高齢の母の財産をどう守る? 詐欺や判断力の低下に備える「任意後見」【相続税お悩み相談室】
税理士の森田貴子さんが相続税にまつわる様々なお悩みにお答えします。今回の相談者は、高齢の母が将来認知症になるかもしれないと心配しています。介護を1人で担うことになりそうで、詐欺被害を防ぎながら母の資産を守る方法を知りたいと考えています。
税理士の森田貴子さんが相続税にまつわる様々なお悩みにお答えします。今回の相談者は、高齢の母が将来認知症になるかもしれないと心配しています。介護を1人で担うことになりそうで、詐欺被害を防ぎながら母の資産を守る方法を知りたいと考えています。
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母が高齢になり、今後認知症になるリスクを考えると、詐欺被害などにあわないか心配です。介護は私1人で担うことになりそうで、資産をどう守ればよいか不安です。(東京都在住 55歳女性)
ご心配、もっともです。実際、高齢者を狙った詐欺は年々増加しています。警察庁の統計によれば、令和5年(2023年)の特殊詐欺の認知件数は 19,038件、被害総額は 452.6億円にものぼります。被害者のうち 65歳以上が78.4%、女性が56.1% と、まさに高齢女性が狙われやすい傾向が浮き彫りになっています。
こうした「万が一」に備える方法の一つとして、判断能力が低下したときに財産や生活を守る「成年後見制度」があります。
なかでも、今回のように親御さんがまだ元気なうちから備えておきたい場合には、「任意後見制度」が有効です。本人の判断力がしっかりしている段階で、信頼できる人に財産管理を託しておくための仕組みです。
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相続の相談が出来る税理士を探す成年後見制度は、判断能力が低下した人の財産や生活を法的に支援する仕組みです。
そして、成年後見制度には、本人の状態や希望に応じて、家庭裁判所が選任する「法定後見」と、本人が元気なうちに備えて契約を結ぶ「任意後見」の2種類があります。
すでに認知症などで判断能力が低下している方に対して、家庭裁判所が選任する「成年後見人」が財産管理や生活支援を行います。支援の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3類型に分かれます。
法定後見は判断能力がすでに低下した後に利用する、いわば「緊急対応」です。後見人に選ばれるのは専門職か親族かはケースバイケースですが、2024年のデータ(最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況―令和6年1月~12月」)では、親族が約17.1%、親族以外(弁護士・司法書士・社会福祉士・市民後見人など)の選任は全体の 約82.9%です。実態としては年々親族以外の割合が増えています。専門家に依頼することは横領など家族の争いの心配が減るということも一つの理由です。
後見人の役割には、身上監護と財産管理がありますが、心身の状態や生活の状況に配慮して、施設の入退所の契約や治療や入院の手続きなどは親族の方が適しているでしょうし、一方、他にも親族がいて、今後財産の争いの可能性がある場合には財産管理は専門家に任せたほうが安心です。先に示したデータでも成年後見の申し立て動機は、預貯金等の管理・解約が最も多く、次いで身上保護となっています。
また、家庭裁判所が気に入った人を選任してくれなかった場合、成年後見人を選任する審判が行われる前であれば申し立ての取り下げができますが、その場合も家庭裁判所の許可が必要です。また後見人への報酬が発生することや、預金口座は成年後見人名義口座で管理されるため、しっかり管理してくれる反面、家族のお金を引き出せなくなるデメリットもあります。
まだ判断能力がしっかりしている段階で、信頼できる人を「任意後見人」として本人が自ら選び、将来に備えて公正証書で契約をしておく制度です。契約後、本人の判断能力が低下した段階で、任意後見人が家庭裁判所に申立てを行い、本人のために財産管理などを行えるようになります。
任意後見は、本人が元気なうちに家族とよく話し合い、安心できる人に将来の財産管理を託しておく仕組みです。あらかじめ契約しておくことで、本人の意向を反映した柔軟な支援体制を整えることができます。
高齢になると、キャッシュカードの紛失や暗証番号の失念など、日常のちょっとしたトラブルが資産管理に影響する場面も増えます。
任意後見制度を利用すれば、任意後見人が本人に代わって銀行での手続きや生活費の引き出しを行えるため、こうした日常的なリスクにも備えることができます。
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相続の相談が出来る税理士を探す任意後見制度を利用するには、公正証書の作成や公証人との調整、家庭裁判所への申立てなど、いくつかの手続を経る必要があります。
この過程では、税理士が資産内容の整理や相続対策の観点から、最初の相談相手として関与することが多くあります。
一方で、契約の締結や申立ての実務は、弁護士や司法書士が担当します。
信頼できる税理士に相談すれば、状況に応じて適切な専門家を紹介してもらえる場合もあります。キャッシュカードを安易に親族に預けてお金の使い込みといったことを避けるためにも、相続が発生する前から早い段階で専門家(士業)にアクセスすると内容に応じた適切なそれぞれの専門家を紹介してもらえます。
士業の業法で決められた独占業務は士業だからこそ理解しています。隣接業務で行ってよいこと、行ってはならないことも理解していますので、無用なトラブルも避けることができます。特別なことがなければ士業にアクセスしない一般の人は、無資格であれば行えない、行ってはいけないことの理解やリスクが十分でありません。また資格がなくても相談にのっているコンサルタントもいるのが現実です。
任意後見契約の締結件数は一定数ありますが、実際に制度が発動されるケースはごくわずかで、実利用率は依然として低い状況です。その背景には、制度自体の認知度や周知が十分でないことも一因として挙げられます。
任意後見制度は、将来の不安に「今」から備えることができる仕組みです。親御さんが元気なうちに、家族で一度話し合ってみることをおすすめします。
制度を適切に活用すれば、ご本人もご家族も安心して日常を過ごすことができるでしょう。
(記事は2025年11月1日時点の情報に基づいています。質問は実際の相談内容をもとに再構成しています)
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