まずは故人の通帳、キャッシュカードを把握する

家族が亡くなったら、まずは家の中を調べて、故人の通帳やキャッシュカードを探しましょう。有価証券については、特定の証券会社から郵便物が届いていないかを確認すると良いでしょう。どうしてもわからない場合には、心当たりがある銀行や証券会社に1社ずつ当たっていくと言う方法もありますが、いちいち書類や戸籍等を提出する必要があるので、かなり労力がかかります。

消費者金融などのカードや書類がないかも気をつけて見ておきましょう。郵便物も確認し、借金の督促が来ていないかもチェックしましょう。万が一多額の借金がある場合には、相続放棄(死亡日から3ヶ月以内)なども検討しなければなりません。

金融機関に死亡を連絡すると口座は凍結される

金融機関に預金者が死亡したことを連絡すると、本人名義の口座は、一旦引き出しができない状態になります。これは、最高裁判所の判例で、預金も遺産分割が必要な遺産であると判示されたためです。預金を引き出すためには、原則として遺産分割協議を成立させて、その協議書とその他の必要書類を揃えて銀行に届け出をする必要があります。なお、必要書類については、銀行によって異なるので、預金のある銀行に問い合わせるのが良いでしょう。

凍結された預金を遺産分割前に引き出す2つの方法

そうはいっても、当面の生活費など、すぐに必要なお金もあるかと思います。そのような場合には、法律には2つの方法が準備されています。1つは家庭裁判所の判断を経由せずに一定額の預金を引き出す方法。2つ目は家庭裁判所の判断を経由して必要な金額の預金を引き出す方法。この2つの方法は、相続法の改正によって新しく導入された制度です。なお、これらの方法は、2019年7月1日よりも前に開始した相続であっても改正相続法の附則により行うことができることになっています。

■家庭裁判所の判断を経由せずに預金を引き出す方法

1人の相続人が単独で、1金融機関あたり、150万円を限度として、預金を引き出す方法です。引き出し可能な金額の具体的な計算方法は、相続開始日時点の預金残高× 1/3×当該相続人の法定相続分(ただし150万円を上限とする)です。

例えば、ひとつの銀行に600万円の預金があったとすると、配偶者が引き出す場合には、600万円× 1/3×1/2で、100万円の預金の引き出しが可能です。必要な書類は、銀行によって異なりますが、一般的には相続人の全員を確認できる戸籍謄本及び引き出す方の印鑑登録証明書、身分証明書等になります。一見、非常に良い手続きのように思いますが、現実には、戸籍謄本等の必要書類を集めるのに1、2ヶ月かかることも多く、葬儀等の費用に充当するには難しいです。

■家庭裁判所の仮処分を得る方法

この方法は、150万円を超える預金であっても引き出すことができるのがメリットです。ただ、この方法を取るための要件は、①遺産の分割の審判または調停の申し立てがあること、②①の事件の関係人の仮処分申し立てがあること、③遺産に属する預貯金債権であること、④相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の至便その他の事情により行使する必要があること、⑤他の共同相続人の利益を害するとは言えないこととされていて、とても難しい手続きになります。ですから、弁護士の関与なしに、この手続きによって預金の払い戻しを得ることはほぼできないと思います。

勝手に預金を引き出すと横領罪に該当する可能性も

このように、金融機関に相続開始の連絡をしてしまうと、遺産分割協議ができるまでの間、原則としてお金が引き出せなくなってしまいます。しかも、相続法の改正により、1金融機関あたり150万円までの引き出しは可能とは言え、実際には戸籍謄本等の必要書類を集めるうちに、1ヵ月や2ヶ月は簡単に過ぎてしまいます。そこで、預金が凍結される前に、預金を引き出したらどうなのかという考えが浮かびます。しかしこれは、通常の場合には推奨しません。なぜなら、相続人の1人が勝手に預金を引き出してしまうと、不満を感じたその他の相続人との摩擦が生じる可能性があり、遺産分割が紛糾したり、不当利得返還請求などをされる可能性がありますし、最悪のケースでは刑法上の横領罪に該当する可能性もあるからです。

しかし、どうしてもすぐに当面の費用が必要だと言う場合には、すべての相続人とあらかじめきちんと合意をしたうえで、金融機関の相続開始の連絡をする前に、ある程度の預金を引き出してしまうと言うことも考えられます。あらかじめ相続人全員の同意をとっている場合には、遺産の一部分割の合意できていると考えることも可能ですから、法律上の問題もないでしょう(遺産分割は口頭でも法的には有効です)。もっとも、後々相続人間で問題とならないように、メールでもいいので相続人全員の同意をとった証拠を残しておくべきです。

預金の引き出しは原則として遺産分割協議が必要

相続が開始したことを、金融機関に申告すると、預金は一旦凍結されます。凍結された後は、遺言がなければ、原則として遺産分割協議ができるまでの間は引き出すことができません。相続法の改正により、一定の金額までであれば、単独で引き出しをすることも可能なのですが、必要書類が多く、引き出しまでには1~2ヶ月の時間がかかります。なお、家庭裁判所の判断を経て一定額の預金を引き出す方法は、弁護士の関与なく行うことは不可能に近いと思います。金融機関に申告をする前に、引き出してしまうのもあり得るのですが、すべての相続人の同意をきちんととった上で行わなければなりません。

このように、遺産に属する預金の引き出しが必要な場合には、原則として遺産分割協議が必要ですし、遺産分割前に引き出す場合には必要書類も多いです。後で問題とならないように、一度必ず弁護士に相談したほうが良いでしょう。

(記事は2021年1月1日時点の情報に基づいています)