遺産分割協議書の捨印の意味とその効果は? 訂正方法も合わせて解説
「遺産分割協議書」に捨印を押すのはなぜでしょうか。捨印を押すとどのような効果があり、また、どのような点に注意しなければならないのでしょうか。今回は、「遺産分割協議書」を訂正したい場合の訂正方法や捨印の効果と捨印の注意点について弁護士が解説します。
「遺産分割協議書」に捨印を押すのはなぜでしょうか。捨印を押すとどのような効果があり、また、どのような点に注意しなければならないのでしょうか。今回は、「遺産分割協議書」を訂正したい場合の訂正方法や捨印の効果と捨印の注意点について弁護士が解説します。
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「遺産分割協議書」とは、相続人全員で話し合って決めた相続財産の分配方法を記載した文書のことをいいます。亡くなった方が遺言書を作成していない場合や作成はしていたものの有効な遺言書ではなかった場合には、相続人全員で相続財産の分配方法を話し合って決める必要があります。そして、話し合いによって決まった相続財産の分配方法を「遺産分割協議書」という文書にまとめ、これを使って預金の解約や不動産の登記手続き、相続税申告等を進めることになります。
「遺産分割協議書」に記載ミスがあった場合、次のような手順を踏むことになります。
遺産分割協議書は、預金の解約や不動産の登記手続き、相続税申告などに使用されます。預金の解約は金融機関、不動産の登記手続きは法務局、相続税申告は税務署で行います。いずれもその記載内容にミスがないか形式面も含めて厳しくチェックされます。遺産分割協議書に少しでも記載ミスがあれば、通常、手続は中断され、場合によっては作り直しを求められるでしょう。
遺産分割協議書に記載ミスがあると各種の相続手続は中断してしまうため、記載ミスを見つけた場合にはこれを訂正して提出する必要があります。その原則的な訂正方法は、以下の通りです。
① 相続人に関する記載にミスがあった場合
相続人の氏名や住所などに記載ミスがあった場合には、誤記部分を二重線で消し、その周辺に正しい記載をしてその相続人の実印(印鑑登録している印鑑)を押します。たとえば、相続人朝日太郎の住所に記載ミスがあった場合、訂正箇所には相続人朝日太郎の実印を押します。
② 被相続人や相続財産に関する記載にミスがあった場合
被相続人や相続財産に関する記載にミスがあった場合には、誤記部分を二重線で消し、その周辺に正しい記載をするところまでは先の場合と同じですが、訂正箇所には相続人全員の実印を押す必要があります。たとえば、相続人朝日正子、朝日太郎、山田花子がいて、相続財産の記載にミスがあった場合、訂正箇所には相続人3人全員の実印による押印が必要になります。被相続人や相続財産が異なれば、それは遺産分割協議の内容そのものが変更されたといえるため、その訂正には全員の了解が必要になります。
次に「捨印」の必要性について説明します。
遺産分割協議書に記載ミスが見つかった場合、基本的には、先ほど説明した通りの方法で訂正を行う必要があります。しかし、一部の相続人が遠方で暮らしている場合にこの方法で訂正をしようとすると、その相続人の元に出向くか、あるいは遺産分割協議書の原本を郵送でやり取りする必要があります。これは非常に手間がかかる作業です。
他方で、記載ミスの内容が誤字・脱字などわずかな記載ミスにとどまる場合、その部分の訂正に異論を唱える相続人はいないでしょう。
そこで、後にわずかな記載ミスが見つかった場合に備えて、その記載ミスを訂正する権限を与えるために、相続人全員が遺産分割協議書の作成時にその欄外に「捨印」を押すことが考えられます。相続人全員の「捨印」があれば、軽微な記載ミスについては、この訂正権限に基づき、改めて関係する相続人に押印してもらうことなく訂正することができます。このように「捨印」は、法的には文書を受領した者に訂正権限を与え、実際に記載ミスが見つかった際の手間を省くという効果があります。
捨印を用いた訂正の具体例は、以下のとおりです。例えば、相続人Aの住所に記載ミスがあった場合、誤記部分を二重線で消し、その周辺に正しい記載をするところまでは先の原則的な訂正方法と同じです。この具体例では、住所末尾の「1-23-4」という6文字を削除し、「1-23-501」という8文字を追加していますので、捨印の近くに「6文字削除」、「8文字追加」と記載します。
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相続の相談が出来る弁護士を探す捨印があれば、記載ミスがあった際に手間が省ける効果がありますが、すべてに有効ではないので注意が必要です。
捨印があれば改めて関係する相続人に押印してもらうことなく、遺産分割協議書を訂正できます。しかし、どのような記載ミスでも捨印で訂正ができるわけではありません。
そもそも、なぜ改めて関係者から押印をもらうことなく、訂正を行うことができるかといえば、さきほど解説した通り、捨印によってあらかじめ関係者からわずかな記載ミスについては訂正する権限を与えられているためです。そのため、軽微な記載ミスとはいえない場合には、訂正権限の範囲外になるため、捨印で訂正を行うことはできなくなります。裁判所も「捨印によってどのような加筆もできるわけではない」と判断しています(最二小判昭53・10・6判タ390号110頁)。
どこまでが「軽微な記載ミス」として捨印で訂正することができるかは難しい問題です。
まず、①明らかな誤字・脱字であれば捨印で訂正することはできるでしょう。
また、②遺産分割協議書に添付されている印鑑登録証明書の記載と整合させるような訂正も捨印で訂正することはできるでしょう。
しかし、それ以外の訂正については、結局は、遺産分割協議書を確認する主体、すなわち、金融機関や法務局、税務署が有効な訂正方法として認めるかどうか次第になります。事前にこれらの機関に対し、捨印で訂正しても問題ないかを確認すれば問題は生じません。もっとも、すべての関係機関にこのような確認をするのは非常に手間がかかり、もはや捨印による訂正を行うメリットがありません。このような場合には、先ほど説明した原則的な訂正方法を行うか、あるいは遺産分割協議書を最初から作り直すといった対応のほうが現実的です。
捨印があれば改めて関係する相続人から押印してもらうことなく、遺産分割協議書を訂正できます。そのため、一部の相続人が金融機関や法務局、税務署に提出する前に自己に有利な内容に訂正してしまう恐れもあります。ただし実際には、そのような訂正をした場合には、もはや「軽微な記載ミス」の訂正にはとどまらないため、これらの機関が捨印による訂正を認めず、受理しないという可能性はあります。
これまで解説した捨印の利便性と一部の相続人による悪用の可能性を考慮すると、「相続人間の関係性に特に問題がない場合には遺産分割協議書に捨印を押しても問題ない」と考えられます。
捨印によってどのような訂正もできるわけではありません。「軽微な記載ミス」にとどまらない場合には捨印による訂正は無効となるため、関係機関も受理しない可能性があります。判断に迷う場合には専門家に確認することも有効な選択肢でしょう。
記事は2021年8月1日時点の情報に基づいています。
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