目次

  1. 1. 相続税の「延納」とは何か、「分納」とは何か
  2. 2. 延納ができる条件
    1. 2-1. 条件1:相続税額が10万円を超えること
    2. 2-2. 条件2:納期限までに金銭で一括納付するのが困難
    3. 2-3. 条件3:担保を提供する
    4. 2-4. 条件4. 期日までに必要書類を提出
  3. 3. 延納のデメリット
  4. 4. 延納の手続きと必要書類
    1. 4-1. 延納の手続き
    2. 4-2. 延納の必要書類
  5. 5. 延納の注意点
    1. 5-1. 担保にできない財産がある
    2. 5-2. 条件が厳しい
    3. 5-3. お金を借りたほうが良いことも
  6. 6. 延納を考えるなら税理士に相談を

相続税の納税期限は、通常、故人が死亡した日の翌日から10カ月以内で、相続税は金銭で一括納付することが原則になります。ただし、納税額が高額で故人の死後から10カ月以内での一括納付が困難な場合は、納税者の申請により、納付を困難とする金額を限度に分割払い、つまり分納することができます。これを「延納」と言います。

延納によっても金銭で納付することが困難な場合は、納税者の申請により、納付を困難とする金額を限度に物で納付する「物納」という制度があります。不動産、船舶、国債証券などが物納の代表例です。

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相続税は金銭で一括納付することが原則のため、気軽に延納を選択することはできません。そのため延納で納付をする場合には、以下の条件を満たす必要があります。

相続税の延納ができる条件
相続税の延納ができる条件は3つ。「相続税額が10万円を超えること」「納期限までに金銭で一括納付するのが困難」「担保を提供する」という要件を満たす必要があります

延納が利用できるかどうかの判定は納税者ごとに行われます。ほかの納税者の納税額が10万円以下でも、延納をしようとする人の納税額が10万円を超えていればこの制度を利用することができます。

延納税額は金銭で一括納付することが困難な理由があり、かつ、その納付を困難とする金額の範囲内である必要があります。この「納付を困難とする金額」とは、単に相続財産だけでなく納税者の固有財産を加味しても、なお支払いが困難な金額を言います。ただし、生活に必要な金額は手元に残しておくことができます。

延納に関する金額の求め方
延納許可限度額の求め方と、延納によって納付することができる金額の求め方。「②納期限までに支払うことが可能な金額」が「①納付すべき相続税額」と同額、またはそれ以上の場合は延納はできません

(1) ①納付すべき相続税額≦②納期限までに支払うことが可能な金額
延納を許可されません。

(2) ①納付すべき相続税額>②納期限までに支払うことが可能な金額
①-②の金額が③延納の許可をすることができる限度額になります。

(3) ③延納の許可をすることができる限度額>④延納によって納付することができる金額
③-④の金額は延納によっても納付できないため、物納により納付することになります。

(4) ③延納の許可をすることができる限度額≦④延納によって納付することができる金額
③の金額が延納税額になります。

延納を申請する場合、延納税額及び利子税の額に相当する担保を提供する必要があります。ただし、延納税額が100万円以下、かつ、延納期間が3年以下の場合は担保を提供する必要がありません。

延納の担保として提供できる財産は次のものに限られます。なお、相続または遺贈により取得した財産に限らず、相続人固有の財産や共同相続人または第三者が所有している財産であっても担保として提供することができます。ただし、税務署長が延納の許可をする場合において、延納申請者の提供する担保が適当でないと認めるときは、変更を求めることになります。

延納の担保として提供できる財産

  • 国債及び地方債
  • 社債その他の有価証券で税務署長が確実と認めるもの
  • 土地
  • 建物、立木、登記される船舶などで保険に附したもの
  • 鉄道財団、工場財団など
  • 税務署長が確実と認める保証人の保証

延納申請に係る相続税の納期限または納付すべき日(延納申請期限)までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して税務署長に提出する必要があります。

分割払いするための延納期間及び延納に係る利子税の割合は、相続財産の価額のうちに占める不動産等の価額の割合により定められています。そのため、延納期間や利子税の割合を自由に設定することはできません。延納期間や利子税の割合を把握しておくと、いざというときに役に立ちます。

相続税の延納期間や利子税の割合
相続税の延納期間や利子税の割合の一覧。区分によって納期期間は5年〜20年、延納利子税割合は1.2%〜6.0%と開きがあります

延納を申請する場合には、納期限または納付すべき日(延納申請期限)までに延納申請書に担保提供関係書類を添付して税務署長に提出する必要があります。

ただし、延納申請期限までに担保提供関係書類を提供することができない場合は、担保提供関係書類提出期限延長届出書を提出することにより、1回につき3カ月を限度として、最長6カ月まで担保提供関係書類の提出期限を延長することができます。

税務署長は、延納申請書が提出された場合、その延納申請に係る要件の調査結果に基づいて、延納申請期限から3カ月以内に許可または却下を行います。なお、延納担保の状況によっては、許可または却下までの期間を最長で6カ月まで延長する場合があります。

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・相続税延納申請書(各種確約書を含む)
相続税延納申請書は延納を申請する書類です。延納する申請税額や分割納付する期限や各分割税額のスケジュールなどを記載します。また、併せて延納する申請税額の根拠を示すために「金銭納付を困難とする理由書」を添付します。この金銭納付を困難とする理由書には、上記記載の納期限までに金銭で一括するのが困難の図表を具体的数字に置き換えて理由書を作成します。

・延納申請書別紙(担保目録および担保提供書)
延納申請書別紙は担保内容によって記載する書類が異なりますが、担保する財産などを記載します。

・担保提供関係書類
担保提供関係書類は、担保提供関係書類チェックリストに基づいて書類を準備します。担保する財産によって提出書類が異なりますので、このチェックリストで確認しながら書類を準備します。

担保の対象になる財産でも以下のような状況の場合は担保にできない場合があります。

  • 法令上、担保権の設定または処分が禁止されているもの
  • 違法建築や違法利用のために建物除去命令等がされているもの
  • 相続人間で争っている財産
  • 売却見込みのない財産
  • 共有財産の持分のみ(共有者全員が持分全部を提供する場合は除く)

延納は「金銭で一括納付が難しいこと」が条件となっていますが、この「難しい」の基準がかなり厳しく設定されています。

延納を許可する限度額を計算するにあたり、相続または遺贈により取得した現預金を含め納税者が持っている現預金等のうち生活費3カ月分、事業経費1カ月分以外は一括で納付しなければなりません。相続税額のうち上記の一括納付額を差し引いた税額が延納の対象になるため、延納税額が少額になりやすくなります。

金融機関から借りて支払うほうが良いこともあります。延納は延納期間や利子税の割合が定められているため、毎年の返済額、利率によっては借り入れを選択して、一括納付したほうが生活資金にゆとりができる場合もあります。

延納は誰もが気軽に使える制度ではありません。また、「利子税を支払う」「担保となる財産を選ぶのが大変」といったデメリットもあります。一括納付が難しい場合の納税の方法は延納だけではありません。異なる納税方法としては、先述した金融機関からの借り入れの方法や不動産を売却して納税資金にする方法がよくあります。

ほかにも延納を選択したあとに資金の余裕が出たため延納の繰り上げ返納を選択したり、逆に資金が苦しくなったために物納に変更したりする方法もあります。生活資金にも直結することであるため、資金繰りの問題で延納を考えるなら相続に強い税理士に早めに相談することをお勧めします。

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(記事は2022年12月1日時点の情報に基づいています)