お墓の相続 相続放棄で拒否できる? 「墓じまい」のポイントまで解説
親が亡くなった際にお墓を引き継ぐのは、祭祀承継者です。昔は長男が引き継ぐことが一般的でした。故郷のお墓を引き継ぎたくないからといって相続放棄をしたとしても、承継を拒否できるとは限りません。相続放棄はお墓の承継に影響しないからです。祭祀承継者の決め方とともに、「墓じまい」の重要ポイントも弁護士が解説します。
親が亡くなった際にお墓を引き継ぐのは、祭祀承継者です。昔は長男が引き継ぐことが一般的でした。故郷のお墓を引き継ぎたくないからといって相続放棄をしたとしても、承継を拒否できるとは限りません。相続放棄はお墓の承継に影響しないからです。祭祀承継者の決め方とともに、「墓じまい」の重要ポイントも弁護士が解説します。
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昔は先祖代々受け継がれてきた土地に住み、長男が家やお墓を守っていくという生き方が一般的でした。しかし、現代では、お墓を継ぐ家族がいるとしても、進学や転勤で故郷を離れることも珍しくなく、お墓を管理していくことが大変な場合もあります。相続とお墓の承継の関係について、事例をもとに見ていきましょう。
【事例】
Aさん(70代男性、東京都内在住)
田舎の親が亡くなった。自分は長男であるが、自分も高齢。遠い田舎にあるお墓の管理や供養が大変であるため、お墓を相続したくないし、そもそも遺産もいらないと思っている。
弟や妹に継いでもらおうと思ってその話をすると「私たちも継ぎたくない」といわれてしまう。相続放棄したらお墓は継がなくて良いのだろうか? その場合、誰がお墓の管理をするのか?誰も相続しない場合、お墓を放っておいても問題ないのか。
相続放棄をした人は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます。では、相続人は相続放棄をすれば、お墓も含めて、亡くなった人の財産はすべて引き継がなくてもいいのでしょうか。
お墓など先祖の祭祀に関係するものを「祭祀財産」といいます。民法では系譜(家系図など)、祭具(仏像や位牌など)、墳墓(墓石、墓碑など)の3種類を指します。ただし、祭具として用いられる器具は宗教や宗派などによって異なります。
祭祀財産は相続財産に含まれず、民法上は祭祀承継者がそれらを引き継ぐことになっています。祭祀承継者は必ずしも相続人や親族である必要はありません。祭祀承継者とされた人は、権利を放棄したり、辞退したりすることはできません。
なお、お墓を含む祭祀財産は相続財産の対象ではありませんので、承継しても相続税を支払う必要はありません。
事例に出てくるAさんのように親の遺産を相続したくないという人が相続放棄したとしても、Aさんが祭祀承継者とされた場合は、お墓などの祭祀財産を承継しなければなりません。
Aさんの場合とは逆に、亡くなった人に借金があり、お墓などの祭祀財産を引き継ぎたいにもかかわらず相続放棄をしなければならない場合、相続放棄をするとお墓などの祭祀財産を相続できなくなってしまうのでしょうか。
これについても、同様に祭祀財産は亡くなった人の相続財産に含まれませんので、相続放棄をしたとしても、祭祀承継者が祭祀財産を承継することができます。
では、祭祀財産を承継する祭祀承継者はどのように決まるのでしょうか。
祭祀承継者は、以下の優先順位で決まります。
たとえば、Aさんの親が遺言でAさんの弟を祭祀承継者としていた場合は、Aさんが長男であっても、Aさんの弟が祭祀承継者としてお墓などの祭祀財産を承継することになります。
また、Aさんの親が遺言等で祭祀承継者を指定していなかった場合は、親族間での話合いや慣習により祭祀承継者が決められることになります。現代では先祖代々の土地等の家督を相続する長男が祭祀承継者となる慣習などは薄れていることも多く、親族会議等によって祭祀承継者が決まる場合も少なくないようです。
なお、祭祀承継者は相続人以外の人でも祭祀承継者になることは可能であり、複数の祭祀承継者を指定することもできます。たとえば、Aさんの親の兄弟姉妹が祭祀承継者となることも可能ですし、お墓が複数ある場合は、それぞれのお墓の近くに住んでいる人が、それぞれのお墓の祭祀承継者になるということも可能です。
ただし、墓地や霊園によっては、墓地使用権の承継に「使用者の親族」などの条件を設けている場合もあります。祭祀承継者を選ぶ前に、使用規則を確認しましょう。
Aさんの親が遺言等で祭祀承継者を指定しておらず、慣習や話し合いによっても祭祀承継者が決まらない場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立て、祭祀承継者を決めてもらうことになります。
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相続の相談が出来る弁護士を探す祭祀承継者の主な役割は以下の通りです。
祭祀承継者は、祭祀を行う義務が課されるわけではありませんが、実際にはお墓の維持管理のための費用を払ったり、親族を集めての法要を主催したりという役割を担うことが多いでしょう。
また、祭祀財産の処分も祭祀承継者の自由であるとされています。お墓の移転や分骨なども祭祀承継者の同意がなくては行えません。
祭祀承継者が決まったら、お墓のある霊園やお寺に連絡し、名義変更の手続きをします。名義変更に必要な書類はお墓の管理場所によって異なりますが、一般的には以下が必要となります。
このほかに、祭祀承継者であることを証明する書類(遺言書、親族の同意書、家庭裁判所の審判所など)を求められる場合があります。
Aさんが祭祀承継者になった一方、もはや自分でお墓の管理ができないと考えた場合はどのように対処すれば良いのでしょうか。
祭祀承継者となったAさんが、祭祀承継者の権限として「墓じまい」をしたいと思えば、その手続きを進めることも可能です。墓じまいとは、お墓を解体・撤去して更地にし、使用権を墓地の管理者に返すことです。
ただし、墓じまいの手続きは複雑であり、改葬許可申請という行政手続きのほか、寺院(霊園)との墓地使用契約の解約、墓石の撤去などが必要となります。そのため、墓じまいには多くの費用がかかります。
相続放棄をしてしまうと、祭祀承継者が自分で墓じまいの費用を負担することになりますので、むしろ、祭祀承継者になるかもしれない人は、それを見込んで遺産を相続されることをおすすめします。
Aさんが祭祀承継者となった一方、故郷のお墓が遠いためお墓を管理できないということであれば、Aさんの家の近くにお墓を移転するという方法もあります。
その場合であっても、遺骨を移転する場合は、改葬という行政手続きをしたり、移転先のお墓を購入したりと、かなりの時間と費用がかかります。この場合も墓じまいと同様に相続放棄すべきかは慎重に判断する必要があります。
以上のようにお墓などの祭祀財産と相続放棄には直接の関係はありません。そのため、相続放棄をしても祭祀承継者となるとお墓は承継しなければならないし、お墓を承継したいと考えている人が相続放棄しても問題ありません。
もっとも、お墓を承継する人がおらず、自分が祭祀承継者になってしまった場合は、正しい方法で墓じまいをしなければなりません。相続放棄や祭祀承継者の指定など法的問題で迷ったら、早めに弁護士に相談するのが良いでしょう。
(記事は2022年12月1日時点の情報に基づいています)
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