相続は親の借金も引き継ぐ

簡単なケースを参考に相続放棄の説明をします。

《参考例》
あなたのお父さんが亡くなりました。お父さんは、生前、サラ金などからかなり多額の借金をしていた時期がありました。あなたは長男で、相続人という立場ですが、さてどうされますか?
こんなときに考えるのが相続放棄という手続きです。
あなたは相続人という立場ですので、お父さんの遺産である財産をもらえます。
自宅などのお父さんの不動産、同じくお父さんの預貯金や株式、投資信託などの財産は相続人に相続されます。しかし、相続は、財産をもらえるだけではありません。
お父さんの借金も、相続であなたに引き継がれます。
そのため、債権者から請求があれば、あなたはお父さんの支払いを拒むことはできません。

財産より借金が多いときに相続放棄を検討する

仮に、お父さんの借金が300万円なのに、財産が150万円しかないということがはっきりしているケースなら、間違いなく相続をしない方がいいでしょう。そのようなときに、裁判所に相続放棄の申立(裁判所用語では「申述」といいます)手続をすれば、あなたは相続人ではなくなります。
その結果、あなたはお父さんの財産をもらえませんが、借金を引き継ぐこともありません。

相続放棄の申立書の記載は簡単

相続放棄をするには、裁判所に「相続放棄の申立(申述)書」を提出する必要があります。「裁判所に出す書類」と聴くと、緊張される方もいるかもしれませんが、それほど難しくはありません。
裁判所のホームページでは、相続放棄の申立書のひな形が掲載されています。
なお、ひな形には代理人バージョンもありますが、本人バージョンをダウンロードの上、印刷して、所定事項を記載していくといいでしょう。
法律に慣れない人であっても、記載すべき内容は簡単なので、申立書は1人でも書き込めます。

「相続開始を知った日」の記載には注意が必要

ただ、注意していただきたい点があります。
ひな形の申立書の2ページ目には「申述の実情」を記載する欄があり、そこに「相続の開始を知った日」という言葉が印刷されています。
ここが、相続放棄申立ての最も重要なところです。
なぜなら、相続放棄は、あなたが相続開始を知った日から3ケ月以内にする必要があるからです。
そのため、申立書が裁判所に届いた日が4月10日だったのに、「相続の開始を知った日」が「1月1日」と書かれていると、それだけで相続放棄をできる期間を経過しており、裁判所は申立を受理してくれないことになります。

死亡を知ってから3ケ月以上が経過している場合の記載例

申立がお父さんの死亡から3月を経過しているときは、お父さんの死亡したのを知ったのが、死亡した日よりかなり後だったことを記載する必要があります。
参考に、最近の扱った死亡後から3ケ月以上経過後の申立例を紹介しておきましょう。
「相続の開始を知った日…‥父は令和2年1月1日に死亡しました。
ただ、私は、父と母とは離婚した後には、父とは全く交渉がありませんでした。今回、3月10日に父方の叔父さんからの電話で、父が死んだことを初めて知らされました」
このケースでは、父は1月1日に死亡していますが、その段階では、申立人は死亡を知らされていませんので、相続を開始したことを知らないということになります。叔父さんからの連絡のあった3月10日になって、初めてお父さんの死亡を知ったのですから、この日が相続の開始を知った日になります。そのため、この日から3ケ月以内に裁判所に申立書類が届けばよいということになります。

【その他の箇所の記載方法】
書類の中の申述人とはあなたのことで、被相続人は死亡した方のことです。「放棄の理由」は、1~5のいずれかを選択して〇印をするだけでいいでしょう。放棄の理由は、以下のように書かれています。

  1. 被相続人から生前に贈与を受けている。
  2. 生活が安定している。
  3. 遺産が少ない。
  4. 遺産を分散させたくない。
  5. 債務超過のため。
  6. その他

今回のケースでは、「5.債務超過のため」に〇印をすることになります。なお、「相続財産の概略」を記入する欄もありますが、わかる限度で記載するだけでよく、詳細に記載する必要はありません。

さきほどの父母の離婚のケースの放棄では次のとおりの記載をしました。

離婚して父と連絡を取っていなかった場合

このケースでは、「放棄の理由」は「6.その他」を選択しました。
理由は「父母が離婚し、その後、父とは全く連絡を取っていないため、父の財産状況は不明です。ただ、私は父の遺産を相続する気は全くありません。」と記載しました。

「相続財産の概略」は「前述のように父と連絡がとれていないので、相続財産については全く不明です」と記載しました。これで問題なく、申し立ては受け付けられ、相続放棄ができました。
これで申立書は完成です。申立書を作るだけなら、弁護士も司法書士も不要です。ただし、その後の債権者への対応、プラスとマイナスのどちらの相続財産が多いか判断するための財産調査、相続財産に入るかを判断するためのアドバイスには弁護士ら専門家が伴走した方が安心です。次回は、申立をした後の手続きの流れについて解説します。

(記事は2020年11月1日時点の情報に基づいています)