目次

  1. 1. 親が借金の連帯保証人のまま亡くなった
  2. 2. 遺留分侵害額請求とはなにか
  3. 3. 遺留分侵害額の計算方法
  4. 4. 連帯保証債務は控除できない
  5. 5. 遺留分計算の際に連帯保証債務を控除できるケースとは
  6. 6. 連帯保証債務を相続しない方法は?
  7. 7. 相続放棄をしても生前贈与を無かったことにできない

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亡くなった親が会社を経営していた場合、親が会社の借金の連帯保証人になっていたというケースも多いと思います。では、遺言で遺産を一部の相続人だけが相続し、他の相続人から遺留分侵害額請求を受けたとき、連帯保証債務はどのように扱われるのでしょうか?

結論から言うと、遺留分を計算するときには一般の債務は控除できますが、連帯保証債務は当然には控除されません。そこで、どのような場合であれば控除されるのか、さらには連帯保証人の地位を相続しない方法も解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。なお、本稿の説明は、令和元年(2019年)7月1日から施行された改正相続法の遺留分制度を前提としています。

例えば、夫婦の財産を全て夫名義で管理している夫婦がいたとして、夫が、実は全ての財産を第三者に渡すという遺言を作っていたとしたら、夫が亡くなった際に妻が全く財産を引き継ぐことができず、その後の生活に困ってしまいます。

そこで、法律上、兄弟姉妹以外の相続人であれば最低限一定の割合の財産を受け取ることができる、遺留分侵害額請求権という制度が作られています。この権利を持つ相続人は、遺言の内容に沿って実際に相続する財産額が、最低限の取得分である遺留分を下回っている場合、その不足分の金額を請求することができます。

次に、遺留分侵害額請求として請求できる金額の計算方法を見ていきましょう。遺留分侵害額は、遺留分権利者が遺言の内容に沿って実際に相続する財産額が、最低限の取得分である遺留分を下回る場合のその不足額です。おおまかには、次の1から3の計算手順になります。

  1. 遺留分の額を計算
  2. 遺留分権利者が遺言の内容を踏まえて実際に相続する財産額を計算
  3. 1.から2.を差し引いて遺留分侵害額を計算

以上の計算手順の中で、1の遺留分の額を計算される際に、債務を考慮することができます。そこで、遺留分の額の計算を詳しく見てきましょう。

遺留分の額=遺留分計算の基礎となる財産額×個別的遺留分の割合

※遺留分計算の基礎となる財産額
=被相続人が相続開始時に有していた財産+生前贈与などの額-債務額
※個別的遺留分の割合
多くのケースでは、法定相続分の2分の1となります(相続人が直系尊属のみの場合、配偶
者と兄弟姉妹が相続人の場合は異なります。)

計算の中で、遺留分計算の基礎となる財産額の計算際に、債務が控除されているのが分かると思います。

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遺留分侵害額の計算には、債務額も計算内容に含まれています。それであれば連帯保証債務も考慮されるようにも思えますが、原則として、連帯保証債務を含む保証債務は、遺留分の額を計算する際に控除できません。なぜなら、保証債務は、本来支払いをしなければならない人(主債務者)が支払わないときに、保証人が肩代わりして支払うものなので、保証人が必ずしも債務を支払うわけではないからです。また、仮に保証人が債務の支払いをした場合であっても、保証人は肩代わりして支払った分を主債務者に対して返してくれと請求することができます。そのため、必ずしも保証人が保証債務を最終的に負担するわけではないので、原則として控除することができません。

ただし、上記のような理由が当てはまらない場合、つまり、最終的に保証人が債務を負担しなければならないような場合は、保証債務額を控除できるとされています。実際、主債務者が債務を支払うことができず保証人が代わって支払わなければならず、しかも、保証人が主債務者に対して肩代わりして支払った分を返してくれと請求しても主債務者から返ってくる見込みがない、というような特段の事情があれば、保証債務であっても遺留分の計算の際に控除できるとした裁判例があります(東京高判例平成8年11月7日)

このような特別の事情があるかどうかについては、例えば、主債務者の経営状況(倒産状態になったり、行方不明になっていないか)や資産状況(債務超過が継続していないか)、それまでの支払い状況(滞りなく支払っているか)などの事情を踏まえて、総合的に判断されると考えられます。

少し話は変わりますが、被相続人が連帯保証人だった場合、連帯保証債務は相続されますので、相続したくない場合は、相続放棄または包括遺贈の放棄をする必要があります。相続人や、遺言で包括遺贈をされた場合の受遺者(例えば、「一切の財産を●●に遺贈する。」「遺産の2分の1を●●に遺贈する」などの遺言で財産を受け取る人を指します。」は、連帯保証債務も相続することになります。これらの場合、相続放棄をすれば連帯保証債務を相続せずに済みます。相続放棄には期間の制限があり、相続人が自己のために相続の開始があったこと知った時(受遺者は包括遺贈を知った時)から3か月以内に家庭裁判所へ相続放棄の手続をしなければなりません。

なお被相続人が相続人に内緒で連帯保証人になっているケースもあり、相続人が連帯保証債務を相続したことを知らないまま、3か月が経過してしまうこともあります。その場合でも、事例にもよりますが、裁判所は連帯保証債務を知った時から3か月以内であれば相続放棄を認めてくれることもあります。そのため、連帯保証債務を相続したことを知ったら早い段階で弁護士に相談しましょう。

連帯保証債務を相続しないためには、相続放棄をする必要があります。しかし、相続放棄をすれば遺留分侵害請求も受けなくなるとは限りません。なぜなら、被相続人からの生前贈与や死因贈与(被相続人の死亡によって効力が生じる贈与の一種)で財産の大部分を受け取った場合などは、遺留分を侵害している可能性があるからです。そして、生前贈与や死因贈与は、契約という相続とは別ルートの財産の承継方法なので、相続放棄をしても生前贈与や死因贈与で財産を受けたことを無かったことにできないからです。この点は、多くの人が間違えやすい点なので、注意しましょう。

このように、被相続人が連帯保証人だった場合、考えなければならないことはたくさんあります。遺留分侵害額請求への対応についても、連帯保証債務が含まれるのかどうかなど、複雑な問題がありますので、早い段階で弁護士に相談しましょう。

(記事は2021年3月1日時点の情報に基づいています)

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