目次

  1. 1. 寄与分とは?
  2. 2. 遺留分とは?
  3. 3. 遺留分を侵害する寄与分を定めてもよいのか?
  4. 4. 寄与分に対する遺留分侵害額請求はできない
  5. 5. 遺留分侵害額請求に対して、寄与分を主張して拒否することはできない
  6. 6. 遺留分と寄与分に関するトラブルが起こったときの対処法
  7. 7. まとめ|寄与分・遺留分に関するトラブルは弁護士に相談を

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「寄与分」とは、相続財産の維持・増加について特別の寄与があった相続人につき、寄与度に応じて認められる相続分の増額分です(民法904条の2第1項)。相続人間の公平を図る観点から、被相続人に対する貢献度の高い相続人に「寄与分」が認められています。

寄与分の金額は、原則として、相続人同士の協議により決定されます。仮に寄与分に関する協議がまとまらない場合には、家庭裁判所が以下に挙げる事情などを総合的に考慮して、寄与分の金額を定めることになります(同条2項)。

  • 寄与の時期
  • 寄与の方法
  • 寄与の程度
  • 相続財産の額 など

なお、寄与分と似ている民法上の制度として「特別寄与料」がありますが(民法1050条)、
以下の点で「寄与分」とは異なります。

  • 相続人以外の被相続人の親族に認められる(寄与分は相続人のみ認められる)
  • 無償での労務の提供のみが対象(寄与分は事業出資や有償での労務提供なども対象)
  • 時効や除斥期間がある(寄与分にはない)

「遺留分」とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められた、相続できる遺産の最低保障額です(民法1042条1項)。遺留分割合は、直系尊属のみが相続人の場合は法定相続分の3分の1、それ以外の場合は法定相続分の2分の1とされています。

被相続人は、生前贈与や遺言などによって、遺産の配分を自分で決められます。しかし、あまりにも偏った遺産配分が行われると、相続人の間で不公平が生じるうえ、相続人の遺産承継に関する合理的な期待を裏切ることになってしまいます。そこで、兄弟姉妹以外の法定相続人に「遺留分」を認め、被相続人の意思と相続人の保護のバランスを図っているのです。

遺留分未満の財産しか承継できなかった相続人は、遺贈または贈与により財産を多く承継した者に対して「遺留分侵害額請求」を行い、不足額の金銭の支払いを請求できます(民法1046条1項)。

寄与分は、相続分の計算に影響を与える一方で、遺留分を計算する際には考慮されません。
そのため、特定の相続人について高額な寄与分が認められた場合、他の相続人の相続分が遺留分を下回ってしまう逆転現象が生じ得ます。

(例)
被相続人の長女Aは、生前の被相続人の事業をほぼ一手に担い大活躍していた。
その寄与について、総額5000万円の相続財産に対して、3000万円の寄与分が認められた。
A以外には、被相続人の長男Bのみが相続人である。
Aの相続分:(5000万円-3000万円)×2分の1+3000万円=4000万円
Bの相続分:(5000万円-3000万円)×2分の1=1000万円
Bの遺留分:5000万円×2分の1×2分の1=1250万円

3000万円の寄与分がAに与えられた影響で、Bは遺留分額の1250万円を下回る遺産(1000万円)しか承継できず、250万円相当の遺留分侵害が発生している。

このように、遺留分を侵害するほどに高額な寄与分を定めたとしても、法律上は特に問題ありません。寄与分の上限は「相続財産の総額-遺贈の価額」とされているだけで(民法904条の2第3項)、遺留分を侵害する寄与分は認められないというルールはないからです。したがって理論上は、特定の相続人に高額の寄与分が認められた結果、他の相続人の遺留分が侵害される事態が合法的に発生する可能性があります。

ただし、遺留分を侵害するほどの寄与分を認めることが、相続人の間の公平を図るという寄与分の趣旨に適うのかについては、大いに疑問と言わざるを得ません。
たとえば東京高裁平成3年12月24日決定は、寄与分額の算定に際して、他の相続人の遺留分についても考慮すべきであることを指摘しています。そのため、よほど特殊な事情がない限りは、遺留分を侵害するほどに高額の寄与分が認められる可能性は低いと考えられます。

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寄与分によって遺留分の侵害を受けたとしても、そのことを理由として、寄与分を有する相続人に対して遺留分侵害額請求を行うことはできません。遺留分侵害額請求を受ける可能性があるのは、「受遺者※(遺贈※を受けた人)」または「受贈者(贈与を受けた人)」とされています(民法1046条1項)。
※遺贈:遺言によって遺産を贈与すること。遺贈を受けた人を「受遺者」といいます。

この点寄与分は、あくまでも相続分の修正要素に過ぎず、寄与分が認められたからといって「受遺者」や「受贈者」になるわけではありません。したがって、寄与分を有する相続人は、別途遺贈や贈与を受けていない限り、遺留分侵害額請求の対象外となります。

今度は見方を変えて、他の相続人から遺留分侵害額請求を受けたケースを考えてみます。

(例)
被相続人の療養看護に努めたことを理由に、300万円の寄与分が認められた。その一方で、被相続人から多額の生前贈与を受けており、その結果300万円分、の遺留分侵害請求を受けた。
この場合、自らの寄与分を主張して、遺留分侵害額請求を拒むことはできるのでしょうか?

結論としては、寄与分を理由に遺留分侵害額請求を拒否することには、全く法的根拠がありません。遺留分侵害額請求の対象は「遺贈」と「贈与」ですので、寄与分とは基本的に無関係です。また、寄与分を理由に遺留分侵害額請求を拒否できるとする条文も、民法上は存在しません。
よって、寄与分を主張して遺留分侵害額請求を拒否することは、誤った理解に基づく行動であると理解しましょう。

遺留分と寄与分の関係性は、民法のルール上、かなり複雑になっています。そのため、遺留分と寄与分を適正・迅速に処理したい場合には、弁護士へのご相談がお勧めです。

特に、遺留分や寄与分を巡って相続人の間に対立が生じている場合には、近い将来に調停・審判(遺留分侵害額請求の場合は訴訟)に発展する恐れがあります。弁護士に相談することで、遺留分・寄与分の制度概要やその関係性を踏まえつつ、ご自身の希望をストレスなく他の相続人に伝えられます。
遺留分・寄与分に関するトラブルをいち早く解決するためには、弁護士へのご依頼をご検討ください。

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遺留分を侵害するような寄与分は、法律上認められる余地はありますが、現実的に認められる可能性は低いと考えられます。万が一、寄与分によって遺留分が侵害される状況が発生した場合には、民法のルールを踏まえて適切に対応しなければなりません。もしも寄与分・遺留分の処理に関して、少しでも不安なお気持ちをお抱えの場合には、弁護士へのご相談をお勧めいたします。
弁護士は、法律上の遺産相続ルールに関する正しい知識をベースとして、状況に合わせた問題解決へのアプローチを提案してくれます。とにかく相続では大きな金額が動くので、弁護士に相談しながら迅速・円滑・円満な手続きの完了を目指しましょう。寄与分の主張や遺留分侵害額請求、その他の相続に関する権利主張をご検討中の方は、お早めに弁護士までご相談ください。

(記事は2021年10月1日時点の情報に基づいています)

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