暗号資産の相続税はいくら?「税率110%」になる恐れも!?【相続税お悩み相談室】

税理士の森田貴子さんが相続税にまつわる様々なお悩みにお答えします。今回の相談者は、暗号資産の相続税がどれくらいになるのかと不安になっています。
税理士の森田貴子さんが相続税にまつわる様々なお悩みにお答えします。今回の相談者は、暗号資産の相続税がどれくらいになるのかと不安になっています。
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数年前に購入した暗号通貨の価格がどんどん上昇し、今ではその保有額は合計2000万円相当になっています。暗号資産も相続税の対象になるのでしょうか。価格が乱高下しているのですが、税額はいくらになるのでしょうか。相続の前に、売却した方がよいでしょうか?妻とふたりの子どもがいます。(都内在住、65歳男性)
ここ数年、暗号資産を保有する人が急増しており、相談者のように心配される方が事務所に訪れることも増えています。
実際、2024年9月時点で国内の暗号資産口座数は約1,081万件。これは2019年の4倍以上にあたります。こうした広がりに伴い、国税庁も申告漏れや過少申告に対する調査体制を強化しており、今後ますます「暗号資産の相続」が重要な課題になっていくと考えられます。
相続税の対象になるのは現金や株式、不動産だけでなく「経済的な価値があるものすべて」が対象になります。そのため、暗号資産もれっきとした財産として相続の対象になります。
なお、暗号資産については、2025年4月時点において、財産評価基本通達による明確な評価ルールは整備されていません。評価方法の定まっていない財産についての相続税の課税では、一般的にその人が亡くなった日の取引価格(時価)が評価の基準とされます。上場株式のように、「死亡日を含む過去3か月の平均株価のうち最も低い価格を選択できる」といった特例的な評価方法は、現時点では暗号資産には適用されていません。
そのため、もし相続日に暗号資産の価格が暴騰していれば、その翌日に暴落したとしても高額な相続税が課せられる可能性もあります。
ビットコインやイーサリアムのような取引量の多い暗号資産の場合は、相続日の最終の取引額が基準となります。一方で、取引量が少ない暗号資産については、個別の売買実績や類似通貨の価格、専門家の意見価格などを参考に評価が行われます。
特にマイナーな銘柄を複数持っている場合には評価そのものが煩雑になる可能性があります。あらかじめ保有状況を整理して専門家(税理士)に相談しておくのが安全です。
相続税には「基礎控除」(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)という非課税枠があります。相続人が3人の場合、4,800万円までが非課税です。さらに、相続人に配偶者が含まれている場合には「配偶者控除」もあり、配偶者が取得する遺産が1億6,000万円以内か、法定相続分(民法で決められた相続人が受け取れる財産の額)の範囲内であれば、配偶者には実質的に相続税はかかりません。
したがって、相談者のケースでは、他に大きな財産がないのであれば、基礎控除の範囲内に収まって相続税は発生しないと考えられます。ただし、暗号資産は価格が大きく変動する資産です。現時点では非課税でも、将来的に価格が上がって課税対象になる可能性もあるので注意が必要です。
暗号資産には、他の財産とは異なる特有のリスクがいくつかあります。
こうした性質から、遺族が暗号資産の存在に気づかないまま相続手続きが終わってしまう、またはアクセスできずに事実上失われてしまうことも十分にあり得ます。
そのため、暗号資産を保有している方は、生前のうちに以下のような準備をしておくことが望ましいです。
相談者は日本国内に居住しているとのことですが、一部では「親子で海外に移住し非居住者となることで、日本の相続税の課税を免れることができる」という考え方が紹介されることもあるようです。確かに、現行制度では、亡くなった人と相続人がともに日本の非居住者で10年超日本に住所がなく、かつ国外財産と判定された場合、日本の相続税は課税されません。
ただし、2026年からは、日本の暗号資産交換業者に対し、非居住者の取引情報を税務署へ報告する義務が導入される予定です。これはOECDが主導する「CARF(暗号資産報告枠組)」に基づくもので、国際的にも暗号資産に対する監視体制は年々強化されています。
そのため、「海外移住すれば課税されない」といった単純な考え方は危険です。今後は、最新の法制度や動向を慎重に確認する必要があります。
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相続税の相談ができる税理士を探す特に注意が必要なのは、暗号資産の評価額が大きく、かつ亡くなった人がその暗号資産を非常に安価で取得していた場合です。相続税の税率は、法定相続分に応じた財産の取得額が6億円を超えると最高税率55%が適用されます。さらに相続人が相続後にその暗号資産を売却する時には「売却額-亡くなった人が取得した価格」で計算するため、相続人が売却した際の利益が非常に大きくなります。この譲渡益に対して最大55%(所得税45%+住民税10%)の課税が行われる可能性があります。このように、相続税と所得税の両面で高い税率が適用されるリスクがあるのです。
たとえば、亡くなった人が100万円で購入したビットコインが、相続時に6億円の価値になっていた場合を考えてみましょう。相続税は6億円に対して55%課税され、さらに売却すると「6億円-100万円」の利益にも55%の税がかかります。
この2つを合計すると税率は110%となり、相続した暗号資産をすべて売却しても税金の方が上回ってしまう事態に陥ります。
また、相続財産が6億円未満でも同様のリスクはあります。たとえば相続額が3億円〜6億円であれば相続税率は50%、2億円〜3億円であれば45%が適用され、売却時に55%の課税がなされれば、それぞれ合計税率は105%、100%となります。つまり、相続財産が2億円を超えるあたりから、実質的に資産をすべて売却しても手元にお金が残らない状況が起こる可能性が生じます。
こうした点をふまえると、暗号資産を「今、売った方がいいのか?」それとも「持ち続けるべきか?」という判断は、相談者の家族の意向や今後のライフプラン、そして納税資金の準備状況なども含めて、総合的に考えていくことが大事になってきます。
暗号資産をお持ちであれば、相続のときだけでなく、売却などで利益が出た場合の所得税の申告についても、できるだけ早めに税理士など専門家に相談してみてください。
税制改正もありますので、状況に応じたアドバイスを受けることをおすすめします。
(記事は2025年4月1日時点の情報に基づいています。質問は筆者の実体験を元にした創作です)
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