目次

  1. 1. 【事例】遺言で遺産がすべて長男の兄へ 妹が不公平と主張
  2. 2. そもそも遺留分とは何か?
  3. 3. 時効は相続開始と遺留分侵害を知ってから1年
    1. 3-1. 相続開始と遺留分侵害を知ってから1年
    2. 3-2. 相続開始から10年
  4. 4. 遺留分侵害額請求権の行使方法と手続きの流れ
  5. 5. 遺留分侵害額請求をしたときに争いになりやすい点
    1. 5-1. 不動産の評価
    2. 5-2. 遺言書の無効
    3. 5-3. 養子縁組の無効
    4. 5-4. 使途不明金や贈与

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結婚を機に実家を出て宮城県で暮らす女性(50代)。父親が亡くなり、すべての遺産を長男に相続させるという遺言書が遺されていた。当初は、それで納得していたが、よくよく考えてみたら「今時、長男だからという理由で遺産をすべて引き継ぐなんて不公平」と思い始めた。遺留分を請求できることは知っているが、遺留分の請求の方法もよくわからない。ネットで調べると遺留分侵害額請求権には時効があると知り焦りはじめているのだが……。

遺留分とは、簡単にいうと亡くなった方(被相続人)の相続財産について、一定の範囲の法定相続人に確保されている最低限の受取分です。遺留分については、遺言や民事信託契約などで特定の者に被相続人のすべて財産が渡る内容になっていたとしても、遺留分を侵害することはできません。また、遺留分を請求できるのは、被相続人の配偶者、子(子が既に死亡している場合は孫など)、直系尊属(親など)だけです。遺留分を請求する権利のある相続人を遺留分権利者と言いますが、被相続人の兄弟姉妹が、相続人になった場合であっても民法上、遺留分権利者にはなれないという点に注意が必要です。

遺留分侵害額請求には時効があります。そのため、下記1又は2の期間が経過する前に遺留分侵害額請求権を行使する必要があります。

遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈(遺言により財産を無償で譲ること)があったことを知った時から1年で、時効により消滅します。このように、遺留分侵害額請求の時効は大変短期ですので、葬儀や相続税の申告などの相続手続きに追われているうちに時効となってしまうことよくありますので注意が必要です。

また、相続が発生すると、遺産の分け方を相続人全員で協議をする必要がありますが、一旦、遺産分割協議で合意してしまった場合は、たとえ相続開始と遺留分侵害を知ってから1年以内であっても、相続人全員の合意がない限り遺留分を受け取るのは難しいでしょう。

遺留分侵害額請求権は、1の場合だけではなく、相続の開始から10年が経過したした場合であっても時効により消滅します。

遺留分侵害額請求には時効があります。相続手続きが進まないと、主張できる期間は、あっという間に過ぎてしまうかもしれません。悩んでいる場合、弁護士に相談すると問題が解決に向かうかもしれません。

民法上は、遺留分侵害額請求権の行使方法に形式的な要件はありません。そのため、口頭で遺留分を請求した場合であっても民法上、有効です。

民法上は遺留分侵害額請求権の行使方法が定められていないといっても、遺留分を主張した時点で時効が過ぎていたかという点で争いになることが予想されますので、実務上は配達証明付き証明郵便を利用されることがほとんどです。内容証明によって、文書の内容が証明され、配達証明は配達した日時が証明されます。

このように、まずは遺留分侵害額請求権を行使し、その後は遺留分侵害額請求に応じるか、またその金額や支払い方法などを話し合います。応じてもらえなかった場合は、まず調停を起こして話し合う必要があります。調停でも合意できない場合は訴訟で争うことになります。

内容証明郵便で通知をすれば、通知をしたかについて争われることはありません。もっとも、遺留分侵害額請求では調停や訴訟になることも現実には多くあります。遺留分侵害額請求権を行使した際に争いになりやすい点について解説します。

民法上、遺留分の割合は決まっていますが、相続財産の中に不動産があった場合はそれをいくらと評価するかなど遺留分を算定する基礎となる財産の額が争われることもよくあります。

遺言書で特定の者に「全ての財産を相続させる」と書かれている場合、遺言書の有効性が争われることもあります。遺言が無効となった場合は、法定相続分で遺産を分けることになり、遺留分より多くの財産を相続できることになりますので、遺留分の主張と同時に遺言書の無効も主張されることがあります。仮に冒頭の事例の遺言書が書かれたとき、父が重度の認知症であった場合などは、妹は、遺留分侵害額請求権を行使すると同時に、遺言の無効も兄に主張し、法定相続分で父の遺産を相続することを求めるなどの争いになる可能性があります。

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例えば、冒頭の事例のようなケースにおいて、父が自分の財産はできるだけ長男である兄に与えたいと考えていた場合、妹の遺留分を減らすために、自分の孫や兄の嫁など近しい人と養子縁組をするという手段を取る場合がよくあります。
この場合においても、養子縁組時点で父が重度の認知症であったというような事情があれば、相談者は兄に遺留分侵害額請求権を行使するとともに、養子縁組の無効を争い、法定相続分で父の遺産を相続することを求めるという争いにつながる可能性があります。

事例のケースで例えば、父が生前に兄に多額の金員を贈与していた場合は、相談者は兄に対して、特別受益として遺産にその金額を持ち戻すよう主張する可能性があります。また、兄が父の生前に父の財産を自分のために使っていた場合などは、使途不明金として、妹が兄の使い込みを主張し、自分が相続できる財産を増やすよう請求することも考えられます。

遺留分侵害額請求権を行使する期間はとても短いので注意が必要です。相続手続きに追われるとあっという間に過ぎてしまいますし、冒頭の事例でいうと遺留分で揉めている間に兄が父の財産を使い切ってしまった場合、妹は何も請求できなくなってしまいます。そのため、遺留分について不安がある場合は、お早めに弁護士にご相談ください。

(記事は2021年4月1日現在の情報に基づきます)

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