目次

  1. 1. 原則として、相続人が遺贈義務者となる
  2. 2. 遺言書に遺言執行者を定めておくことが大切
  3. 3. 遺贈義務者の責任とは
  4. 4. 遺言執行者を指定する場合の注意点
  5. 5. まとめ|遺言執行者は弁護士らに依頼を

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遺言による財産の無償譲与を「遺贈」といいます。遺言書を書くことにより、自分の相続財産を自分の一方的な意思で、相続人・相続人以外の人・法人などに与える処分行為であるとも言えます。遺贈には、「自宅をAに遺贈する」など特定の財産を指定して受遺者に与える「特定遺贈」と、「自分の全財産の3分の1をBに遺贈する」など相続財産の全部または一定割合を受遺者に与える「包括遺贈」があります。

遺言には法的効力がありますが、誰かが遺言に基づいて手続きをしないと、いつまでたっても相続財産はそのままの状態です。遺贈に伴う相続財産の権利移転手続きや財産の引渡しなどを実行する義務を負う者が「遺贈義務者」です。では、どのような人が遺贈義務者となるのでしょうか。

  • 原則として、相続人が遺贈義務者となります。
  • 包括遺贈がある場合は、包括受遺者も遺贈義務者となります。
  • 相続人がいない場合や、いるかどうか明らかでない場合は、家庭裁判所で選任された相続財産管理人が遺贈義務者となります。
  • 遺言書の指定や家庭裁判所の選任により遺言執行者がいる場合は、遺言執行者が遺贈義務者となります。

では、遺言執行者がいる場合でも、相続人は遺贈義務者となるのでしょうか。遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他の遺言に必要な一切の行為をする権利義務を有していますので、相続人が遺贈義務を負うことはありません。遺言で遺言執行者を指定しておけば、相続人の手をわずらわせることなく、遺言執行者が遺言の内容を忠実に実行することになります。

さらに、相続法の改正により、「遺言執行者がある場合には、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない」という民法第1013条に、第2項として「前項の規定に違反した行為は無効とする」という条項が追加され、相続人が勝手に相続財産を移動しても無効であることが明文化されました。こうした点からも、遺贈を確実に実行するためには、遺言書に遺言執行者を定めておくことが大切です。特に遺贈寄付の場合は、円滑な遺言執行を行う上で、相続人に丁寧な説明をすることが求められますので、遺言執行者の役割は重要です。

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遺贈義務者が負う義務には、権利移転の手続きや財産の引渡しなどがあるとお伝えしましたが、具体的には「預貯金の解約換金」「有価証券の名義変更」「不動産の相続登記」「動産の引渡し」などがあります。遺贈義務者には、これ以外にも「引渡義務」を負います。相続法改正により、従来の「不特定物の遺贈義務者の担保責任」が2020年4月1日から「遺贈義務者の引渡義務」に変わりましたので、この点について解説します。

改正前の「不特定物の担保責任」ですが、まず「不特定物」とは「米10キロ」「りんご100個」「馬10頭」などのように、種類と数量のみを指定し、代替がきく物を指します。「担保責任」とは、その物に欠陥や不具合があった場合に給付した人が負う責任のことです。不特定物を遺贈するときに、その不特定物が相続財産の中にないなどの不具合があった場合は、遺贈義務者は何らかの方法で同様の不特定物を調達して遺贈しなければならないということです。実際の遺言では「◯◯の土地」「◯◯の株式」などモノを特定して遺贈することが普通なので、不特定物の遺贈は少ないのですが、この担保責任は結構重い責任です。

これが相続法の改正により、不特定物かどうかに関係なく、「相続開始の時の状態で引き渡し、又は移転する義務を負う」に変わりました。相続開始の状態で引き渡せば良いので、遺贈義務者の負担が軽減されています。

前述のとおり、遺言執行者がいない場合には相続人が遺贈義務者となります。逆に、遺言書で遺言執行者を指定すれば、相続人以外の第三者が遺贈義務者になることもあり、その場合は遺贈義務者として権利移転義務や引渡義務を負うことになります。

遺言執行者の権利義務は、遺贈義務者と同じではなく、次のような権限や責任が定められています。

  • 遺言執行者の任務を開始したときの、遺言内容の相続人への通知。
  • 遺言の内容を実現するため、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
  • 相続財産の目録を作成して、相続人に交付すること。
  • 善管注意義務、報告義務、受取物の引渡義務、費用等の償還請求権など。

遺言執行者は相続人に優先する強力な権限を持っている代わりに、重い責任を負っていますので、安易に友人を指定しないようにしましょう。また、同年代の友人は自分と同じように年齢を重ねますので、自分が亡くなる時には友人も年をとっていて遺言執行ができない可能性があることにも注意が必要です。

遺言の執行は、遺言者の意思が書かれた遺言内容を実現することですので、すべての相続人の利益を満たすことはできず、時には相続人と対立する場面もあるかもしれません。また、法律や税務の知識や経験も必要です。こうした点からも、多少の費用はかかっても遺言執行者には弁護士などの専門家に依頼して、遺言書で指定すると良いでしょう。遺言執行報酬は遺言執行時に、相続財産から差し引く形で支払うことになりますので、生前に支払う必要はなく、実質的な負担感は少ないでしょう。

(記事は2021年2月1日時点の情報に基づいています)

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