目次

  1. 1. WWFジャパンの収入は68%が個人寄付
  2. 2. 「遺贈の文化が広がれば、より良い社会になる」

いま世界で絶滅の危機にさらされている野生生物はトラをはじめ約3万6千種にものぼり、過去50年間に生物多様性は約7割減ったといわれています。野生生物とその生息環境を守る活動や地球温暖化防止などに取り組むのが、世界100カ国以上で活動するWWF(世界自然保護基金)です。日本ではWWFジャパン(東京都港区)が1971年に設立されました。

具体的には、野生動物と生息環境の実態調査や、持続可能な社会のために環境に配慮した生産と消費の普及、再生可能な自然エネルギーの普及促進、各種政策提言など、幅広い取り組みを続けています。日本では、南西諸島のサンゴ礁保全や九州の水田生態系の保全にも力を入れています。

前期(2019年7月~2020年6月)の収入12億6803万円のうち68%が個人寄付です。このうち遺贈寄付は14件、1億2785万円を占めました。相続発生時の地球環境や野生生物の状況により、より緊急度の高い地域や種、効果のある方法も異なることから厳密なプロジェクト指定はできませんが、なるべく希望に近い形で活かしているといいます。最近は年に100件以上の問い合わせがあります。

WWFジャパンに遺贈を予定している60代女性に話を聞きました。女性は動物、特にネコ科の動物好き。いろいろな国を訪ねてさまざまな野生動物や環境破壊の現状を見るたびに自分でできることをしたいと考え、25年近く会員としてWWFを支援してきました。「動物の保護は私の人生の根幹。貧者の一灯かもしれないが、長く応援したい」と話します。

温暖化の影響を受けるホッキョクグマ (c)Debra Garside
温暖化の影響を受けるホッキョクグマ (c)Debra Garside

年齢を重ねるに従って自分に何かあった場合、「思い」をどう活かすかを考えるようになり、遺贈したいと思うようになったそうです。一度、自筆証書遺言を作成しているのですが、間違いがないようにとWWFジャパンに相談して、いま専門家と一緒に書き換えています。

女性は「ただ単に寄付を託すという関係性ではなく、一緒に活動させてもらっていると思っていて、万一の時、信頼して託せる団体だと思っています。これから世の中も自分もどうなるかわかりませんから、状況に応じて遺言書は書き換えるつもりです。遺贈の文化が広がれば、より良い社会になると思っています」と言います。

女性からの相談を受けて遺言作成上のアドバイスなどをしているのが、遺贈・高額寄付相談担当の松岡永里子さんです。松岡さんは「会員の方からの遺贈もありますが、提携している信託銀行が複数あり、そこで活動を知って遺贈してくださる方が少なくありません。大切なお金が未来の地球で活かされ続けると共感いただいています」と話します。

松岡さんは自身も自筆証書遺言を作成して、遺贈希望者にとって何が難しい点かを体験したうえで相談に乗っているそうです。「以前書いた遺言書は結婚後に書き換えました。人生の節目で何度でも書き換えていいし、遺言書は遺言ではなく、いまの自分や大切にしたいものを見つめ直すきっかけになる、明るいものだとお伝えしています」

松岡さんが担当者として残念に思うのは、遺言書作成時点で問い合わせがなく、亡くなった後に判明した遺言書の形式や内容に不備や問題があって、故人の意思が確認できない場合があることだといいます。なんとか故人の思いを活かしたいと、相続人らとの話し合いに時間や費用がかかることもありますが、何より遺贈がきっかけで誰かが困ったり、悲しい思いをしたりしてほしくない。それだけに、遺贈を考えたら事前に相談してほしいと松岡さんは訴えます。とはいえ、特に地方ではまだ遺贈に理解のある弁護士や司法書士などの専門家が少なく、「遺贈に反対された。どうした良いか」と相談が寄せられることもあるそうです。

先述の女性も地方在住で、実は10人ほどの司法書士を訪ねましたが、なかなか納得のいく方に出会えなかったそうです。女性自身が司法書士にWWFの活動内容や遺贈のことを説明して、司法書士が共感してくれたといいます。こうした話を聞くと、一人でも多くの士業の方に遺贈寄付のことを知ってもらい、遺贈希望者の支えになってほしいと強く願います。

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(記事は2021年4月1日時点の情報に基づいています)

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