目次

  1. 1. 理解が広がり、同性カップルも家探しが徐々にしやすく
    1. 1-1. 自治体や企業によってはカップルへの支援策も出てきた
  2. 2. 賃貸か、購入か
  3. 3. 同性カップルがローンを組むには
    1. 3-1. ペアローンに必要な保証は公正証書で
  4. 4. 二人でローンを負担しつづける確約があるか
    1. 4-1. ローンの折半額の定義は難しい
  5. 5. 名義者の死後もパートナーが安心して暮らすため遺言を

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賃貸住宅については、同性カップルは家を借りられないという話がよく言われてきました。
たしかに貸し渋りに直面することがあるようです。私は「貸主が確信的に同性愛者を排除している」ということは実際は考えづらく、他にさまざまな要因があるとみています。
例えば、二人の関係がよくわからない、一方が退去したときも家賃の支払いは確実か、入居者が増えればそれだけトラブルも多いのでは(汚損など)……といった理由です。これらは男女での家探しでも変わらないでしょう。

上手に借りるには、二人がパートナーの関係であることや家賃の支払いについて、十分に伝えることが大事かもしれません。そう言う意味で自治体のパートナーシップ制度は、「よくわからない関係」をよくわかるように説明する効果があるでしょう。

性的マイノリティへの理解の広がりにともない、不動産業界でも、同性カップルにこだわりなく対応するお店も増えています。私が不動産屋で聞いたとき、「なんの問題もないです」と言う反応をもらったこともあります。

高齢者や障害者など住宅を借りにくい人への支援策をとる自治体もあります(登録されている不動産屋さんへ照会してくれるなど)。その制度に同性カップルも含める自治体もありますから、お住まいの役所のホームページなどで調べてみましょう。パートナー制を実施している自治体では、公営住宅への応募を認めるところもあります。

意外に知られていないのは、URのハウスシェア制度。非親族でも問題なく申し込め、それぞれが賃借人になりますから、一方の名義者が退去や死亡しても他方が即、出なければならない心配もありません。二人で団地暮らしはいかがでしょうか。

ここで、同性カップルにとって賃貸か購入かについて、考えてみましょう。
子育てをする予定がなく、二人ないし一人で住む広さの住宅なら、買っても借り続けても、生涯で住宅にかかる費用はあまりかわらないでしょう。
どちらが得というよりは、定住と可動性のどちらのライフスタイルを選ぶかです。むしろ、近年は自然災害などの多発で「持つことのリスク」も言われます。

いったん持ってしまうと、別離や死別時の準備も必要です。購入が勧められる理由にあげられる「老後は家を借りづらい」問題は、超高齢社会と空き家時代に改善が進むと思われます。あまり早く家を買うと、自分の老後には家も年をとっています。現役中は賃貸をつづけ、老後になって即金で終の住処を買う手もあります。老後向きの田舎には、空き家が格安であるかもしれません。

そのうえで、やはり二人で家を購入したいという考えもあるでしょう。
同性カップルでは、男女夫婦のようにそれぞれの収入を合算できる「夫婦住宅ローン」の利用ができませんでしたが、近年は、それを可能にした銀行もいくつか登場しました。

ペアローンには、借入額を折半しそれぞれが折半額でローンを組む「2本並立型」と、一人が主債務者となりもう一人が連帯保証人となる「1本連帯型」とがあります。いずれも収入合算できるので、一人で借りるより大きな額を借り入れできます。2本並立型では、それぞれの借入額に応じて所有権を共有持分にすることもできます。

こうしたペアローンを利用するためには、二人のあいだで共同生活の合意契約と相互での任意後見契約を締結することが必要です(「任意後見」は過去の記事で詳説しています)。ローン返済は長期にわたりますから、途中、一方が認知症などになっても、もう一方が後見人として債務の支払いに責任をもつ保証が必要です。弊所にも、ペアローンを利用して二人で住宅を購入したいとの理由で、公正証書の作成相談に見えるカップルもときどきいらっしゃいます。
一人の名義で購入する場合はどうでしょう。購入した住宅にパートナーも同居し、家庭内でローン額を折半することは昔からよくあります。パートナー生活が始まったあとで住宅を購入することにした場合、どちら名義が借りやすいかなど(銀行審査など)、検討点も多いでしょう。

不動産は人生最大の買い物と言われます。それを二人で買う場合の課題について、考えてみましょう。

当然ですが、二人での支払い計画をきちんと立てましょう。ペアローンの「2本並立型」はそれぞれが銀行に債務を負いますが、他は1本連帯型にしろ1人名義にしろ、パートナーが主債務者に家庭内でお金を払う形式です。「共通のお財布(口座)に何日までに送金する」から「勝手に仕事を辞めない」まで、支払いが滞らないための合意は大切です。
主債務者は死亡時に備えて団体信用生命保険に加入していますが、他方はそうではないので(2本並立型はそれぞれが加入)、名義者でないほうの死亡に備えて、パートナーが受け取り可能な生命保険の加入も必要かもしれません。

ただ、家庭内で受け渡すこのローンの折半額は、なんのお金に分類すべきなのか、判断が難しいところです。贈与なのか、家賃なのか、貸付なのか。贈与なら年額110万円を超えれば贈与税の申告が必要です。家賃ならこの家は収益物件となり、居住用が条件である住宅ローン減税は使えないのでしょうか? こうした混乱は、二人が結婚できないことから生じています。
夫婦は、「同居し、互いに協力し扶助」(民法752条)する義務があり、「婚姻から生ずる費用を分担」(760条)します。住宅費用も当然、分担します。現在は親族ではない同性二人も早く結婚でき、堂々と「婚姻生活の費用を分担しているのだ」と言いたいものです。

別れた時、死んだ時の課題もあります。
名義者が亡くなったときは、なにもしなければ法定相続になりますから、パートナーが安心して住みつづけるためには、当連載で何度も書いているとおり、遺言や死因贈与契約が重要です。ローンの分担条項も含むパートナーシップ契約に付随して、死因贈与契約を作成しておくことがよいでしょう。死因贈与契約では、所有権移転の仮登記もすることができます。
途中で関係を解消する場合もあるでしょう。住宅を買う場合はどちらの名義で買うか。離別する場合、どちらが退去するか。その場合の精算方法はどうするか。こうしたことをあらかじめ検討することが重要なのです。

遺言や死因贈与契約により無事、パートナーが不動産を所有することになっても、じつはそのあとに納税という問題があります。
以前も触れたように、相続税の計算では、パートナー(非親族)が受贈する場合、土地の評価の特例はないため満額の評価額となり、同様の生命保険などともあいまって遺産額が大きくなり、相続税が課税される場合があります。
その後、所有権の移転登記の登記税が評価額の2%(親族が相続する場合は0.4%)かかります。さらに、不動産だけを特定的に遺贈した場合(他の預貯金は親族へなどと振り分けた場合)、不動産取得税が3%かかります(包括遺贈の場合は非課税)。このへんの注意も必要です。

二人で住宅購入をする場合は、ライフプランやマネープランの全体にわたる総合的な視点が必要であり、くわしい専門家とともに検討することをお勧めします。

前回の記事「全国に広がる「同性パートナーシップ」とは」では制度の概要や注意点について解説しました。
今後もこのコラムでは、パートナーと人生の安心を得るために役立つ記事を書いていきます。

(記事は2020年7月1日時点の情報に基づいています)

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