同性パートナーを指定できる生命保険が増加

生命保険は、自分が亡くなったとき、あらかじめ受取人に指定しておいた人に保険金が支払われます。この受取人には、従来、さまざまな保険金詐欺等の防止の観点から、配偶者または二親等以内の親族とする約款や内規が設けられています。

二親等とは、父母、祖父母、きょうだい、子ども、孫の範囲です。法律婚ではない事実婚夫婦でも、指定が難しい場合がありました。同性カップルがパートナーを受取人に指定できないことは、性的マイノリティへの理解不足や不利益の象徴とされてきました。

ところが、2015年に渋谷区と世田谷区で同性カップルを公的に承認する制度が開始されたことを契機に、同性パートナーを受取人に指定できるよう改めた保険会社が登場し、その後、多くの保険会社が追随しています。

ですから、同性パートナーを受取人にして新規に生命保険に入りたい人は、そうした会社を選択すればよいでしょう。また、現在の保険金受取人を親族たちからパートナーに変更したい場合は、自分の保険会社がそうした制度を設けているかを調べてみてください。

パートナーであることの証明は、自社の申告書式を使うところもあれば、自治体のパートナーシップ証明と公正証書による契約書の両方を求めるところまでさまざまです。前者は1千万円程度の掛け捨ての保険や毎年更新の少額短期保険などに多いようです。後者の場合、公正証書を作成し、パートナー制度を実施している自治体居住者でなければ利用できません。

保険の受取人を変更する

保険の受取人を変更することについて、保険法43条は、保険会社への意思表示で効果が生じるとしています。内容証明郵便などで変更の意思を通知するなどの方法が考えられます。また、同法44条は、受取人変更は遺言でもすることができるとしていますので、遺言にその旨を盛り込むことも有用です。死亡後、それを保険会社に通知することが必要ですから、そのための遺言執行者も同時に指定しておきます。

注意点もあります。これらは、現行の保険法が施行された2010年4月1日以後に締結された保険契約に適用されます。それ以前のものには原則、適用されません。一方、保険会社によっては約款によって施行前の契約にも保険法の適用を認めるものもあります。まずは保険会社の担当者と変更について話し合ってみることが有効でしょう。

指定可能な保険は増えても、税制上の不平等は解消されず

生命保険は、いま自分が突然死んだら経済的に困る人がいる場合に備えて入るものです。パートナーも共稼ぎで小さな子どももいないのなら、とくに生命保険に加入する必要はないともいえます。ただし、その分の保険料は、貯蓄に回すことをお勧めします。男女夫婦でも子どもが独立した後は、保険の見直しが勧められます。

ただ、保険金には受け取り時に税制上さまざまな優遇が設けられており、預貯金をそのまま相続(遺贈)するよりも有利なので、相続対策として保険の活用を勧められることがあります。

たとえば、相続税の計算上、受け取り保険金から法定相続人数×500万円が控除されるので、課税対象額が低くなり、相続税がかからない、もしくはかかっても少額になっています。

しかし、相続人ではないパートナーが受け取る場合はこの控除がなく、全額が課税対象額に繰り入れられた上に、ほかの不動産や預貯金とあわせた結果、相続税が課税される場合があります。しかも、算出された税額は非親族の場合、2割を加算して納付しなければなりません。

また、生前も毎年の年末調整や確定申告時に生命保険料控除が受けられますが、これも親族が受取人の保険契約に限ります。
パートナーを受取人にできる生命保険は増えてきましたが、パートナーはまだ法的親族ではないため、税制上のメリットに乏しいことは理解しておきましょう。

さらに、新規に加入するという点では、ゲイに多いHIV陽性の人、そしてホルモン投与を受けているトランスジェンダーの人たちは、健康リスクのある人とみなされ、そもそも保険の加入ができない場合があることもご留意ください。 

性的マイノリティにとっての生命保険の活用例

私自身は同性カップルの生命保険のご相談に、「入らないという選択もありますよ」とお答えすることが多いのですが、今回は、いくつかの活用例をご紹介します。

1.本当に困る人がいる場合

同性カップルの一方が専業主夫もしくは主婦などで自前収入がない場合や、小さな子どもがいるケースなどでは、稼ぎ手の万一時に備えた保険利用も考えられます。

ただ、トランスジェンダーで戸籍変更もし、その後、異性パートナーと結婚、子育てで家族を営むのに、上記のように保険を利用できないことがあります。保険以外のリスク対策をとる必要があります。

2.住宅ローンを折半する場合

同性カップルの一方の名義で住宅ローンを組み、家庭内で負担を折半する場合があります。ローン名義者は、万一に備えて団体信用生命保険に入りますが、名義者でないほうの人に不測の事態が起きたら、ローン名義者はローンを今後一人で背負うことになります。こういう時を想定すると、ローン名義者でないほうも、パートナー受け取りの保険に加入するのがよいかもしれません。

3.現金が少ない場合の相続対策

相続財産の中身が不動産や換金しづらい株などで、現預金が乏しい場合、現金一括納付が原則の相続税を支払うのが困難になる場合があります。遺贈財産の状況によっては、遺産を受け取るパートナー(相続税納付者)を受取人にした生命保険に入っておくのも一策です。一緒に商売をして一方が亡くなったときなど、なにかと現金が必要な場合への備えも同様です。

4.遺留分対策

財産をすべてパートナーに遺贈する遺言を作っても、両親が存命の場合は3分の1の遺留分があります。親受け取りの生命保険(掛捨て型)を渡すかわりに遺留分請求を放棄してもらいたい旨、遺言にも記しておくのはどうでしょうか。親が亡くなれば不要なので解約します。

5.自分の老後用

保険はあくまで自分の老後資金用と考え(個人年金など養老型)、満期前に亡くなる場合にはパートナーが受け取れるようにする。パートナー受け取りの保険に入ることを「目標」としない。ただ、満期までは長期にわたるので、途中解約しないことが大切です。なぜなら返戻金で損をするからです。

財産や親族の状況に応じてさまざまな検討が可能です。自分たちの状況を安心して話せる専門家に相談するのがよいでしょう。

(記事は2020年4月1日時点の情報に基づいています)