遺留分侵害額請求の時効はいつまで? 時効を止める方法や回収期限も紹介
遺留分を侵害されたら、請求期限はいつまでになるのでしょうか? 基本的には「相続開始と遺留分侵害」を知ってから1年以内に請求しなければなりません。遺留分の時効を止める通知を送ったあとにも「金銭債権の消滅時効」が適用されるので注意が必要です。遺留分侵害額の請求期限について、弁護士がわかりやすく解説します。
遺留分を侵害されたら、請求期限はいつまでになるのでしょうか? 基本的には「相続開始と遺留分侵害」を知ってから1年以内に請求しなければなりません。遺留分の時効を止める通知を送ったあとにも「金銭債権の消滅時効」が適用されるので注意が必要です。遺留分侵害額の請求期限について、弁護士がわかりやすく解説します。
目次
「相続会議」の弁護士検索サービスで
被相続人(亡くなった方)の配偶者、子、両親などの直系尊属には、法律で最低限の遺産相続分が定められています。これを遺留分と言います。遺贈や生前贈与で遺留分が侵害された場合、不足分を取り戻すために金銭を請求する権利を遺留分侵害額請求権と呼びます。
遺留分侵害額請求権とは、被相続人(亡くなった人)が遺留分を侵害するような遺贈や贈与などをした場合に、遺留分権利者が財産をもらった者に対して自己の遺留分に相当する金銭の支払いを請求することをいいます。従来は「遺留分減殺請求権」と呼ばれていましたが、近年の相続法改正によって「遺留分侵害額請求権」に変わりました。
下記の通り、遺留分侵害額請求権には3つの時効と除斥期間があります。
それぞれについて詳しく解説します。
遺留分侵害額請求権は、相続が開始したこと及び遺留分を侵害する遺贈や贈与などがあったことを遺留分権利者が知ってから1年の間に行使しないと時効により消滅してしまいます。なお、単に遺贈や贈与などがあったというだけではなく、これらが遺留分を侵害すること(たとえば、遺産の大部分が遺贈されていること)までを知っていることが必要です。
遺言の無効が争われている場合、遺言が無効と考えている立場からすると「遺言は無効なのだから遺留分が侵害されているという認識はなく、時効も進行しない」とも考えられそうです。
しかし、最高裁判所は、「事実上及び法律上の根拠があって、遺留分権利者が遺言の無効を信じているため遺留分減殺請求権を行使しなかったことがもっともだと首肯しうる特段の事情が認められない限り、時効は進行する」と判示しています。
これは最高裁判所昭和57年11月12日判決のとおりです。すなわち、遺言の無効が争われていても、原則的に時効は進行し、例外的に「特段の事情」が認められる場合に限って時効は進行しないということです。
そのため、遺言の無効を争うとしても、予備的に遺留分侵害額請求権を行使しておくことが大切です。そうしておかなければ、遺言の無効が認められなかった場合に、遺留分すら請求できないといった事態が生じてしまうおそれがあります。
遺留分侵害額請求権は、相続が開始したことや遺留分を侵害するような遺贈や贈与などがあったことを遺留分権利者が知らなくても、相続が開始してから10年が経過すると消滅します。この期限は「除斥(じょせき)期間」と呼ばれ、一般的に、停止(完成の猶予)や中断(更新)はありません。相続開始から10年以内に遺留分侵害額請求を行う必要があります。
全国47都道府県対応
相続の相談が出来る弁護士を探すややこしいのですが、遺留分侵害額請求権を行使したことで発生する金銭支払請求権は、遺留分侵害額請求権とは別の権利として、原則5年で時効にかかってしまいます(民法166条1項1号)。つまり、遺留分侵害額請求権を行使しても、その後5年間何もしなければ、金銭請求はできなくなってしまいます。そのため、5年以内に裁判上の請求をして時効を止めておくべきです。
なお、厳密にいうと、遺留分侵害額請求権を行使した時期によって時効期間が変わります。なぜなら2020年4日1日施行の改正法で消滅時効のルールが変わったからです。そのため、2020年3月31日以前に行使していれば10年、同年4月1日以降に行使していれば5年が時効になります。
では、遺留分侵害額請求権の時効を止めるにはどうしたら良いのでしょうか。その方法を解説します。
遺留分侵害額請求権の時効を止めるためには、相手方に対し、下記の事項を記載した通知書を配達証明付内容証明郵便で送りましょう。
たとえば、「私は、相続太郎の相続人ですが、貴殿が被相続人相続太郎から令和3年8月18日付遺言書により遺贈を受けたことによって私の遺留分が侵害されていますので、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求します」というように記載します。
配達証明付内容証明郵便にする理由は、後に「そもそも通知書なんて届いていない」「遺留分侵害額請求を行使するなど書いてなかった」などと争いになった場合に証拠として使えるからです。配達証明を付けることで、通知書が相手方に届いたことを証明できます。また、内容証明を付けることで、通知書が遺留分侵害額請求権を行使する内容であったことを証明できます。
発送方法としては、郵便局に赴いて手続きする方法とインターネット上で手続きするe内容証明という方法があります。文字数や行数などの書式が決まっていますので、郵便局のホームページで確認してから通知書を作成しましょう。
なお、内容証明はすべての郵便局で扱っているわけではありません。郵便局に赴く場合には、事前に取り扱いの有無を確認しておきましょう。
5年以内に交渉がまとまらずに時効にかかってしまいそうな場合は、遺留分侵害額請求権に基づく金銭の支払いを求める裁判を起こすことで時効を止めることができます。
それ以外には、相手方が自らに金銭を支払う義務があることを承認した場合にも、その時点で時効は振り出しに戻ります。ただし、相手方が承認した時点からさらに5年が経過すると再び時効になってしまうので注意してください。
従来の遺留分減殺請求権では、贈与などを受けた財産そのものを返還するという「現物返還」が原則で、金銭での支払いは例外的な位置付けでした。たとえば、不動産の贈与などによって遺留分が侵害され、遺留分減殺請求権を行使した場合、その不動産そのものが返還され、その結果、当該不動産は遺留分減殺請求権を行使した者と行使された者との共有になるというのが原則でした。
しかし、現在の遺留分侵害額請求権では、「現物返還」ではなく「金銭請求」に一本化されました。このことにより、トラブルが生じやすい不動産の共有を避けることができるようになりました。
遺留分侵害額の請求期限を過ぎてしまったら、遺留分侵害額を払ってもらえなくなってしまいます。また、時効を止めるための対応は的確に行う必要がありますし、時効の起算点の判断が難しいケースもあります。そのため、なるべく早めに行動することが大切です。自分で交渉することに躊躇がある人や方法がわからない場合は早めに弁護士に相談しましょう。
(記事は2022年12月1日時点の情報に基づいています)
「相続会議」の弁護士検索サービスで