相続税の基礎控除とは 相続税がかからない遺産額

「基礎控除額の範囲以内なので、相続税の申告は必要ありませんね」
「そうですか、安心しました……」

これは、私が都内の税務署に配属され、相続税の窓口を担当していた平成20年頃に、数え切れないほど繰り返したやり取りです。相続税について毎日数名の方が相談に来られていましたが、話を聞く限り相続税の申告が必要ないケースが大半だったのです。

その判断のポイントが、相続税の「基礎控除額」にありました。

相続税は、相続などによって財産を取得した各人の「課税価格の合計額」に対して課せられるものです。課税価格の計算について詳しく説明はしませんが、ひとまず被相続人のプラスの財産(預貯金や土地など)から、マイナスの財産(債務や葬儀費用など)を引いた金額をイメージしてください。

この課税価格の合計額から差し引けるのが、基礎控除額です。つまり、基礎控除額が大きければ大きいほど、相続税の金額は少なくなります。そして、課税価格の合計額が、基礎控除額を超えなければ、相続税の申告や納税は基本的に必要ありません。

相続税の基礎控除額は、どのような人であっても必ず使えるものなので、まずは「基礎控除額がいくらか?」ということを考えることが相続税について調べる第一歩です。そのうえで、課税価格の合計額を計算し、基礎控除額を上回るようであれば、相続税の申告準備を進める、というのが基本的な手順となります。

法改正で基礎控除額は縮小 課税対象者は倍増 

平成25年度税制改正を受け、平成27年1月1日以降に発生する相続については、基礎控除額の計算式は以下のとおりとなっています。

【平成27年1月1日以降の基礎控除額】
3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

この法定相続人の数え方については後ほど解説しますが、たとえば、ある人が亡くなって、妻と子2人が残された場合、法定相続人は3人で基礎控除額は4,800万円という計算です。

なお、平成25年度税制改正の前は、基礎控除額の計算式は以下のとおりでした。

【平成26年12月31日以前の基礎控除額】
5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数)

こうして改正前後を比べると、基礎控除額がかなり縮小されていることが分かると思います。たとえば法定相続人の数が3人のケースで考えると、改正前は8,000万円の基礎控除額ですが、改正後は4,800万円まで引き下げられているのです。

このように基礎控除額が引き下げられたことで、相続税の申告・納税が必要となる可能性は高まっています。事実、財務省の統計 によると、死亡者数に占める、相続税の課税件数の割合は、近年以下のとおり推移しており、法改正によって課税割合がほぼ倍増していることが分かります。

平成25年 4.3% 
平成26年 4.4%
平成27年 8.0%
平成28年 8.1%
平成29年 8.3%

覚えておきたい基礎控除額の計算方法

ここからは、さらに詳しく基礎控除額の計算方法を解説します。

繰り返しますが、現在、基礎控除額は3,000万円+(600万円×法定相続人の数)の算式で求めます。シンプル計算式なので、法定相続人の数を正しく把握すれば、基礎控除額を簡単に求めることができます。

法定相続人とは、民法に基づく相続人を意味し、家族構成に応じて自動的に決まります。遺言の有無や、実際に財産を相続するか、といったことは、法定相続人の判定に関係しません。

親族のうち常に法定相続人となるのは、「配偶者」です。婚姻の届け出をした夫や妻は、必ず法定相続人になります。ただし、内縁関係にある人は、法定相続人には含まれません。

さらに、次の3パターンに該当する人がいた場合、その人も法定相続人となります。これら3パターンには優先順位が設けられており、「1の該当者がいなければ2」「1、2の該当者がいなければ3」というかたちで法定相続人が決まります。

1 被相続人の子
2 被相続人の父母
3 被相続人の兄弟姉妹

したがって、被相続人が妻子を残して死亡したのであれば、法定相続人は妻と子になり、父母や兄弟姉妹は法定相続人にはなりません。一方、子がいない状態で死亡したのであれば、父母や兄弟姉妹が法定相続人になる可能性が出てきます。

代襲相続が起きる場合の基礎控除額の計算

法定相続人が、被相続人の相続開始前に、死亡等により相続権を失っていた場合には注意が必要です。この場合、「代襲相続」という形で、以下のとおり相続権が別の親族に移転します。

【代襲相続のパターン】
1 被相続人の子→被相続人の孫
2 被相続人の父母→被相続人の祖父母
3 被相続人の兄弟姉妹→兄弟姉妹の子(甥や姪)

代襲相続が起きると、法定相続人の数にも影響が生じます。たとえば、以下の図のケースの場合、もともとは配偶者と子2人を合わせた3人が法定相続人ですが、代襲相続によって、配偶者と子1人、孫2人を合わせた4人が法定相続人となっています。

また、以下のとおり、甥や姪が法定相続人になるケースもあります。このように法定相続人に当たる人が亡くなっていた場合、基礎控除額の判断が難しくなるため、慎重に確認するようにしてください。

基礎控除額の注意点 養子縁組の相続人の数に上限

被相続人が養子縁組を行っていた場合、その養子は相続人としての身分を持つことになります。ただし、基礎控除額を計算する際の法定相続人のカウントについては、以下のとおり上限が設けられています。この上限を超えて養子縁組をしても、相続税の節税にはつながらないため、注意してください。

1 被相続人に実子がいる場合・・法定相続人となる養子の数は1人まで
2 被相続人に実子がいない場合・・法定相続人となる養子の数は2人まで

また、相続の放棄をした場合のルールも、押さえておく必要があります。これは納税者にとってはメリットとなることです。

相続を放棄すると、被相続人の財産や債務を引き継ぐことはなくなりますが、相続税の計算においては、「その放棄がなかったものとして」計算されます。

つまり、法定相続人が3人いて、そのうち1人が相続放棄をしたとしても、3人をベースに基礎控除額が計算されるということです。相続放棄をしたからといって、基礎控除額が減り、相続税額が増えるといったことはありません。

このように基礎控除額のルールには複雑ですが、まずは「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」という算式を覚えて、「基礎控除額を超えると相続税の申告が必要になる」ということだけでも理解しておきましょう。

(記事は2020年3月1日時点の情報に基づいています)