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母を故郷で住ませてあげたいが……

今住んでいる場所から遠く離れた土地の相続についてご相談いただきました。Aさんは、千葉県在住の50歳女性。自身は住んだことがない愛媛県に、相続予定の土地があるそうです。
大阪生まれ育ちのAさんが愛媛県の土地を相続予定である理由は、そこが父母の出身地だから。父方の親族が代々住んでいた土地に、現在は80歳の叔父が1人で住んでいます。

「やっかいなのが、その土地と建物について、30年前に亡くなった祖母の名義が登記簿にそのまま残っていること。もともと、叔父夫婦が二世帯住宅を建てた時、叔父が3分の2、祖母が3分の1と名義を分けたことにさかのぼります。祖母が亡くなった時に名義変更についてきちんとしておけば良かったのでしょうが、ずるずるとそのままになってしまったようです」

親族間で、その土地をAさんが相続することについては口約束で合意が取れているそうですが、Aさん自身は愛媛県で暮らすことはまったく考えていないと言います。
「私も夫も、仕事がありますから。ゆかりのない土地に行って住むことは、今のところ考えていません。ただ、父は5年前に亡くなってしまったのですが、現在も大阪にひとりで住む75歳の母が、出身地である愛媛県に帰ってその土地に住みたいという希望を持っています。私が相続した後に母を住ませてあげたいと考えています」

名義変更しなかったことによるペナルティーはある?

そこで気になるのが、手続きについて。現在も亡くなった祖母の名義が残っている状態の土地を相続するに当たって、何から手をつければいいのかさっぱりわからないと言います。
「もっとも気がかりなのは、名義変更を怠ったことに対するペナルティーがないのかどうかということです。もしあるとすれば、誰がそのペナルティーを受けるのか。また、その土地に建てた二世帯住宅に現在も叔父が住んでいるわけですが、今のうちに亡くなった祖母の名義分を叔父なり私なりに変更しておいた方がいいのか、それとも叔父が亡くなって相続するときになってから手続きをすればいいのか、それもわかりません。

どれくらいの費用がかかるのかということも気になりますし、そもそもこういった問題に対してどこに相談に行けばいいのかということすらわかりません。自分でできる部分があればできるだけ自分でやりたいと考えているのですが、すべて専門家に依頼しなければならないのかどうかについても、調べてもよく理解できないというのが現状です」
いざ、叔父が亡くなったという時に慌てないで済むように、今から準備しておきたいというAさん。どのように手続きを進めておけば良いのでしょうか。

佐々木一夫弁護士のアドバイス

Aさんのように、登記が亡くなった方のお名前で長年放置されてしまっているケースは、よく聞きます。今回の場合は、おそらく叔父さんはすでに奥様に先立たれ、お子様もいらっしゃらないのでしょう。遠い親戚からの、よく知らない土地の相続にはご不安もあるかと思います。
名義変更をしてこなかったことについての違法だとか罰金だとかそういったペナルティーはとくにありません。ただし、予定していなかった土地建物の処分や大改修、賃貸に出すなどの場合には登記がなければ面倒なことになってしまいます。ただ、国では現在、相続登記を義務化しょうとする動きがありますので、放置したままにしておくことはお勧めしません。

名義変更をしなかったからといって特にペナルティーはないのですが、祖母名義の共有持分権の登記については早めにAさん名義に相続登記をするのが基本です。そうしておかないと、もしも、叔父さんが老人ホームなどに入居することになり、本件の土地建物について賃貸に出すとか、又は大改修が必要だとか、そういった必要に迫られた際に困ったことになります。どういうことかというと、共有の土地建物について一定の行為(売却とか、一定の賃貸とか、大改修など)をするには、共有者全員の合意が必要とされているからです。このような事態に備えるためには、名義変更は実態に合わせてできるだけ早く変えておいた方が良いでしょう。

誰の名義に変更するべきか

祖母の共有持分権3分の1は祖母の遺産ですから、原則的にはAさんと叔父さんで2分の1ずつ(Aさん6分の1、叔父6分の1ずつ)相続登記をすることになります。ただ、将来的に叔父さんが亡くなればAさんが相続するのであれば、祖母の遺産分割協議をして3分の1全部をもらっておくのもよいでしょう。いずれにしても、叔父さんが亡くなった後に、叔父さんの相続分についてはAさんが唯一の相続人として相続するのですから、その際には叔父さんの共有持分権を相続によって取得したとする相続登記をすることになります。

相続登記にはどんな書類が必要か

相続登記をするには、亡くなった方(「被相続人」といいます)の出生から死亡までの戸籍をはじめ、相続人全員が確定できる戸籍全部が必要です。これを集めるのはそれなりに時間がかかるので、もし叔父さんが亡くなった場合には、戸籍集めから始めるのがいいと思います。ここで「出生から死亡までの戸籍」とは何を言っているのかわからないかもしれません。実は、戸籍というのは数十年に一度改製されており、現在戸籍には改製前の戸籍(「原戸籍」と呼びます。)の記載事項は転記されないことから、一人の人について何通も古い戸籍が存在することになるのです。ですから、出生から死亡までに作成された戸籍全部を取り寄せなければ、被相続人の配偶者や子供や兄弟などの存在が全部はわからないことになっているのです。

その他に、遺産分割協議をする場合には遺産分割協議書、土地の固定資産評価証明書、印鑑証明書などが必要です。このあたりは、必要な書類も多く、自分で作成しなければならない書類もありますから、弁護士や司法書士などの専門家に任せてしまった方が良いかもしれません。費用は、登記だけであれば専門家報酬が5~10万円、それに法務局に収める印紙代が10~30万円(土地の価額に従ってそれ以上の場合もあります。)くらいはかかると思っていた方が良いでしょう。

叔父が亡くなった後に登記するのはダメなのか?

最終的にAさん単独所有名義の登記をすることになるので、できれば、Aさんの叔父さんが亡くなられたときにAさんの祖母名義の共有持分権とAさんの叔父さん名義の共有持分権を直接Aさん名義に変更できれば、それが一番簡単なように思えます。このように、間の権利の移転を飛ばして行う登記を『中間省略登記』といいます。しかし、不動産登記には権利の取得や移転の経緯を忠実に反映させる必要があるとの考えから、残念ながら中間省略登記は原則として認められていません。

したがって、叔父さんが亡くなってからまとめて登記しようとしても、だめではないですが結局は順次登記する必要があり、あまりメリットはありません。やはりできるだけ早く順次実態に合わせた登記をしていった方が良いでしょう。

登記手続、遺言作成は専門家に相談を

登記手続はご自身でも不可能ではありません。実際にご自身でされる方もある程度いらっしゃいます。しかし、手続を調べるにもとても時間がかかりますし、必要書類の用意等、専門的な知識があった方が間違いがありません。また、遺産分割協議書も、権利を定める重要な書類ですから、間違いがあってはなりません。弁護士や司法書士等の専門家にご相談されることをおすすめします。

(個人情報に配慮し、内容の一部を脚色しています。記事は2020年8月1日現在の情報に基づいています)