目次

  1. 1. 相続税の「物納」とは何か
  2. 2. 物納の条件とは
    1. 2-1. 延納によっても金銭で納付することが不可能であること
    2. 2-2. 物納できる財産から選定されたもので、申請の順位を満たしていること
    3. 2-3. 納付期限までに必要書類を提出していること
  3. 3. 物納の優先順位と物納できない財産とは
    1. 3-1. 物納にあてる財産には優先順位がある
    2. 3-2. 物納劣後財産とは
    3.  3-3. 管理処分不適格財産とは
    4. 3-4. 収納価額
  4. 4. 物納の手続きの流れと期限
    1. 4-1. 物納の手続き
    2. 4-2. 必要書類
    3. 4-3. 利子税の納付も必要
  5. 5. 「物納」と「不動産売却して納付」どちらがいい? メリットとデメリットを比較
    1. 5-1. 物納のメリット
    2. 5-2. 物納のデメリット
    3. 5-3. 不動産売却のメリット
    4. 5-4. 不動産売却のデメリット
  6. 6. 現金納付が難しいなら税理士に相談を

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亡くなった親などから、お金や土地などの財産を受け継いだ場合、その受け取った財産にかかるのが相続税です。相続税は金銭で納付することが原則ですが、一括納付によっても、分割払いによる延納によっても金銭で納付することが困難な場合は、納税者の申請により、その納付が困難な金額を限度として相続財産で納付することが認められています。これを物納と言います。

【関連】相続税の延納とは 分納できる条件や期間、利子税などのデメリットも解説

相続税の「物納」までの流れと条件を図解。相続税の支払いは原則、現金一括納付です。現金一括納付でも分割払いによる延納でも金銭で納付することが困難な場合は「物納」が可能ですが、条件を満たしている必要があります
相続税の「物納」までの流れと条件を図解。相続税の支払いは原則、現金一括納付です。現金一括納付でも分割払いによる延納でも金銭で納付することが困難な場合は「物納」が可能ですが、条件を満たしている必要があります

物納は下記のすべての要件を満たしている場合に許可を受けることができます。

  1. 延納によっても金銭で納付することが不可能であること
  2. 物納できる財産から選定されたもので、申請の順位を満たしていること
  3. 納付期限までに申請書を提出すること

物納は延納によっても金銭で納付することが困難な場合に、その困難とする金額を限度として物納の申請することが要件になります。

物納を申請できる金額の求め方の図表。納付すべき相続税額から相続した現預金や納税者固有の現預金、臨時的収支(おおむね1年以内に見込まれるもの)などを差し引いたものが「物納を申請できる金額」となります
物納を申請できる金額の求め方の図表。納付すべき相続税額から相続した現預金や納税者固有の現預金、臨時的収支(おおむね1年以内に見込まれるもの)などを差し引いたものが「物納を申請できる金額」となります

物納できる財産は相続で取得した国内の財産のみに限定されています。相続時精算課税制度を使った贈与によって取得した財産は含みません。相続時精算課税制度とは、贈与額が2500万円に達するまでは贈与税はかからず、2500万円を超えた部分は贈与税率20%で課税される制度のことです。さらに、物納に充てる財産には優先順位がありますので自由に物納財産を選定することができません。

物納しようとする相続税の納期限または納付すべき日(物納申請期限日)までに、物納申請書に物納手続関係書類を添付して税務署へ提出する必要があります。

物納に充てる財産の種類は、不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式といった第1順位から優先的に物納申請をしますが、その財産が財務局などによって管理や処分に向かない財産と見なされ、「管理処分不適格財産」に該当する場合は物納申請ができません。また、財産が自由に使用や処分しづらい「物納劣後財産」に該当する場合は、ほかに物納に充てるべき適当な財産がない場合に物納申請が認められます。

物納に充てられる財産の優先順位の第1順位は、不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式など。特定登録美術品は順位に関係なく一定の書類を提出することにで物納に充てることができます
物納に充てられる財産の優先順位の第1順位は、不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式など。特定登録美術品は順位に関係なく一定の書類を提出することにで物納に充てることができます

後順位の財産は、税務署長が特別の事情があると認める場合及び先順位の財産に適当な価額のものがない場合に限って物納に充てることができます。ただし、重要文化財として指定された絵画などの特定登録美術品は上記の順位にかかわらず一定の書類を提出することにより物納に充てることができます。

財産が自由に使用や処分しづらいなど、ほかの財産と比べて売却などが難しい財産を物納劣後財産と言います。そのため、ほかに物納にあてるべき適当な財産がある場合には物納劣後財産を物納にあてることができません。下記のような不動産は物納劣後財産になります。

  • 地上権、永小作権もしくは耕作権、地役権が設定されている土地
  • 法令の規定に違反して建築された建物及びその敷地
  • 現に納税者の居住または事業に使用されている建物及びその敷地(納税者がその建物及び敷地について併せて物納の許可を申請する場合を除く)
  • 配偶者居住権が設定されている建物及びその敷地
  • 建築基準法に規定する道路に2m以上接していない土地
  • 市街化区域以外の区域にある土地(宅地として造成することができるものを除く)

管理や処分に向かず、物納にできない財産のことを管理処分不適格財産と言います。下記のような不動産は管理処分不適格財産になります。

  • 担保権が設定されている不動産
  • 権利の帰属について争いがある不動産
  • 境界が明らかでない土地
  • 争訟によらなければ通常の使用ができないと見込まれる不動産
  • 借地権が設定されている土地で借地権者が不明であるもの
  • 共有になっている不動産(共有者全員が物納申請する場合を除く)
  • 耐用年数を経過している建物(通常の使用できるものを除く)
  • 管理または処分費用が収納価額よりも過大になると見込まれる不動産

物納財産を国が収納するときの価額は、原則として相続税の課税価格に算入した価額になります。ただし、実際に収納されるまでに財産の状況に著しく変化があった場合には、収納時の現況により税務署長が収納価額を決定します。なお、小規模宅地等の特例を適用する場合は、特例適用後の価額が収納価額となります。

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物納申請をする場合、相続税の納期限または納付すべき日までに物納申請書及び物納手続関係書類を税務署長に提出する必要があります。

ただし、物納申請期限までに物納手続関係書類の提出が難しい場合は、物納手続関係書類提出期限延長届出書を提出することで1回の届出書につき3カ月を限度として、最長で1年間の提出期限を延長することができます。

なお、物納申請書が提出された場合、税務署長はその物納申請に係る調査を行い物納申請期限から3カ月以内に許可または却下します。ただし、申請財産の状況によって許可または却下の期間が最長9カ月まで延長する場合があります。

物納申請書(各種確約書を含む)
物納申請書は物納を申請するための書類です。この書類には物納を申請する税額などを記載します。併せて物納する申請税額の根拠を示すため、「金銭納付を困難とする理由書」を添付します。この理由書には金銭で支払うことが困難である旨を具体的数字に置き換えて記載します。

物納財産目録
物納財産目録は物納しようとする財産の詳細な情報を記載します。財産の種類によって書式が異なります。

物納劣後財産等を物納に充てる理由書
物納劣後財産を物納に充てる場合にはこの理由書を添付します。

物納手続関係書類
物納する財産ごとに必要書類が異なります。物納手続関係書類チェックリストに基づいて必要書類を準備します。

物納の許可があった場合には相続税の納期限または納付すべき日から収納の日までの期間について利子税がかかります。また、物納が却下された場合などは却下された日までの期間について利子税がかかります。

納税資金がない場合、物納を選択する方法と不動産を売却して現金化する方法を比較検討するケースがよくあります。

「物納」と「不動産売却」のメリットとデメリットをマトリックス図で紹介。それぞれのメリットとデメリットを比較することが大切です
「物納」と「不動産売却」のメリットとデメリットをマトリックス図で紹介。それぞれのメリットとデメリットを比較することが大切です
  • 譲渡所得税、仲介手数料がかからない
  • 不動産なら固定資産税が安くなる(減免申請が必要)
  • 条件がかなり厳しい
  • 事前準備に時間を要する
  • 売買価額ではなく相続税評価額が収納価額となる
  • 利子税がかかる
  • 物納ほど準備が大変ではない
  • 不動産の売却価額が相続税評価額よりも高い場合、お金が手元に残ることも
  • 利子税がかからない
  • 譲渡所得税、仲介手数料がかかる
  • 買い手が見つかるまで時間を要する場合がある

物納申請は条件が非常に厳しく、かつ、物納申請をするための判断や準備に時間を要するため、物納申請は年間100件もないのが現状です。そのため、納税資金が不足する場合は不動産を売却して現金化したうえで納税する方法を選択することが実務上多くなっています。

ただし、納税資金を売却する方法に限定してしまうといざ売却できなかったときのリスクが出てしまうため、物納も視野に入れながら相続手続きをしたほうが良いでしょう。そのためにも、納税資金に困りそうなときは物納手続きなど相続に強い税理士に早めに相談することをお勧めします。

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(記事は2023年2月1日時点の情報に基づいています)

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