目次

  1. 1. 遺言の相談が多いのは70歳以上
  2. 2. 遺言は大きく分けて2つ
  3. 3. 早めに遺言を書くメリット
  4. 4. 判断能力がないと遺言は書けない
  5. 5. 余命宣告された男性のケース
  6. 6. 大切な家族のためにも早めに作成を
  7. 7. 遺言を準備する時の注意点
    1. 7-1. 自筆証書遺言の場合
    2. 7-2. 公正証書遺言の場合
    3. 7-3. 遺言の内容を変更する場合
  8. 8. まとめ|遺言書の作成は専門家に相談を

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遺言は自分の死後、主に特定の相続人等へ自分が決めた内容で財産を相続させるための文書です。遺書と誤解される人もいますが、遺書は死後に家族へ残すメッセージや辞世の句のようなものに対し、遺言は法律でしっかり規定された文書です。
民法では満15歳以上になれば遺言を書くことが可能ですが、若いときは「死」のイメージを持つ事があまりないので遺言を書くことを考えもしない方が多いでしょう。ある程度の年齢になっても、「自分はまだまだ元気だし、縁起が悪いから」などといった理由で遺言を書かない人も多いです。相続実務をやっていると、きちんと遺言をのこしてくれている人は全体の1割もいないことを実感します。しかし、遺言があれば死後の相続手続きが非常にスムーズになり、残された大切な家族の負担を大幅に減らしてあげることが可能です。

遺言のご相談が多い年齢層としては70歳以降の方です。このくらいの年齢になってくると「死」への具体的なイメージが出てきて、遺言を書こうと思う方が多いようです。現在の日本は超高齢化社会となり、65歳以上の実に4人に1人が認知症もしくは認知症予備軍といわれています。認知症になり判断能力が低下してくると遺言を書くことができなくなってしまいます。認知症の程度が進んで判断能力が著しく不十分な状態や判断能力が無い状態で書いた遺言は無効です。遺言を書くには一定の判断能力が必要なのです。

さて、遺言には大きく2種類の遺言があります。一つが自筆証書遺言、もう一つが公正証書遺言です。自筆証書遺言は文字通り自分自身が自筆で作成するものです。公正証書遺言は公証役場で作成する遺言です。それぞれメリットとデメリットがあるのですが、相続実務の専門家としては、公正証書遺言をおすすめします。原本が公証役場で保管されるため紛失、変造、隠匿の恐れがなく、確実な遺言を遺せるからです。

遺言それぞれのメリットとデメリットをまとめました
遺言それぞれのメリットとデメリットをまとめました

相続人が2人以上いる場合は、相続人の相続分は法律で定められた割合になります。しかし、「同居して自分や配偶者の面倒をよく見てくれた子どもには多く財産を残してあげたい」と考えることもあるでしょう。遺言を遺さないで、財産の分け方を相続人にゆだねてしまった場合、法律で定められた相続割合が足かせになって介護などに尽力してくれた相続人と他の相続人の相続割合が平等になると、逆に不平等な結果になるかもしれません。
相続人には遺留分といって一定の相続分が保証される仕組みがありますが、遺留分を侵害しない程度であれば、遺言で本当に財産をのこしてあげたい特定の相続人に多めに財産を与えるようなことも可能です。
相続人によって財産の偏りが出るような場合は付言事項といって、遺言書の末尾に「どうしてそのような財産の分け方をしたのか」という相続人に対するメッセージも遺すと、よいでしょう。最近では遺言と併せてビデオレターを作成してくれるようなサービスもあります。付言事項もビデオレターも法律的には単なるお手紙(メッセージ)なので、法的な効力はありませんが、無機質に財産の分け方だけ記載された遺言書より付言事項などのある遺言書は相続人に納得感を与えることができます。

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遺言書の作成のご相談をいただく中でも差し迫った理由があって相談にこられる方もいます。最近、物忘れが多くなってきたり認知症を発症したりして、このままでは遺言を書くことができなくなるようなケースです。身体が不自由であっても遺言作成に問題はないのですが、判断能力がないと遺言は書けません。

また、若くても事故や病気など不測の事態が起きる場合もあります。私が実際にご相談いただいたケースですが、末期がんで余命1ヶ月と診断された方がいました。判断能力はしっかりあるので遺言を書くことはできます。子どもがいなかったので、推定相続人は兄弟です。しかし、親の相続のときに兄弟間で揉めて以来、疎遠だったので、最後まで身の回りのことをしてくれたパートナーに財産を全て相続させたいという希望でした。
のこされた時間もあまりなかったので、至急、対応を進めたのですが、容体が急に悪化して意識が無くなってしまい遺言を書くことができないまま亡くなってしまいました。遺言がないため、その方の財産は兄弟が相続することになり、最後まで付き添ったパートナーには何も遺せませんでした。相談してくれるのが、あと3日早ければと悔やまれました。

早い段階で遺言を書いておけば、判断能力の低下や不測のことが起こった場合でも相続手続きをスムーズに行えるよう対策しておくことができます。遺言書は作成した後でも何度でも書き直せます。考え方や状況が変わったら、その時に書き直せばよいのです。それに、将来の相続のことを早く考えることによって、使う財産、相続人に残したい財産など、自身のライフプランを考えるきっかけにもなります。夏休みの宿題と同じで人間は目に見えるような期限が迫ってこないとなかなか動きませんが、人生は何が起こるか分かりません。このため、大切な家族のためにも早い段階で遺言の作成を検討してみてはいかがでしょうか。

前述しましたが、遺言には大きくわけて自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類があります。自筆証書遺言は一人で思い立ったときに書けて、相続人を含めた他人に内容を知られることがないというメリットがありますが、逆をいえば、誰のチェックも入らないので法律的な要件を満たさないで無効になったり、相続手続きに使えなかったりするケースがあります。せっかく遺言を書いたのに、これでは非常にもったいないです。
例えば、相続登記(相続した不動産の名義変更)を法務局に申請する際、遺言書を添付書類にすることがあります。法務局という役所は非常に細かく、遺言書に記載された不動産の標記は登記簿謄本と一字一句違わないように書かないと登記申請が通らないこともあります。不動産という大きな財産に関わるので、きちんと誤解の無いように書くことは当然ですが、一般の方が「登記簿謄本と同じように遺言書に不動産を記載する」と言われても良く分からないと思います。一見形式的な要件は満たしているような遺言でも、ちょっとした記載の仕方で相続手続きに使えない場合もあるのです。

公正証書遺言の場合は、公証人の関与があるので形式的な要件を満たさないために無効になったり、手続きに使えなかったりすることはあまり考えられません。しかし、公証人は基本的には言ったことを言ったとおりにしか作成してくれません。遺言の主な機能は本人の財産承継をスムーズに行うことですが、二次相続以降のことや税金のことなども考慮する必要があります。自分自身ではシンプルな内容と思っていても、思わぬ落とし穴があるかもしれません。

また、遺言を書いた後に財産の内容に変更があったような場合には、遺言の内容を変更することも検討しましょう。遺言は早い段階で作成した方が良いですが、長い人生の中では当初予定していたことに変更が生じることも多いでしょう。例えば、不動産を長男、現預金を長女にそれぞれ相続させるといった内容の遺言を書いていたとしても、不動産を売却してしまった場合には無くなってしまいます。現預金も増減することがあるでしょう。平等に相続させるつもりで書いた遺言も、時間が経てば財産内容に変更が生じて不平等になってしまうと相続争いになることもあります。遺言はいつでも自由に書き直せるので、その時々の状況に応じて更新していくことが肝要です。ただし、遺言の修正や変更にも法律で定まったやり方があるので、きちんとルールに乗っ取った方法で対応できるようにしましょう。

遺言を作成するにあたっては、無効になるのを防ぐことはもちろん重要ですが、自身や家族の状況による適切なアドバイスが必要です。遺言を作ることだけを目的とせずに、自分自身の将来や家族の幸せを考えた遺言書を作成しましょう。このような遺言を作成するためにも法律や税務の知識に精通している相続実務に精通した弁護士や司法書士ら専門家に相談することをおすすめします。

(記事は2021年2月1日時点の情報に基づいています)

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