば、住所などに容易に戻る見込みのない者(不在者)に財産管理人がいない場合に、財産管理人を選任する制度です。財産管理人は不在者に代わって、家庭裁判所の権限外行為許可を得たうえで、遺産分割などを行うことができますので、遺産分割協議を進めることが可能となります。

預金の遺産隠しが考えられる場合には、金融機関に取引履歴の開示を求めることができます。ただし、取引履歴の開示に当たっては、預貯金を一括で検索するシステムはなく、被相続人が取引していたであろう銀行を探して個別に手続きを進める必要があります。これは本当に骨が折れる作業です。

また、不動産の調査の場合は、被相続人の自宅に不動産の売買契約書や権利証などが保管されていないかを確認しましょう。不動産については納税通知書が郵送されてくるので、課税明細書で所在地を確認するということも有効でしょう。

今はまだ使い込まれていなくても、今後使い込むことが予想される場合や、遺産分割の調停・審判が終わるまでに遺産が使い込まれていた場合は、使い込まれた財産について別途民事訴訟の提起が必要になります。そのような使い込みによる二度手間を防ぐためには、調停前の処分や審判前の保全処分の方法が考えられます。ただし、高額の保証金が必要になる場合もあるので注意が必要です。

不仲な場合は、弁護士を入れて交渉するか、遺産分割調停を申し立てるといいでしょう。相続人以外の第三者が入ることで、感情的な対立から離れて分割協議を進めることができるようになります。

遺産分割協議が決裂した場合は、裁判所が審判をしてくれるので、家庭裁判所で遺産分割調停を申し立てるとよいでしょう。ただし、その前に弁護士を入れて交渉すると、すんなりとまとまる可能性もあります。一度相談してみると良いでしょう。

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相続税は被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に申告しなければなりません。

この申告については、遺産分割協議が成立していない場合であっても、この期限内に行われる必要があり、分割協議が成立していないとしても期限が伸びるというものではありません。そこで、分割協議が成立していない場合には、いったんは法定相続分によって相続税申告をし、納税する必要があります。

法定相続分によって相続税を申告する場合に、相続税の特例である小規模宅地などの課税価格計算の特例や、配偶者の税額の軽減特例などが適用できない申告となります。

もっとも「申告期限後3年以内の分割見込書」を一緒に提出すれば、後に遺産分割ができたときに控除や特例を適用してもらえます。

税の軽減ができる場合がありますので、手続きの際には忘れないようにしましょう。事前に税理士に相談することをおすすめします。

遺産分割が進まない原因はいくつかあり、状況によってとるべき対処方法が異なります。弁護士を間に入れると解決できるケースも多いので、迷ったら一度相談してみましょう。

(記事は2021年12月1日時点の情報に基づいています)