遺産分割調停をするにはどこの裁判所に行けばいい? 裁判所の「管轄」に注意
遺産分割協議がまとまらない場合、どの裁判所に「遺産分割調停」を申し立てればいいのでしょうか。法律上、調停を行う裁判所には「管轄」があるので、どこでも良いわけではありません。裁判所が遠方だと、交通費や時間が大きな負担となる可能性もあります。遺産分割調停の管轄や裁判所が遠い場合の対処方法を、専門家が解説します。
遺産分割協議がまとまらない場合、どの裁判所に「遺産分割調停」を申し立てればいいのでしょうか。法律上、調停を行う裁判所には「管轄」があるので、どこでも良いわけではありません。裁判所が遠方だと、交通費や時間が大きな負担となる可能性もあります。遺産分割調停の管轄や裁判所が遠い場合の対処方法を、専門家が解説します。
目次
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遺産分割調停は、多くの場合で弁護士が関与しています。検討している方は、まず、管轄地で業務を行っている弁護士に相談してみてください。
「遺産分割調停」とは、相続人が全員参加して遺産分割の方法を話し合うための家庭裁判所の手続きです。自分たちで遺産分割協議を行ってもまとまらない場合、遺産分割調停を申し立てなければ相続問題を解決できません。
遺産分割調停は、どこの裁判所でも受け付けてもらえるわけではありません。
家事審判法により、「相手方のうちの一人の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所」で手続きを進める必要があります。基本的には「相手方の住所地の家庭裁判所」と考えると良いでしょう。自分の住所地や被相続人の住所地の裁判所では調停を受け付けてもらえないので、注意してください。
法に記されているとおり、相手方が複数いる場合には、そのうち一人の管轄地で構いません。できるだけ近い場所の相手方を選んでその管轄地の家庭裁判所へ申し立てると便利ですし、交通費も節約できます。
全国の住所地の管轄裁判所は、裁判所が運営するサイトのこちらのページから調べることが可能です。
遺産分割調停の管轄裁判所は、当事者の合意があれば自由に定められます。これを「合意管轄」と言います。たとえば「被相続人の住所地の管轄裁判所」にもできるので、お互いが遠くに住んでいる場合などには公平のために管轄の合意をするのも良いでしょう。
管轄の合意をするときには、「管轄合意書」という書類を作成して家庭裁判所へ提出しなければなりません。基本的に「遺産分割調停については〇〇家庭裁判所を合意管轄裁判書とする」と記載して日付を記入し、当事者が署名押印すれば合意書が完成します。それほど難しくないので、自分たちで話し合って作成することが十分に可能です。
合意管轄が適用されないケースでは、管轄地以外の家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てても管轄地の家庭裁判所へ「移送」されてしまうのが基本の対応です。つまり、「正しい管轄地」の家庭裁判所へ送られてしまうので、管轄外の家庭裁判所では手続きを進めてもらえません。
ただし、原則的な管轄地で審理を行うのが著しく不合理など特殊な状況であれば、管轄外の家庭裁判所であっても稀に申立を受け付けてもらえるケースがあります。職権で自ら事件を処理することを「自庁処理」といいます。
遺産分割調停が不成立になると、「遺産分割審判」という手続きに移行します。
法律上、遺産分割審判の管轄裁判書は以下の2種類です。
つまり、審判では調停のように「相手方の住所地」ではなく「相続開始地(被相続人が死亡したときの住所地)」の家庭裁判所で審理されます。そのため、調停とは管轄が異なる場合があります。
また、遺産分割調停と審判で管轄が異なる事案で調停から審判へ移行した場合には、審判の管轄地の家庭裁判所へ移送されるケースもあります。一方、そのまま移送されず調停の裁判所で自庁処理されることもあるように、判断は裁判所に委ねられています。
遺産分割調停には、当事者は基本的に毎回家庭裁判所へ出席しなければなりません。事案にもよりますが5回程度は話し合いを繰り返すケースが多く、期間的にも半年以上はかかると考えましょう。
裁判所が遠方の場合、交通費も時間もかかるので申立人には大きな負担となってしまいます。
そんなとき、負担を減らすためにどういった対応をとれば良いのでしょうか? いくつかの対処方法を紹介します。
遺産分割調停の管轄裁判所が遠方の場合、家事事件手続法の規定によって「電話会議システム」を利用できる可能性があります。
電話会議システムとは、申立人が相手方の住所地の家庭裁判所に行かずに電話で審理を進める手続きのこと。こちらが適用されると、相手方は相手方の住所地の家庭裁判所(管轄茅野裁判所)に出頭し、申立人は申立人宅の近くの家庭裁判所に出頭して、それぞれの家庭裁判所の専用の電話機を使って会話をします。
■電話会議システムの注意点
電話会議システムでは、自宅の電話は使えません。最寄りの家庭裁判所へ行かなければならないので注意しましょう。また、「電話会議システムを適用してほしい」と言っても、必ず許可されるとは限りません。
まずは調停申立の際に、必要性を示して電話会議システムを採用してもらえるよう希望を出す必要があります。家庭裁判所が電話会議システムによる審理を妥当と考えれば許可してもらえます。
電話会議システムを利用しても「初回は家庭裁判所へ出頭してください」などと要請されるケースもあります。必ずしも「一度も家庭裁判所へ行かなくて良い」わけではないので、心の準備をしておきましょう。
遺産分割事件では調停前置主義が採用されていません。調停をせずにいきなり遺産分割審判を申し立てることも可能です。調停と審判は管轄地が異なるので、相手方の住所地が遠い場合などに被相続人の管轄地の家庭裁判所へすぐに審判を申し立てる方もいます。
実際には調停せずに審判を申し立てると、家庭裁判所の判断で調停を求められるケースがほとんどです。そうなると、調停の家庭裁判所へ移送される可能性が高くなります。一方で、裁判所の判断によりそのまま審判の管轄地の裁判所で自庁処理されるケースもあります。
こうした条件から、相手方が遠方で被相続人の住所地が近い場合には、自庁処理を期待してあえていきなり遺産分割審判を申し立てる方もいます。自己判断が難しいところですので、弁護士に相談して対応するのが良いでしょう。
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相続の相談が出来る弁護士を探す遺産分割調停を申し立てるときには、どこの家庭裁判所で手続きを進めるかが非常に重要です。自分で手続きを行う場合、基本的には相手方の住所地にせざるを得ないでしょう。前に述べたとおり、遠方であるからといって電話会議システムを採用してもらえるとは限りません。
なるべく負担の少ない方法で調停を進めるには、弁護士に依頼して管轄地についてもしっかり検討してもらいましょう。審理が行われる家庭裁判所が遠方の場合には弁護士の交通費や日当もかかります。その場合、家庭裁判所に近い場所の弁護士に相談するのが妥当と言えます。
遺産分割調停で相手方が遠方な場合や、すでに調停が始まっている場合などは、検討すべき材料が少なくありません。まずは一度遺産相続に積極的に取り組んでいる弁護士に相談してみてください。
(記事は2021年2月1日時点の情報に基づいています)
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