目次

  1. 1. 先祖代々の菩提寺とのやりとりでトラブルも
  2. 2. 合葬や合祀なら次世代の負担が少ない
  3. 3. 親や子、親類とも話し合い意見を聞くのが成功のポイント

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「先祖の墓を守っていた親の死をきっかけに、墓じまいを考える人が多い。特に実家を離れて遠方で暮らす人にとっては切実な問題です」

と話すのは、墓じまい代行「ミキワの墓じまい」(埼玉県)の代表・吉野操さんです。

「親を見送った後、遺骨を遠い実家近くの墓に入れてしまうと、墓参りもままなりません。自分の代だけならともかく、将来こうした責任を子や孫に負わせることを想像した時、墓じまいを考え始める人が多いようです」(同)

先祖代々の墓を跡継ぎが守っていくという習慣は、子どもが実家を継いでその地域に住み続けるのが前提で成り立っていました。しかし現在は、単独世帯や夫婦のみの世帯が全体の過半数を占めるようになり、墓を守り続けることが難しくなっています。実際、厚生労働省の「平成30年度衛生行政報告例」によると、墓じまい(改葬)は11万5384件、10年前の調査から約1.6倍増加しています。

墓じまいをするには、現状の墓がある市区町村役場の許可が必要で、その際に墓の管理者である霊園や寺院の埋葬証明が求められます。具体的には、役場から取り寄せた「改葬許可申請書」の墓地管理者の証明欄に記入してもらうというもので、霊園であれば事務的に対応してもらえますが、菩提寺の場合、トラブルに発展する例が見られます。住職が記入を拒否したり、数百万円といった高額な「離檀料」を請求するケースがあるのです。

日本葬祭アカデミー教務研究室の二村祐輔さんは、その背景をこう解説します。

「菩提寺にとっては墓じまいは檀家が離れることであり、護寺会費など収入が得られなくなることから、こうした対応に出てしまうと考えられます。本来、寺院に拒否する権利はありませんが、こじれると裁判に発展するケースもあります」

寺院の許可は必要ないとはいえ、申請書に記入してもらわなければ、原則として役場は許可を出しません。二村さんは「記入して当然という態度をとったり、感情的な言い争いをしてもいいことはありません。まずは長年の供養に感謝し、お墓の維持について困っていることを伝えましょう」とアドバイスします。

「話し合いがこじれて墓を放っておかれると最終的に困るのは寺ですから、高齢で体力的にも経済的にも難しくなったとか、老人ホームに入るとか納得できる事情を説明すれば、多くの場合は応じてもらえるはずです」(二村さん)

条件として離檀料を求められるケースもあり、その金額で折り合いがつかないこともあります。離檀料とは、これまでお世話になった寺に対しての感謝の意を表すものです。ただし、お墓を建てるときの契約書に離檀料についての取り決めがない限り支払義務はありません。寺によっては受けとらないところもあります。

前出の吉野さんは、「一般的な寺なら3~5万円程度が相場かと思いますが、格式の高い寺だと20~30万円というケースも多い」といいます。それを大きく超える額を求められた場合は交渉の余地がありますが、収入を失う寺側の事情も理解したいと二村さんは言います。

「寺に支払っている護寺会費の10年分を目安に、交渉してはどうでしょうか。10年分という数字には、寺院側も納得せざるを得ない重みがあります」

檀家が毎年、寺に支払う護寺会費は、数千円~1万円程度が多く、高くても3万円を超えることは少ないと二村さんは言います。それでももめるようなら、行政書士などの第三者に依頼する手もあります。近年は墓じまいの手続きを代行してくれる業者もありますが、寺との交渉だけは自分でやるのが基本だと吉野さんは言います。

「寺と交渉するのが嫌なので代行してほしいという人も多いのですが、最初から第三者に任せると住職が感情的になって逆にこじれてしまうことも。まずは自分で話をすることをおすすめしています」

埋葬の証明欄にサインをもらったら、その申請書を役場に提出して、「改葬許可書」を発行してもらいます。この際、役場によっては、移転先の霊園や寺が発行する「受入証明書」を要求するケースもあります。事前に移転先からもらっておくとスムーズですが、散骨する場合や移転先を決めていない場合は必須ではありません。

「対応は担当者レベルで異なるのが実情。それでも本来は受入証明書がなくても許可書は出さなければいけないので、冷静に交渉しましょう」(二村さん)

許可書が発行されたら、霊園や寺院側とお骨を取り出す日程を調整し、石材店などに原状回復工事を依頼します。原状回復と墓石の廃棄にかかる費用は区画の面積や工事車両の入りやすさなど、条件によって異なりますが、1㎡あたり10~20万円程度が相場だと吉野さんは言います。

取り出したお骨の移転先としては、墓参りをしやすい場所に別の墓地を購入するのが最も手厚い供養です。しかし、子や孫への継承を望まない人は、永代供養をしてくれる納骨堂や、他の人と一緒に埋葬・管理される合葬墓、定期的に供養もしてもらえる合祀墓を選ぶことが多いようです。合葬墓や合祀墓であってもお墓はあるので、いつでも墓参りはできます。樹木を墓標とする樹木葬の墓地でも、合祀に対応するところはあります。

また、遺骨を海に撒く海洋散骨を選ぶ人もいます。自分で海岸などに撒くのは自治体によっては条例で禁止されていたり、トラブルにつながることもあるので、専門業者に依頼するのが無難です。散骨する際は遺骨をパウダー化し、船で沖合まで出て適切な場所で散骨します。散骨は費用も比較的安く、その後の管理費用がかからないのがメリットですが、すべて散骨してしまうと手を合わせる対象がなくなる点には注意したいところです。

墓じまいは、先祖代々の墓や菩提寺と別れるだけでなく、そのあとの供養にかかわる長い道のりです。二村さんは、子どもや孫など次世代の意見も聞いて検討することを勧めます。

「大切な家族のお墓や遺骨は、特別な存在です。子や孫に負担をかけないことを重視するあまり経済性や利便性を優先する中高年世代は多いのですが、意外と若い世代は大切に供養したいと考えていることも。数年に1度は旅行も兼ねて田舎に墓参りし、自分のルーツを確認する拠り所にもなるので、必ずしも墓じまいがベストな選択とは限りません。ふるさととの付き合い方も含めて、話し合ってはいかがでしょうか」

また、高齢の親が先祖の墓を守っているというケースなら、子のほうから墓に対する考え方を聞いたり、親亡き後のことを相談することも大切です。自分の代で先祖代々の墓を閉じる墓じまいの決断には罪悪感を伴うものですが、墓の将来を心配するのは親も同じ。生前に話し合っておくことで、こうした罪悪感や迷いも軽減されるでしょう。後になって親類から無責任な反対意見が出ることも防げるので、お盆など家族が集まるときに話題にしてみるのもよいでしょう。

(記事は2020年8月1日現在の情報に基づきます)

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