目次

  1. 1. 相続回復請求権とは
    1. 1-1. 相続回復請求権の性質
    2. 1-2. 相続回復請求権が認められる人
    3. 1-3. 相続回復請求権の相手方
  2. 2. 相続回復請求権の時効
    1. 2-1. 共同相続人が相続権を侵害した場合
    2. 2-2. 時効を止める方法
    3. 2-3. 表見相続人からの譲受人について
  3. 3. 相続回復請求権を行使する方法
    1. 3-1. 相手方と話し合う
    2. 3-2. 訴訟を起こす
    3. 3-3. 遺産分割調停や審判では取り戻せない
  4. 4. まとめ

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相続回復請求権は、相続人ではないのに相続人であるかのように振る舞う人に対し、真正な相続人が相続財産の取り戻しを請求する権利です。このように、相続人の相続権を侵害している人(相続回復請求権の相手方)を「表見相続人」といいます。
ただし「共同相続人」であっても、自分の法定相続分を超えて他の相続人の権利を侵害していたら相続回復請求権の対象になります。

相続回復請求権は、個別の財産を取り戻す権利ではありません。包括的に遺産全体の返還を請求できる権利です。相続人の権利が侵害されていたら妨害排除請求もできます。例えば、無権利者が不動産を占有している場合などには退去を求めることも可能です。

相続回復請求権が認められるのは以下のような人です。
l 真正な相続人
l 真正な相続人から相続した人
l 相続分の譲受人
l 包括受遺者
l 遺言執行者
l 相続財産管理人

ただし、不動産や預貯金などの「特定遺産の承継人」は相続回復請求権を主張できません。

相続回復請求権の相手方には「表見相続人」と「共同相続人」の2種類があります。

【表見相続人】
表見相続人とは実際には相続権がないのに相続財産を処分したり占有したりしている人をいいます。具体例を挙げると以下のとおりです。
l 相続欠格者
l 相続廃除された人
l 親子でないのに出生届を出された人
l 婚姻が無効となった配偶者
l 養子縁組が無効となった養子
l その他の第三者

【共同相続人】
共同相続人であっても自分の相続分を超えて遺産を利用占有していると、相続回復請求権の相手方になります。
例えば兄弟3人が遺産を相続したとき、長男がすべての預貯金や不動産などの遺産を取り込んでいる場合、弟や妹は長男に対して相続回復請求権を主張できる可能性があります。

【表見相続人からの譲受人は対象外】
「表見相続人からの譲受人」は相続回復請求権の相手方になりません。そういった相手に対しては、個別に財産の取り戻し請求を行う必要があります。

相続回復請求権には「時効」があるので注意しましょう。具体的には「相続権の侵害を知ってから5年以内」に請求しなければなりません。
また相続権の侵害を知らなくても「相続が発生してから20年」が経過すると権利が消滅してしまいます。

共同相続人が相続権を侵害した場合、必ずしも5年の時効は適用されません。この場合「侵害者が善意で合理的な理由がある場合」のみに5年の時効が適用されます(最高裁昭和53年12月20日)。故意に他の相続人の相続権を侵害しておきながら、5年間返還しなかったら時効取得できるのは不合理だからです。
通常、遺産を独り占めしている共同相続人は「他の相続人の相続権を侵害している」と認識しているでしょう。その場合、侵害されたことを知ってから5年を過ぎても相続回復請求権を行使して遺産を取り戻せる可能性があります。

相続権の侵害者が共同相続人以外の相続人であっても、時効を止める方法があります。
具体的には「相続権の侵害を知ってから5年以内」に訴訟を起こせば、時効は止まります。
訴訟を起こした時点で時効が「完成猶予」となり、判決が出たら「更新」されて時効が10年間延長されると考えましょう。また相手が遺産の返還義務を認めた場合にも時効は更新されて5年間延長されます。

第三者が遺産を占有している場合、そのまま他者へ売却したり譲渡したりされたりするケースもあるでしょう。このような「表見相続人からの譲受人」は時効を主張できるのでしょうか?
法律的には「表見相続人の譲受人は相続回復請求権の時効」を援用できないと考えられています。
ただし「一般の取得時効」は援用できる可能性があります。取得時効の年数は、占有者が善意無過失なら10年間、そうでない場合には20年間です。

以上をまとめると、表見相続人は「相続回復請求権の時効」、表見相続人からの譲受人は「取得時効」を請求して返還を拒める可能性がある、という結論になります。

もしも相続権を侵害されたらどうやって取り戻せばよいのでしょうか?

まずは侵害者と直接話し合って返還を求めましょう。なお裁判外の請求によっても時効を止めることは可能です。
5年の時効が近づいてきたら、証拠を残すため内容証明郵便を使って相続回復請求権にもとづく請求書を送りましょう。
話し合いによって合意ができれば「合意書」を作成して遺産を返還してもらってください。
合意書は必要に応じて公正証書化するとよいでしょう。

話し合っても合意できない場合、訴訟を起こす必要があります。
裁判の管轄地は被告(相手方)の住所地の地方裁判所です。訴訟を起こせば時効が止まりますし、訴訟で相続権の侵害を立証できれば裁判所が遺産の返還命令を出してくれます。
相手が返還に応じない場合、強制執行(差し押さえ)によって取り立ても可能です。

相続回復請求権の訴訟は「遺産分割調停」とは異なる手続きです。共同相続人との間で遺産分割協議を行っている場合でも、別途訴訟を起こさなければならないので注意しましょう。
また、遺産分割調停や審判を行っても相続回復請求権の時効は止まりません。話し合っても返してもらえないなら、早めに訴訟を申し立てましょう。

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相続人になっているのに他の相続人や第三者によって権利を侵害されたら「相続回復請求権」を行使して遺産を取り戻せる可能性があります。
ただこの権利についてはあまり一般に知られておらず、請求時に相手とトラブルになるケースも多数です。1人で適切に対応するのは難しくなるでしょう。スムーズに手続きをすすめるためにも弁護士に相談してみてください。

(記事は2021年5月1日時点の情報に基づいています)

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