目次

  1. 1. 遺言はしっかりした形で
  2. 2. 遺贈寄付にも遺留分はある
  3. 3. 遺言執行者を決めておく

遺贈寄付のご相談を受けていると、時々「包括遺贈と特定遺贈のどちらで書くべきですか」と聞かれることがあります。その答えは、遺言者の相続人の状況や遺言の目的などによって変わりますので、その方に合った方法をご提案するようにしています。ここでは、それぞれの特徴について解説します。

包括遺贈は「全財産の2分の1を○○に遺贈する」のように、財産全体について割合を指定して遺贈する方法です。その財産を受ける人(または法人)を包括受遺者と言います。これに対して特定遺贈とは「自宅を○○に遺贈する」のように、財産の一部を特定して遺贈する方法です。

このように、包括遺贈や特定遺贈は、遺言における財産分与の指定方法なのですが、それぞれ法的性質が異なります。民法では「包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有する」と定めています。つまり、包括受遺者は単に財産を受け取るだけの存在ではなく、相続人とほぼ同じ立場になるのです。その結果、包括遺贈者は「プラスの財産もマイナスの財産(債務)も被相続人から引き継ぐ」ことになります。「2分の1を包括遺贈する」であれば、借金の2分の1も承継します。

これを遺贈寄付に当てはめて考えてみますと、ある日突然遺言が発見されて、非営利団体が包括受遺者となり、被相続人のプラスの財産とともに債務も承継する事もあり得るわけです。もしかすると債務の方が多いかもしれません。団体の側からすると有難い反面、怖いことでもあります。もし、包括遺贈で遺言を書く場合は、必ず事前にその団体に相談しましょう。

このように包括遺贈には注意すべき点があるのですが、相続人のいない方(相続人不存在)にとっては便利な方法です。一定の財産のある相続人不存在の方が亡くなると、相続財産は相続財産管理人のもとで債権者や特別縁故者に配分され、残った財産は国庫に帰属します。この手続きには通常1年以上かかります。遺言を作成していても同じで、団体に遺贈寄付されるのに相当な時間がかかってしまいます。しかし、この遺言を包括遺贈で書いておけば、団体は包括受遺者となって相続人がいる状態=相続人不存在ではなくなり、相続財産管理人の手続きを経ることなく速やかに遺贈寄付が実行されます。相続人のいない方は、寄付先団体に相談しながら、包括遺贈を検討されても良いかもしれません。

包括遺贈で遺贈寄付する場合の遺言は簡単です。「全財産を公益財団法人○○に遺贈する」と書くだけです。しかし一般的には、特定遺贈で作成されることが多いので、それなりにテクニックが必要です。例えば、財産状況が将来変化した場合でも、その都度遺言を書き替えしなくて良い書き方があります。「○○万円を遺贈する」ではなく「金融資産の10分の1を遺贈する」と書いておけば、一定割合が必ず遺贈寄付されることになります。無理なく遺贈寄付するための工夫です。また、換価が困難な財産は共有を避けたり、負担付遺贈にしたりするなど、遺言執行が円滑に行われるための工夫も必要です。遺贈寄付が確実に実行されるためには、遺言は専門家に頼むと間違いないでしょう。
このような工夫をしても、お気持ちの変化や諸事情により、遺言の書き替えや撤回が必要なこともあります。その際に気をつけたいのは「全部書き替える」「全部撤回する」ことです。一部書き替えや一部撤回もできますが、残った部分は有効です。これが、新たな遺言や分割協議との間で、効力の範囲や意思解釈を巡って問題が起こることがあります。遺言の書き替えや撤回の場合も、専門家に相談すると良いでしょう。

遺贈寄付の意思を確実に反映するためには、遺言書の付言事項に、遺贈寄付を決めた理由を記載することも大切です。相続人にとって遺贈寄付は、故人の素晴らしい行為であるとともに、自分の財産の取り分が減少することでもあります。これを不満に思う相続人は、遺言執行を妨害する場合もありますが、寄付する理由が遺言書に明示されていれば、納得するか納得しなくても受容する可能性が高くなります。同様の趣旨から、生前にご家族に遺贈寄付の意向を示しておく、少しずつ寄付を行ってその姿勢を見せることも有効でしょう。

遺留分は、兄弟姉妹(または甥姪)を除く相続人に認められた相続財産の「取り分」です。遺留分を侵害するような極端な配分の遺言があった場合でも遺言は有効であり、その通りに遺産は配分されますが、遺留分を侵害された相続人は遺留分に不足する分を他の相続人や受遺者に請求でき、これを遺留分侵害額請求と言います。

遺留分は遺贈寄付の場合にも適用されます。遺言により非営利団体に多くの相続財産を配分した結果、相続人の遺留分を侵害すると、その相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。この請求は権利なので必ず行使されるものではありませんが、相続人と団体との間でトラブルになる可能性が高くなります。よほどの事情が無い限り、遺留分を侵害する遺贈寄付は避けた方が無難です。団体側もそのような寄付は望んでおらず、無理のない範囲にとどめておくべきです。

では、遺留分を侵害しなければ遺贈寄付は自由にできるかと言えば、法的には確かにその通りなのですが、実際には遺留分のない兄弟姉妹などとの間でもトラブルは起こります。例えば、生前に一方ならぬ世話になったり、葬儀やお墓などで手間をかけたりするような場合は、お世話になった方に対してそれなりの配慮があった方が、円滑な遺言執行が期待でき、遺贈寄付の意思がスムーズに叶えられるように思います。

また、遺留分は遺言の場合にだけ発生するように思われるかもしれませんが、「死因贈与契約による寄付」や「信託による寄付」の場合でも同じです。特に信託の場合、信託財産は所有権が相続財産から分離していますので遺留分は関係ないように見えますが、委託者が一定の権限を持ち続ける点で遺贈と同視されて遺留分算定の基礎に組み入れられます。

遺贈寄付を確実に実行するためには、遺言執行者の存在が欠かせません。多少なりとも遺贈寄付に不満を持つ相続人がいても、その圧力に屈しないで執行を完遂することが遺言執行者の使命です。そのためには法律の知識や手続きの経験が必要ですので、遺言執行者は専門家に任せるのが良いでしょう。

専門家と言っても、弁護士・司法書士・行政書士などは法律の専門家、税理士は税務の専門家、信託銀行は遺言信託の専門家など様々です。遺言執行者は法律の知識を必要としますので、法律の専門家または信託銀行に依頼するのが良いでしょう。選定にあたっては、遺言執行報酬の多寡も判断材料ですが、遺言に付帯する見守り契約・任意後見契約・死後事務委任契約等が必要に応じて選べるかもポイントです。

なお、遺言作成の相談を受けた専門家がそのまま遺言執行者となるケースが多いように思います。相談を受けた専門家は、相続人の状況や財産内容をよく把握していますし、何より遺言者の意向を直接聞いていますので、この財産配分に至った思いや背景も知っています。どんな抵抗があろうと、遺言者の遺志を叶えようと必死になるはずです。遺言のご相談をする時は「この人に遺言執行を任せることになる」と思いながら、ご相談されると良いでしょう。

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(記事は2020年11月1日時点の情報に基づいています)