贈与のえこひいきは後々、大きな問題に

私には子どもが1人しかいないのでよくわかりませんが、子どもが2人以上いる場合、知らず知らずのうちに子どもの誰かをえこひいきしてしまうという話をよく聞きます。でも、贈与のえこひいきは後々問題を大きくする可能性がありますから、くれぐれも 注意していただきたいのです。

Aさんには、息子と娘の2人のお子さんがいらっしゃいます。息子さんは既に結婚していて、お子さんも2人います。一方、娘さんは働いていますが、独身で実家暮らしです。

Aさんは、相続税対策も含めて積極的に生前贈与を行っていました。でも、贈与の相手は息子さんばかり。息子さんには毎年110万円の贈与をしていて、家を買うお金も出してあげたといいます。しかも、お孫さんには教育資金の贈与もしたとかで、あれこれ合わせると2000万円以上息子さん一家に贈与しています。

一方、娘さんについては、「家には一円もお金を入れないで、稼いだお金は自分で使っているのよ。その上食事の支度から何から私にさせているんだから、これ以上はいらないでしょ」とおっしゃいます。

確かに、家の手伝いもしないで大きな顔をして家にいる娘さんより、独立して家族を養っている息子さんのほうに肩入れしたくなるAさんの気持ちもわからなくはありません。

そういう Aさんの気持ちを知ってか知らずか、娘さんも、お兄さんへの贈与について気にする様子もなく、Aさんは「娘は何の文句も言わないわよ」とおっしゃっています。

この話を聞いて皆さんは、どう思われますか? 「娘さんも納得しているならいいんじゃないの?」と思いますか?

相続は親からの「最後のプレゼント」

Aさんは、娘さんも文句を言わないのだからいいのだ、と思っているようですが、このような、贈与のえこひいきは後になってもめるもとになる可能性がとても高いのです。

それは、ご両親ともに亡くなり、財産を子ども同士だけで分けなければいけないという時に勃発します。

心情的なことを申し上げると、子どもにとって相続というのは親からの最後のプレゼントです。娘さんもこの段になって、「兄ばかり贈与を受けて私は何ももらっていない。これはえこひいきだ」と思ってしまうかもしれないのです。これは相続特有の感情、きょうだい間の嫉妬の感情なのです。「両親は兄のほうがかわいかったのではないか」――贈与が少なかった方からすると、こう思ってしまうのです。

よく「うちの子どもたちは欲がないし、仲がいいから相続でもめたりなんかしないよ」とおっしゃる方がいますが、相続でもめる理由は、欲だけではないし、年をとった兄弟姉妹というのは、親が思うほど「仲良く」はありません。お互い自分の家族、自分の生活を持てば、子どもの頃の関係とは変わってしまって当然なのでしょう。

いろいろな相続の現場を見てきて思うのは、「えこひいき」は相続をもめさせる大きな要因の一つだということ。やむをえず「えこひいき」をしてしまう場合には、事前の話し合いや遺言書などで、「ひいきされなかった」ほうの子どもを、きちんとフォローしておくことをおススメします。

特別受益の持ち戻しを言い出すとやっかいな問題に……

民法には「特別受益の持ち戻し」という規定があります。これは、亡くなった人から生前に財産をもらった相続人がいる場合、その分を考慮して財産を分けようというものです。生前に財産をたくさんもらった人とそうでない人との不平等を解消することを目的としています。

どちらかがこの「特別受益の持ち戻し」を言い出すと遺産分割はやっかいになります。「お兄ちゃんは、家を買う時も、車を買う時もお金をもらったじゃないの! その分は相続で私が多くもらいますからね !!」

「お前は、家で上げ膳据え膳だったじゃないか。家賃を払わなくてよかった分は相続で精算しろよ!」

「じゃあ、いくらもらったのか証明してよね!」

などと醜い争いが始まる可能性もあるのです。こんなこと、言うほうも言われるほうもいい気分ではありません。そんなことにならないよう、贈与はバランスを大事にしていただきたい、そう切に願います。

(記事は2021年3月1日現在の情報に基づきます)