パソコンで作成した遺言は無効

被相続人(亡くなった人)の死亡からだいぶ時間が経って遺言が見つかった場合、遺言は無効になるでしょうか。結論から言うと、時効はありませんので、見つかった遺言には効力があります。遺言とは、被相続人が、自己の財産の処分方法などについて、最終的な意思を書面にして残したものを指します。遺言に関する内容は、民法960条以降に規定されています。遺言の効力が時効によって消滅する旨は規定されていないため、古い遺言であっても無効になることはありません。

遺言の基本的な事項について確認しておきましょう。遺言は大きく分けて、普通方式と特別方式に分けられます。特別方式は、病気や船舶遭難など、死亡の危険が急に迫っている場合に用いられる例外的な方法です。本記事では一般的に利用される普通方式の遺言を前提に説明します。

普通方式の遺言には、自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言の3種類があります。
自筆証書遺言は、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、押印することが要件です。代筆したものや、パソコンで作成した文書を印刷したものは無効です。

公正証書遺言を除く遺言の保管者またはこれを発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、その「検認」を請求する必要があります。また、封印してある遺言書は、家庭裁判所で相続人などが立会ったうえで、開封しなければなりません。検認とは、相続人に対して遺言の存在とその内容を知らせるとともに、遺言書の形状や日付、署名の有無など、検認時点における遺言書の内容を明確にすることで、遺言書の偽造や変造を防止する手続です。遺言が有効であるかを判断する手続ではありません。2020年7月からは法務局で自筆証書遺言を保管する制度が始まりました。法務局で保管する自筆証書遺言については、検認は不要です。

遺言は何通でも残すことができる

では、遺言の効力はいつから発生するでしょうか。条文を確認してみましょう。

(遺言の効力の発生時期)
第九百八十五条 遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
2 遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。

このように、一般的に遺言は被相続人の死亡時から効力が発生します。被相続人の保有していた財産は、原則として遺言に従って処分しなければなりません。ところで、遺言は何通でも残すことができます。事情が変われば、遺言者の最終意思も変わります。遺言が複数見つかった場合はどうなるでしょうか。

(遺言の撤回)
第千二十二条 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
(前の遺言と後の遺言との抵触等)
第千二十三条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。

このように、複数の遺言が見つかり、後日付の遺言が前日付の遺言に抵触する場合、抵触した部分については撤回したものとみなされます。注意すべきは、後日付の遺言が見つかった場合でも、前日付の遺言の効力がなくなるわけではなく、あくまで抵触する範囲で内容が無効になる点です。

例えば、1月1日付の遺言に「A不動産及びB不動産を長男に取得させる」旨の記載があり、2月1日付の遺言に「B不動産及びC不動産を二男に取得させる」旨の記載があった場合はどうなるでしょうか。この場合、1月1日付の遺言がすべて無効になるわけではなく、後日付の遺言に抵触するB不動産に関する部分が撤回されたとみなされます。従って、A不動産は変わらず長男が取得することになります。

原則、遺産分割協議より遺言が優先される

遺産分割協議が終わった後に遺言が見つかった場合はどう対処すべきでしょうか。被相続人が自筆証書遺言を作成し、誰にも存在を告げずに亡くなった場合、見つかるまでに時間を要する可能性があります。また、公正証書遺言を作成していた場合でも、遺言者が亡くなった場合に、遺言の存在が相続人に通知される制度はありません。従って、相続発生から時間が経って遺言書が見つかることは十分あり得ます。

遺言がある場合、原則として遺産分割協議より遺言が優先します。ですが、相続人の全員が合意するならば、相続人は遺言と異なる内容の遺産分割協議を成立させることも可能です。
しかし、遺言者は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができるため、そのような記載が遺言書にないか注意が必要です。

遺産分割協議後に遺言で子を認知する旨の記載があった場合はどうなるでしょう。認知は出生の時にさかのぼって効力を生じますので、子は相続人となります。ただし、民法には特例が設けられています。

第九百十条 相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。

遺産分割協議後に遺言が見つかり、認知の旨が記載されていた場合は、この規定が考慮されるでしょう。この他にも、被相続人の死亡よりかなり以前に昔に書かれた遺言が見つかる、第三者に財産を売却してしまった後に遺言が見つかるなど、様々なケースが想定されます。対応が困難な遺言が見つかった場合は、弁護士に相談してみるとよいと思います。

遺留分侵害額請求権には時効がある

不平等な遺言によって遺留分を侵害された法定相続人は、一定の割合で、侵害した人へ遺留分の取り戻しを請求できます。その権利を「遺留分侵害額請求権」といいます。民法改正前は「遺留分減殺請求権」という名称で、内容も異なりますが、改正後の内容を前提に説明します。

遺留分侵害額請求権は、「遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったときから1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年経過したときも同様とする。」と定められています。遺留分が侵害された法定相続人が、相続があり遺留分侵害があったことを知ったときから1年以内に遺留分侵害額請求権を行使しなければ、時効にかかります。相続開始から10年経過した場合も同様です。行使期間は短いため、注意が必要です。

トラブルを防ぐためにできること

自筆証書遺言は形式の不備で無効になることが予想され、問題が起こりやすいと考えられます。公正証書遺言は公証人が関与するため形式不備はなく、紛失の心配はありません。
また、自筆証書遺言と異なり家庭裁判所の検認も不要です。

また、令和2年からは法務局の自筆証書遺言保管制度が始まりました。保管を申請すると、形式不備の確認を受けられ、長期間保存できます。ただし、遺言内容について相談することはできません。希望すれば、あらかじめ遺言者が指定した者に対し、遺言書が保管されている旨を通知する仕組みも令和3年度以降ごろから本格的に運用が開始されます。遺産分割協議後に遺言が見つかった場合、放置するとトラブルに発展する可能性が否定できません。弁護士に相談するなど、早期に対処したほうがよいでしょう。

(記事は2020年12月1日現在の情報に基づきます)