令和元年12月3日、法制審の民法・不動産登記法部会において、「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案」が取りまとめられました。その中で、「相続登記の義務化」についても議論の対象になっています。

登記をしなくても罰則や制裁がない

相続が発生した際に、相続財産に不動産が含まれている場合、相続を原因とする所有権移転登記手続を行わなければなりません。しかし、現行の不動産登記法制上、相続登記の手続を行わなかったとしても罰則や制裁があるわけではないことから、相続が発生しても、相続登記の手続を行わずそのままになっているケースが少なくありません。

なぜこのようなケースが生じるのでしょうか。売買のように二当事者(またはそれ以上)の意思の合致で不動産の所有権を移転させる場合、所有権移転の登記は第三者に対する対抗要件になりますから、登記をそのままにしておくことはまずありません。登記を自分の名義にしておくことが権利の保全になるからです。

一方で、相続の場合には、もともとの名義人である被相続人は既に死亡していますから、登記名義人がほかの第三者に勝手に所有権を移してしまう危険がありません。さらに、法定相続分の範囲内では、相続人は相続登記をしていなくても第三者に対抗することができる(民法第899条の2第1項参照)とされていますから、実体法上、特段不利益がありません。したがって、売買などに比べて、積極的に相続登記手続を行う理由が乏しいとされています。

遺産分割協議がまとまらず放置するケースも

また、実態上のお話をすれば、遺産分割で争いがない相続や、相続人が一人しかいないような相続の場合、被相続人名義の自宅にそのまま居住していることも多く、相続人の日常生活上何ら変化がないケースがみられます。当然、相続登記には登録免許税などある程度費用が掛かりますから、手間や費用を考えるとそのままになってしまう、というわけです。逆に、相続人の間での遺産分割協議がまとまらず、被相続人の遺産の帰属が定まらないまま、登記もそのままになっているというケースもあります。

20年間で空き家の数が1.9倍に

近年、全国的に所有者が見つからない空き家問題が注目されていますが、別荘や売却予定の建物などを除いた空き家が、平成10年から平成30年までの20年間で約1.9倍に増加しています(総務省「平成30年住宅・土地統計調査」)。本来空き家を管理すべき所有者が見つからないのは、相続登記を何らかの理由で行わずに放置したために、登記が所有者の実態を示していないことが大きな原因とされています。

所有権の移転登記を義務化へ 違反者には過料も

法制審議会では、相続登記の義務化について以下のような内容を議論しています。

  • 不動産の所有権の登記名義人が死亡した場合、相続人が一定期間内に相続による所有権移転等登記の申請をする義務を課すこと。
  • 遺言で不動産を受け取る相続人や、遺贈によって不動産を受け取る者にも登記義務を課すこと。
  • 数次相続の場合(登記義務者が手続前に死亡した場合)、登記義務者の相続人にも登記義務が生じること。
  • 登記義務に違反した場合、一定額の過料を課すこと。     

なお、相続登記の手続をすべき「期間」をどのようにするかについては、取得原因によって期間の長短を区別するか否かや、具体的に何年にするかなど、現在もなお議論が続いています。また、相続登記の義務化を実効性のある制度とするため、法定相続分などを確定せず相続人の氏名と住所のみを登記する「相続人申告登記(仮称)」の創設が検討されています。

相続登記が義務化されると、一定の期間内に相続登記(またはそれに代わる手続)を行う必要が生じます。これを正当な理由がなく行わなかったとすると、過料が課される可能性があり、注意が必要と思われます。

一方で、一定の期間内に相続登記を行った者に対しては、何らかの優遇措置を行うべきではないか、という議論もされています。具体的には、登録免許税の減額や、登記手続にかかる専門家への費用などの補助を行うことが議論されているようですが、現時点までに具体化するには至っていないようです。

登記していない不動産がある場合

今回の法改正では、現時点で既に相続登記がされていない不動産についても、義務化が検討されているようです。そうだとすると、相続が発生したときに不動産の相続登記をしていなかった人全員が、法改正後に相続登記を義務化される対象になります。もちろん、何らかの移行措置は検討されるでしょうが、自分がその対象になっているのか否かを確認する必要があるでしょう。

現在の登記を調べる方法としては、法務局に行けば不動産登記の全部事項証明書を取得することができます。また、インターネットで登記情報を取得できるサービスもあります(有償)。相続登記をちゃんとしていたかどうかが不安な方は、今のうちに調べておいたほうが良いかもしれません。

もし、相続登記がされていなかった場合、相続発生時点から時間が経っているとすると、二次相続が生じている可能性もあります。実際に相続登記をする際には、権利関係が複雑になるなど、手続の完了までに相当な時間を要することがありますから、早めに対応することが肝要です。

登記をしていなければ、早めの対策を

「相続登記の義務化」については、現在もなお法務省の法制審議会で議論されている最中であり、具体化するまでにはまだまだ時間を要すると思われます。しかし、相続登記の義務化は今後多くの方に影響を与える可能性があり、特にこれまで相続登記を行っていなかった方々は事前に対策を検討しておく必要があります。もし、相続の際の登記手続にご不安がある場合には、弁護士や司法書士などの専門家に相談されることをお勧めします。

(記事は2020年2月1日時点の情報に基づいています)