目次

  1. 1. 起動のタイミングはケースごとに決められる
    1. 1-1. 「親が認知症になったら業務開始」はトラブルのもと
    2. 1-2. 第二受託者に切り替わるタイミングに合わせて
  2. 2. 終了時期は主に2通りある
    1. 2-1. 残余財産の分配までカバーする
    2. 2-2. 最後まで見届ける

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家族信託で「信託監督人」を置く設計を考えるときには、いつからその監督業務を開始するかということも検討する必要があります。
一般的には、信託契約締結時(信託契約の効力発生時)からスタートするケースが多いですが、受益者たる親やそれを支える家族の要望により、さまざまなバリエーションも考えられます。

その一例として、受益者たる親が受託者の業務をチェックすることが難しい健康状態になったら、法律専門職が信託監督人として関与してほしいというケースが挙げられます。

つまり、受益者たる親が元気なうちは、受益者自ら受託者に対して要望を伝え、金銭を管理している信託口座の通帳を自らチェックすることができるので、すぐには信託監督人に関与してもらう必要性は感じていないが、認知症等で判断能力や記憶力が低下してきたら、受益者に代わって受託者の財産管理状況を見守ってほしいという場合です。

ただし、信託監督人業務のスタート時として、「受益者が認知症と診断されたとき」というような始期が曖昧、つまり就任時期が法的に不明確となる定めは、置くべきではありません。
そこは、受益者家族と信託監督人との信頼関係に基づき、信託監督人が必要だと判断して「就任を承諾したとき」というような定めの方が良いでしょう。

別の例としては、第二受託者が就任したときから信託監督人の業務をスタートさせるケースが挙げられます。たとえば、当初受託者となる長男は信託の設計に深く関わり、委託者たる親の“想い”を十分に理解しているとします。
であれば、長男に不透明な財産管理や不正の心配はないので、彼の受託者業務に対して信託監督人を置く必要性は低いかもしれません。

一方で、第二受託者となる二男(あるいは長男の妻や子)は、不動産や金銭の管理に不慣れなところがあるので、もし長男以外の者が第二受託者として管理を引き継ぐことになったら、信託監督人として受託者の業務を監督・指導してほしい、ということはあると思われます。
こうした切り替わるタイミングで業務を開始するように設計するのは一つのやり方でしょう。

信託監督人の任務が終わるときはどんなタイミングなのか、8つ示します。

信託監督人の業務開始時期を検討したら、次は監督業務の終了時期についても検討します。
一般的には、信託契約終了時までというケースと、信託契約終了後の残余財産についての分配手続きをすべて完了するまでというケースに分かれます。

信託契約終了時の受託者が残余財産の帰属先権利者となっている場合、たとえば長男が両親の財産管理を受託者として担い、両親死亡後は長男が信託の残余財産を引き継ぐケースだったとします。
この場合は、それまで管理していた受託者がそのまま所有者として財産を受け取るだけですので、信託監督人は信託契約の終了時まで関与すれば問題ありません。

また、信託契約終了後に信託財産を取りまとめて清算する「清算受託者」に家族以外の専門家が就任するケースでも、不正やずさんな清算のリスクが少ないので、信託監督人の業務終了時期を信託契約終了時としてよいでしょう。
(これは専門家が遺言執行者になるのと同様ととらえてください。なお、信託監督人が清算受託者に就任することも可能です。)

一方、残余財産を複数の家族・親族に分配する場合や、清算受託者が残余の信託財産たる不動産を売却して、その換価代金を遺贈寄付するようなケースでは、残余財産の帰属先権利者に無事財産の引渡しがされ、清算事務が完了したことを確認するところまで、を信託監督人の任務とすべきです。
つまるところ、監督した財産の行く末まで、「最後まで見届ける」ことが信託監督人の道義的な責任だと言えるでしょう。

前回は、「信託監督人」に求められる具体的な役割について解説しました。
引き続きこの連載では、家族信託に必要な知識やトラブル予防策を読み解いていきます。

(記事は2020年6月1日時点の情報に基づいています)

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