目次

  1. 1. コロナ禍で不安が増した、医療面の課題
  2. 2. 本人の同意があれば状況は変えられる
  3. 3. 書面作成の具体的なアドバイス
    1. 3-1. 親族でなくとも「キーパーソン」に指定可能
  4. 4. 治療とパートナーの安心のために
    1. 4-1. 備える(医療意思表示書の準備など)
    2. 4-2. 言う(本人から医療機関へ直接伝える)
    3. 4-3. 闘う(伝える際は、正確な知識をもって)
  5. 5. 遺言があればさらに安心

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新型コロナウイルスの感染拡大は、性的マイノリティと医療における、同性カップルと病院での面会など、平時から言われてきた課題をあらためて浮かび上がらせました。

家族・親族でないことを理由に、パートナーとの面会や説明拒否されたら。
最期のときに立ち会えなかったらどうしょう。
各種の同意書への署名者として認められないのか……、などなど。

コロナ禍で喚起されたこれらの不安は、すべて以前からあった問題です。
一方でいま多くの自治体が取り組む同性パートナーシップ制度により、病院面会のスムーズ化など課題解決の糸口も見えつつあります。

今回の記事では、長年問われ続けてきたこの課題にそろそろ「決着」をつけるべく、終活の文脈からできることを改めてまとめてみました。

そもそも病院面会や署名については、法律に規定があるわけではなく、「家族・親族に限定される」というのは病院の「ローカルルール」に過ぎません。
そのルールが合理的か、法的正当性があるかは、検討の余地があります。

それらのルールは、患者の個人情報保護を理由とするようです。たとえば個人情報保護法には、「個人データを第三者に提供してはならない」(23条)とあります。

しかし、それは「あらかじめ本人の同意を得ない」場合であって、本人が同意している場合はあてはまりません。
さいわい今日では自己決定を基準とし、それを尊重する風潮が根付いてきました。

医療の場でも、「この人を自分の医療のキーパーソンに指定し、受診に立ち会わせ、自分に意識がない場合は説明し代諾を得てほしい」といった旨を「自己決定」し、それを明瞭に示せるよう書面などにしておけば、パートナーが制限される状況を変えることができます。

たとえ本人の意識がない場合でも、あらかじめ作成している書面をパートナーから医療者に示してもらうことで、本人の意思が確認され、希望に従った対応を期待することができます。

医療の場では、「パートナーである」とか「海外では結婚届けを出している」といったイメージで訴求するよりも、書面で「医療キーパーソン指定」「代理権限」「委任事項」など具体的な表記をすることが大切です。医療の意思表示書といいます。

このような書面なら、医療者は、本人が許諾した代理権や委任事項の範囲に基づいて安心してパートナーにも患者情報を伝え、対応することができます。

ところで「医療のキーパーソン」への指定や代理権の授与は、相手が親族でなくてもいいのでしょうか。

2004年に厚生労働省が策定した「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(2017年4月改訂)の「8.家族等への病状説明」には、
「本人から申出」にもとづき「親族及びこれに準ずる者を説明を行う対象に加え」ることができるとあります。親族に限定していません。

また、2007年に同省策定のガイドラインを20018年に再改訂した「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」の解説でも、
注12として「家族等とは、今後、単身世帯が増えることも想定し……法的な意味での親族関係のみを意味せず、より広い範囲の人(親しい友人等)を含」むとしています。

厚労省がこうしたガイドラインの周知徹底に努め、全国の病院がそれに従えば、多くの困難は解消するものと思われます。また、当事者側も、個人情報保護法の仕組みやガイドラインについて頭に入れておくことが大切でしょう。

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医療の場で当事者が安心して治療を受け、面会などができるために、「備える」勇気、「言う」勇気、「闘う」勇気が必要です。

「備える」は、上述のように、自分の医療のキーパーソンとしてだれを指定するのか、その人にどのような権限を与えるのか、などを考え、書面(医療の意思表示書)にもしておくことです。その過程で、相手(多くはパートナー)と本当に療養看護を引き受けあえるのか、おたがい生死に関する覚悟も問われることになるでしょう。

どういう書類を作ったりどういう項目を委任するかは専門家にご相談いただくといいのですが、ネット等でもひな形や情報を集め自作することは可能です。パートナーシップ契約書を作成する場合には、必須条項として入れておくとよいでしょう。

また、緊急連絡先カードを携行し、他所で倒れたり救助された場合に、情報が相手に届くような工夫をしておきましょう。救急隊からの電話に、家族でないと答えたばかりに、その先を教えてもらえなかった実例もあります。緊急連絡先カード等での指定は、みずから情報を呼び込む工夫です。会社等へ提出している緊急連絡先でも同様でしょう。

筆者が運営するNPOで作成配布している緊急連絡先カード。裏に3名の名前と携帯電話番号が記入できる。
緊急連絡先カードの例。裏面に相手の名前と携帯電話番号が記入できる。(c)パープル・ハンズ

二つめは、「言う」勇気。いま病院は、入院時にあなたのキーパーソンは誰ですかとアセスメントします。ときには終末期にかかわるチェックリストを用意している場合もあります。そのさいこちらがひるむことなく必要な人の名をあげ、できればその関係性も告げ、病院側に伝えることです。

いまは「パートナー」で理解されることが多いようですが、そう言えなくても、同居者とか親友とか、方法はあるはずです。
また、自分たちをパートナーとして申告した場合に、そのことをどこまで言っていいのか、見舞いに来た親族には言わないでほしいなど、範囲をはっきり指定することも大切です。

三つ目は、それでも自分たちが望む面会や署名が難しい場合、病身にはしんどいことですが、「闘う」勇気も必要です。上述の厚労省のガイドラインや個人情報保護法の考え方、以下のような正確な知識を得て、こちらも正当な主張ができるように「理論武装」するわけです。

・厚労省のガイドラインでは本人の申し出を優先し、親族に限定していない

・個人情報保護法の解釈によれば、本人の同意があれば第三者に情報提供してもかまわない

・本人が同意していなければ、親族といえども第三者なので、勝手に言うことは法律違反である

・本人が署名権限を委任したことを病院が拒むいわれはないはずである

・親族の署名でないから治療をしないなら、正当な理由なく医療を拒否しており、医師法の応召義務違反である

・よく病院は「親族から訴えを起こされないか」と言うが、私たちの合意や意思表示を無にされれば、こちらも訴訟を起こす可能性はある

・行政の病院統括部署や地域の「医療安全支援センター」(医療法6条の13により設置)などへ苦情申し立てする

などなど。言うべきは言いましょう。

また、日頃からこういうとき相談できるよう、コミュニティの活動団体(そこを通じての法律家との連絡)などの情報をキャッチしておくことも大事でしょう。

医療の関係者が気にするポイントは、
同性パートナーを「家族」とみなす法的根拠はあるのか、
もし死去した場合は法定相続人の登場となるが、同性パートナーが対抗できるのか、
といったところのようです。

「家族」の範囲については、上述のガイドラインで親族限定になっていないことをご紹介しました。
また相続や死後事務についても、遺言を事前に準備しておけば、パートナーを法定相続人に優先させることは可能です。

もちろん、そこまで揃わないと入院できないわけではありませんが、備えあれば憂いなしです。そうした法的手段についても、拙連載を含め、「備える」勇気で学んでいただければと思います。

同時に、同性間の関係も法的親族・配偶者と認める同性婚について、今後進展することをせつに望みます。

前回記事では同性カップルを待ち受ける相続税など税制面の課題を網羅的に読み解きました。

今後もこのコラムでは、パートナーと人生の安心を得るために役立つ記事を書いていきます。

(記事は2020年5月1日時点の情報に基づいています)

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