渋谷区のパートナーシップ制度で関心が集まる

「任意後見契約」という用語は、渋谷区が2015年に開始したパートナーシップ証明を申請するために必要な公正証書の一つとして聞いたかたもいるでしょう。
この契約は、高齢期に認知症などで判断能力が衰えた相手の財産管理や契約の代理をする約束です。

渋谷区では、もう一つの公正証書である「共同生活の合意契約」で判断がクリアな状態を、任意後見はそれが衰えたときをカバーし、いわば「健やかなるときも、病めるときも」契約でつながっていることを担保に、2人を「パートナー」の関係と認めることにしました。

じつは2009年に『同性パートナー生活読本-同居・税金・保険から介護・死別・相続まで』(緑風出版)という本を書いたとき、当時はこうしたパートナーシップ制度がないなか、国の制度である任意後見契約がパートナー証明になるのでは、と紹介しました。

それが2015年に渋谷で登場したことにビックリしましたし、契約書作成には費用もかかることゆえ、だれにでも交付してほしい区の証明なのにハードルが高いなあと、内心忸怩たる思いもしたものです。

後見制度とは

あらためて任意後見契約をご説明しましょう。

大きな話ですが、私たちが暮らす「近代社会」は、「自分で契約ができる人」で構成されているという前提があります。自分で判断し契約を結び、それは守られ(履行)なければならず、勝手に取り消すなどはできません。
そうしてこそ、近代社会の基礎である「取引の安全」が維持されます。

では、判断能力が低下した認知症とか障害のある人はどうするのでしょうか? そのときはキーパーソンをつけて低下した判断能力を補い、社会参加を継続してもらう仕組みを作りました。これが成年後見制度です。

ちなみに、未成年は「自分で契約ができる人」から一部、免除されています。勝手に高額な買い物をしたときは、親権者があとで取り消すこともできます(相手には悪いですが、そうやって未成年の財産や権利を守るのです)。
親権者がいないときは未成年後見人がつきます。この未成年後見と同様、成人の一部にも法律的に特別扱いする仕組みが、成年後見制度です。

成年後見人は、介護や世話をするわけではなく、財産管理や契約の代理、つまり「頭の代行」をします。高齢期に「からだの代行」のために介護保険を使うには、ケアプランという契約をしなければいけません。認知症の人は契約ができない。それで成年後見制度と介護保険制度は車の両輪として、2000年に同時に発足しました。

任意後見と法定後見

成年後見制度には2種類あります。
一つは、本人の判断能力が衰えたあとで家庭裁判所に申し立てし、後見人をつけてもらう法定後見。状態の重たい順に、後見、保佐、補助の3段階があり、内容も法律に決まっているので法定後見といいます。
法定後見の申し立てができるのは4親等以内の親族のため、長年一緒に暮らすパートナーでも申し立てができません。親族の協力で申し立てができても、後見人(保佐人、補助人)は裁判所が決めるので、かならずパートナーがなれるか保証はありません。

そこでもう一つの制度が、任意後見です。これは自分の判断能力が衰えたときに備え、後見人になってほしい相手と契約し、その代理権の内容や報酬等も当事者間で決定することができます。判断能力の衰えたあとでは契約の変更は難しいので、公証人(特別の公務員)が介在する公正証書という重い方式で契約することが、任意後見契約に関する法律に定められています。

任意後見は柔軟に運用内容を決められる

法定後見が、判断能力が衰えたあとで申し立てし、中身も法律で決まっているレディーメードであるのに対し、任意後見は、判断能力が衰えるまえにそれに備えて作成し、中身もオーダーメードで作成できる違いがあります。この任意後見契約を、パートナー相互で(委任者・受任者を入れ替えて)やるわけです。
 
契約では、だれに、なにを任せ、費用や報酬はどうするか、といったことを取り決めます。公証役場でよく使われるひな形がありますが、個々の状況にあわせてアレンジもできます。
パートナーと無報酬でするのが一般的ですが、「介護や病院の契約はパートナー、でも貯金管理などお金に関わることは専門家に」といった具合に役割を分けることも可能です。

こうして契約文案を整え、公証役場で公正証書にしてもらい、その契約は東京法務局に登記されます(全国から)。二人の契約関係が国に登録されるわけです。

登記証明書をとると相互に契約がされていることがわかります。
登記証明書をとると相互に契約がされていることがわかります。(筆者提供)
任意後見契約ではこうした代理権を列記し、契約をします。
任意後見契約ではこうした代理権を列記し、契約をします。(筆者提供)

契約後の実際の運用は

契約しただけでは、相手の財産管理はできません(まだ判断能力がある段階ですから)。
必要な状態になったら家庭裁判所に「任意後見監督人の選任」を申し立て、裁判所がその地域の弁護士などから監督人を選任したときから、監督人の監督のもと、相手の財産管理などができるようになります。

監督人に対しては3か月ごとに報告をする必要があり、また監督人から後見人へチェックが入ることもあります(監督人は相談相手と思ってください)。パートナーといえども他人の財産ですから、横領など許されず、監督人への報告・チェックが必要なのです。
ちなみに法定後見では、後見人が直接、裁判所へ報告し、裁判所が監督します。また、夫婦でも財産名義は別ですから、配偶者の財産管理をするには、結婚していても後見制度を利用する必要があります。

こうした後見活動は、相手が亡くなるまで続きます(回復して不要になる場合もあります)。終了時には残余財産を精算し、相続人や、本人が回復したなら本人へ引き継ぎます。

任意後見のメリット

任意後見は認知症に備えるものですから、「契約はしたが結局最後まで使わなかったね」、という場合もありますし、そうなればいちばんいい話です。

では、認知症になって発効するまえには、どんなメリットがあるでしょうか。 

  •  登記されるので、登記証明書は一種の公的パートナー証明とも考えられます。婚姻制度のないなか、同性ふたりに法的関係を導く方法は、養子縁組するか、相互に任意後見契約するか、の2つしかありません。また、登記は国の制度なので、全国で通用します。
  • 住宅ローンは返済期間も長いので、任意後見で一方の認知症時もカバーされているカップルにはペアローンが利用できる銀行も出てきました。収入合算もできるので、借入額を大きくすることもできます。
  •  後見契約をしているということで、病院でふたりの関係が通りやすくなった例もあります(筆者のお客様で)。ただし、任意後見契約が「医療代理権」を保障するものではありません。
  • 死亡届は戸籍法で提出できる人が規定されていますが、同居していないパートナーは提出ができません(同居人は可能)。後見人などは提出可能なのですが、まもなく改正される戸籍法で、発効前でも任意後見受任者は提出ができることになっています。

 

同性カップルで任意後見契約を利用してみたい方は、直接公証役場に相談するか、難しい制度なので、できればわかりやすく解説してくれる法律家を探して相談されることをまずはお勧めします。

前回の記事「入院したパートナーの最期の立ち会いを実現するには~」では、 同性カップルの医療の課題解決を網羅的に読み解きました。

今後もこのコラムでは、パートナーと人生の安心を得るために役立つ記事を書いていきます。

(記事は2020年6月1日時点の情報に基づいています)