目次

  1. 1. 故人が契約していた生命保険金は、遺産分割の対象となるのか?
  2. 2. 原則:保険金受取人に指定された者に帰属
  3. 3. 例外1:受取人を指定せず「相続人」としていた場合
  4. 4. 例外2:特別受益で相続人の不公平に配慮するケースがある
  5. 5. まとめ 財産の多くを占める場合受取額を制限されることも

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家族が亡くなった際、相続人から以下のような相談を受けることがあります。

「父が亡くなり、相続人である私(長男)と姉の2人で遺産分割の話し合いをしました。母は父が亡くなる2年前にすでに亡くなっています。父の相続財産としては、預貯金が100万円だけで、不動産はなく、その他には生前父が加入していた生命保険金(約5000万円)があるだけです。父の生命保険契約の内容を確認すると、生命保険金の受取人は当初母でしたが、1年前に姉に変更されていました。

姉は、生命保険金は相続財産ではなく受取人である自分のものであり、預貯金を2分の1ずつで分けるように言っています。父が自ら保険金の受取人を決めたことなので、保険金については仕方ないですが、預貯金についても私は半分しかもらう権利はないのでしょうか」

遺産分割協議の中で生命保険金が大きな割合を占める場合には、相続人に不公平が生じ、トラブルの原因となります。また、遺留分を計算するにあたっても「生命保険金を遺留分の計算の基礎に含めるかどうか」という点で、トラブルになることがよくあります。このような時には、どのように対応すればよいのでしょう?

まず、問題になるのは「生命保険金が相続財産になるかどうか」です。これは既に最高裁判所において確立した判断がなされており、亡くなられた方の生命保険金は、保険金受取人が指定されている場合、相続財産にはならず、受取人に指定された方に帰属する財産となります。そのため、上記のモデルケースにおけるお姉さんの言い分にも一理あります。

モデルケースの事例とは異なり、亡くなった方が生命保険金の受取人を指定されていなかった場合や、受取人を単に「相続人」とだけしか指定していない場合には、法定相続分の割合にしたがって、各相続人が保険金の給付を受ける権利を相続します。

なお、保険金受取人が保険契約者よりも先に亡くなっており、受取人が変更されていない場合は、各保険会社の約款により、受取人が決まるケースが大半です。もし規定がなければ、保険法や判例によって、保険金受取人の相続人が均等に保険金を受け取る権利を取得することとなっています。このとき、法定相続分の割合ではない点に、注意が必要です。

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モデルケースの場合、姉が生命保険金を受け取りながら、さらに遺産となる預貯金の2分の1を取得するとなると、長男からすれば著しく不公平な結果となります。

最高裁判所は、このような不公平が生じる場合に、遺産となる財産から受け取る金額を調整することを、例外的に認める判決【最高裁平成16年10月29日(民集58巻7号1979号)】を出しています。

相続人の公平を図るため、亡くなった者から保険金受取人へ生命保険金相当額の贈与があった場合と同じとみて(これを「特別受益」といいます)、具体的に取得できる相続分を修正するという考え方です。

上記の最高裁判決は、「保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して」、この例外を認めるかどうかを判断するとしました。

仮に生命保険金が特別受益であると認められれば、姉は本来相続によってもらうはずだった金額よりも多額の生命保険金を受け取ったことになるので、残った遺産(預貯金100万円)は全額長男が取得するという結果になります。

なお、最高裁判所の判決は、上記のとおり、保険金を特別受益と認めるかどうかを、単に相続財産に占める生命保険金の割合だけで判断していません。しかし、実務においては、おおむね総財産に占める生命保険金の割合が6割を超えると、特別受益として認められる可能性が高いと考えられています。

相続財産の中に生命保険金が含まれ、その金額が遺産の大部分を占めるケースは少なくありません。しかし、こういった場合には、最高裁判例の判断基準に従って、相続人の公平を図るため、保険金受取人は「その他の遺産から相続を受けることができない」または「制限される」ことがあります。

遺産分割交渉をする余地がありますので、生命保険金の受取人が指定されているからといって諦める必要はありません。実際に交渉の余地があるのか、取得できる金額がいくらになるのかは専門家にご相談ください。
(記事は2020年5月1日現在の情報に基づきます)

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