全国に広がる「同性パートナーシップ」とは 制度概要やできる・できないことを解説
いま日本国内では、性的少数者のカップルを「パートナーシップ」として公認する制度を導入した自治体はすでに50を超え、利用カップル数はおよそ900組に上ります。全国の自治体で進められている、同性カップルのための「パートナーシップ制度」の機能やできること、できないことについて、今回の記事では整理して考えます。永易至文行政書士の解説です。
いま日本国内では、性的少数者のカップルを「パートナーシップ」として公認する制度を導入した自治体はすでに50を超え、利用カップル数はおよそ900組に上ります。全国の自治体で進められている、同性カップルのための「パートナーシップ制度」の機能やできること、できないことについて、今回の記事では整理して考えます。永易至文行政書士の解説です。
目次
「相続会議」の弁護士検索サービスで
現在の「LGBTブーム」のきっかけが、2015年に東京の渋谷区と世田谷区で始まった「同性パートナーシップ制度」であることは疑いないでしょう。
渋谷区では、「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」で、「男女の婚姻関係と異ならない程度の実質を備えた、戸籍上の性別が同じ二者間の社会生活における関係」をパートナーシップと定義しました。
区内に同居し、かつ公正証書による所定の契約を作成しているカップルに、区が証明書を交付するしくみを創りました。
要件とされた契約が、共同生活に関する合意契約と相互での任意後見契約です(任意後見については、前回記事で詳説)。証明書自体には法的効力はありませんが、こうした契約によって、判断能力が正常時も、それが低下し失われたときでも、二人のあいだに法律的に担保される関係が存在します。
こうした場合を、「男女の婚姻関係と異ならない程度の実質を備えた関係」と渋谷区では見なしました。
一方、世田谷区では、20歳以上で区内在住の同性カップルが、区役所で互いが人生のパートナーであることの宣誓書に署名します。区がその宣誓書を受領し、宣誓書の写しと受領証を交付する制度をつくりました。
宣誓書は区に10年間保管されます。
公正証書の作成などは要件とされていません。こちらは条例ではなく、区のマニュアルともいうべき要綱のかたちで制定されました。
公認制度の開始は、それまで不可視だった、あるいは見て見ぬふりし、「私的」なものとして切り捨ててきた同性カップル、ひいては性的マイノリティの存在を、市民社会というテーブルに乗せ、パブリックな存在とする画期的なものでした。
これら自治体の取り組みに、当事者からは、「公式に認められるのが嬉しい、ぜひ取得したい」と歓迎した人たちもいれば、「法的効力がないなら必要を感じない」という人もいます。
国の法律が、同性カップルについてなんらの規定をしていない現状では、渋谷区にせよ世田谷区にせよ、法の範囲を超えて同性カップルに特段の法的効果を付与することはできません。
しかし、形式的とはいえ自治体が同性カップルを公認することは、当事者に社会に認められたという感覚を与えるとともに、社会への大きな啓発効果を発揮するに違いないと、制定当時、私は思いました。その感想は、この5年の時間の間に各地で同様の制度が普及しつつある、という事実がすでに証明しているようです。
渋谷区のパートナーシップ証明では、必要書類とされたことで、聞き慣れなかった「公正証書」が一気に耳馴染みになりました。
ただ、公正証書の作成には法的知識も費用も必要であり、区が指定した証書を作成すれば役場手数料だけで約7万円。それを弁護士や行政書士など士業者に依頼すれば、別に報酬も必要です。
条例成立後、区は少しでも申請しやすくする方法を模索しました。
結果として、条例の2種類の公正証書を本則としながら、まだ二人が若いなどの事情に鑑み、任意後見契約は将来締結を約する確認条項を入れておけば、合意契約のみでも申請可能という特例型が設けられました。
合意契約だけなら公証役場手数料は1万7千円程度です。こうした運用で、希望者が申請しやすくなることが期待されています。私が証書をまとめ、先日(6月初旬)、渋谷区パートナーシップ証明を受領したカップルは45組目だったそうで、人口22万人の区で公正証書も必要な負担の多い仕組みですが、5年目にしては健闘していると思います。
一方で、条例が任意後見など特定の契約を要件としたことは、私は行政書士として課題が残ったと思っています。
私たち法律家は、同性カップルの法的保障のために、それぞれのライフステージの状況とニーズに合わせて、さまざまな類型の書面を作成します。合意契約や任意後見は重要なツールですが、それだけに止まりません。
死後の財産処理を託す遺言こそ必要な場合もあります。また、状況によっては合意契約や任意後見でなくてもよい場合もあります。
私がかかわらせていただいた、渋谷区在住でパートナー歴20年余のある中年のゲイカップルは、老後に備えて遺言と任意後見契約を作成されました。しかし、区の証明書取得も希望されたので、とくにいまさら必要ない共同生活の合意契約公正証書も作成せざるをえなかったのは、もったいないとの思いもあります。
全国47都道府県対応
相続の相談が出来る弁護士を探す世田谷区で始まった宣誓方式は、当事者の負担も軽く、その後の自治体はすべてこの宣誓方式を採用しています。同居要件の有無(一方が他自治体居住でも可もあり)や、戸籍上異性の二人が利用できる場合もあるなど、自治体ごとのバリエーションがあります。
こうした宣誓書による行政の公認によって、病院面会などにおける家族扱いや住宅賃貸の場面での対応がスムーズになることが期待されています。
一方、法的効力の裏付けになるものがないので、宣誓書だけで安心していると、お金や契約、相続などが関係する場面では無効だったことにあらためて気づいて困惑したり、病院・医療の場面でも本人がどこまで委任しているのかが曖昧だと、肝心な事態で対応してもらえるのか不安な面もあります。その点、当事者側も法的な理解を深め、遺言や医療に関する委任など法的備えをしておくことが大切です。
パートナーシップ制度は、同性パートナーが家族であるとの理解を広げました。
導入自治体が公営住宅に門戸を開く動きもあります。生命保険の受取人指定、携帯電話の家族割、航空会社でのマイルの共有などに対応したり、社内の福利厚生に同性パートナーを含めたりする企業も出始めています。
その際、もはや自治体の証明を不要とした企業もあります。
自治体パートナーシップは、同性カップルにとどまらず性的マイノリティ全体への理解を促し、社会の多様性を高め、だれにも負担を強いず、特別の予算もかからず、自治体の名声ともなり、なにより利用する当事者が幸福になる、「いいことづくめ」の施策だと私は思います。
現在も各地の当事者たちが、相互に情報交換しながら制度の制定を働きかけ、導入を表明する自治体の動きが続いています。
同時に、同性婚を求める裁判も、全国5か所の地裁に起こされています。
地方自治体から、司法から、ひとつひとつ結果が積み上がっていくとき、最後に残る国会はどう対応するのでしょうか。アジアで最初に同性婚を立法した台湾は、日本と同じ2015年に高雄や台北で始まった同様の登録パートナーシップ制度が人口の80%エリアに広がり、2019年にわずか4年で同性婚へと至ったのですが……。
前回の記事「同性カップルの立場で考える 『任意後見契約』の使い方やメリットとは」では、二人の関係を公正証書として明示できる任意後見契約について解説しました。
今後もこのコラムでは、パートナーと人生の安心を得るために役立つ記事を書いていきます。
(記事は2020年6月1日時点の情報に基づいています)