目次

  1. 1. 土地の名義変更とは?
  2. 2. 夫から妻へ土地の名義変更が必要となる3つのケース
    1. 2-1. 相続
    2. 2-2. 生前贈与
    3. 2-3. 財産分与
  3. 3. 夫から妻へ土地の名義変更をするときの必要書類は?
    1. 3-1. 遺産分割による相続
    2. 3-2. 遺言による相続
    3. 3-3. 生前贈与
    4. 3-4. 協議離婚による財産分与
    5. 3-5. 裁判離婚による財産分与
  4. 4. 夫から妻へ土地の名義変更にかかる費用は?
  5. 5. 夫から妻へ土地の名義変更をする際の注意点
    1. 5-1. 相続で名義変更をする際の注意点
    2. 5-2. 生前贈与で名義変更をする際の注意点
    3. 5-3. 離婚による財産分与で名義変更をする際の注意点
  6. 6. 夫から妻へ土地の名義変更、相続と生前贈与どちらが得?
    1. 6-1. 贈与で利用できる控除や非課税制度
    2. 6-2. 相続で利用できる控除や非課税制度
  7. 7. 夫から妻へ土地の名義変更についてよくある質問
  8. 8. まとめ 土地の名義変更は、司法書士など専門家へ相談を

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土地の所有者が誰であるかは、法務局が管理する登記簿に記録されています。土地の所有者が変わったときは、その土地の所在地を管轄している法務局に所有権移転登記を申請して登記簿上の所有者も変更する必要があります。つまり、土地の名義変更とは、所有権移転登記の申請を意味します。

たとえば、土地の売買が行われた場合は、売主である旧所有者と買主である新所有者が共同して、売買を登記原因とする所有権移転登記を申請します。買主は登記簿に新しい所有者として記録されることで、その土地が自分のものであると売主以外の第三者にも主張できるようになります。売主と買主の間で売買が成立すれば、それだけで土地の所有権は移転しますが、その所有権を第三者に主張するためには、所有権移転登記が必要です。

これは、夫婦間で土地の所有権が移った場合も同様です。夫から妻へ土地を譲渡した場合、妻がその土地の所有者であると夫以外に主張するためには、所有権移転登記を申請しなければなりません。

土地の名義変更が必要となるケースとしては売買が代表的ですが、夫婦間での売買は一般的ではありません。夫から妻へ土地の名義変更が必要となるケースとしては、相続、生前贈与、財産分与の3つが挙げられます。

相続とは、亡くなった人のすべての財産や権利義務を、配偶者や子など一定の身分関係にある人が引き継ぐ手続きを指します。亡くなった人を「被相続人」、財産を引き継ぐ人を「相続人」と言い、誰が相続人になるかは民法で決められています。

配偶者は常に相続人になります。そのほかの相続人には優先順位があり、第1順位は子、亡くなった人に子がいない場合は第2順位として両親、子がおらず両親も亡くなっている場合は第3順位として兄弟姉妹となります。

亡くなった夫が持っていた土地を妻が相続する場合は、相続による名義変更(相続登記)が必要です。

夫の死亡によって土地が妻に引き継がれる相続に対して、夫が生きているうちに妻との合意によって土地を無償で譲り渡すのが生前贈与です。贈与は財産を譲り渡す人と譲り受ける人の合意のみで成立するため、夫婦間の口約束で行われた生前贈与も有効です。

ただし、口約束で夫から土地を譲り受けた妻が、その土地が自分のものであると第三者に主張するためには所有権移転登記が必要です。また、書面によらない贈与は当事者が一方的に解除できてしまうので、夫婦間での贈与でも契約書を作成したうえでの名義変更をお勧めします。

財産分与とは、婚姻生活で夫婦が協力して築き上げた財産を、離婚の際に分配する制度です。離婚には、協議離婚、調停離婚、審判離婚、裁判離婚の4種類があります。夫婦の話し合いで合意して離婚することを協議離婚と言い、日本の離婚の9割を占めます。夫婦の話し合いがまとまらない場合に、家庭裁判所の調停委員による仲介のもとで合意されるのが調停離婚、調停でも合意されない場合に行われるのが審判離婚や裁判離婚です。

いずれの離婚においても、離婚の合意とは別に財産分与が定められるケースが多いです。財産分与の対象に夫名義の土地が含まれている場合は、離婚に伴い妻へ名義変更を行う必要があります。

土地の名義変更である所有権移転登記は、ケースごとに必要書類が異なります。

妻以外にも相続人がいる場合、相続人全員で話し合いを行い、誰がどの財産を引き継ぐのかを決めます。この話し合いを遺産分割協議と言います。遺産分割協議により、亡くなった夫が所有していた土地を妻が単独で相続する場合の必要書類は次のとおりです。

  • 登記申請書
  • 夫の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍謄本や改製原戸籍を含む)
  • 夫の住民票の除票
  • 妻を含む相続人全員の戸籍謄本または抄本
  • 妻の住民票の写し
  • 遺産分割協議書
  • 妻以外の法定相続人の印鑑証明書
  • 固定資産評価証明書または課税明細書

夫が作成した遺言書があり、土地を妻に相続させる旨の定めがされている場合は、遺産分割協議を行うことなく名義変更ができます。遺言書にもとづいて土地の名義変更をするときの必要書類は次のとおりです。

  • 登記申請書
  • 遺言書
  • 夫について死亡の記載がある戸籍謄本または抄本
  • 夫の住民票の除票
  • 妻の戸籍謄本または抄本
  • 妻の住民票の写し
  • 固定資産評価証明書または課税明細書

夫が所有する土地を妻に贈与したときの名義変更で必要な書類は次のとおりです。

  • 登記申請書
  • 贈与契約書
  • 夫の登記済権利証(登記識別情報通知)
  • 夫の印鑑証明書
  • 妻の住民票の写し
  • 固定資産評価証明書または課税明細書

夫婦間の話し合いにより離婚が成立し、財産分与として夫の所有する土地を妻に譲り渡す場合の必要書類は次のとおりです。

  • 登記申請書
  • 財産分与協議書
  • 離婚の記載のある夫、あるいは妻の戸籍謄本または抄本
  • 夫の登記済権利証(登記識別情報通知)
  • 夫の印鑑証明書
  • 妻の住民票の写し
  • 固定資産評価証明書または課税明細書

調停や裁判で離婚が成立し、調停調書や判決書のなかに「夫は妻に対し、離婚に伴う財産分与として、夫が所有する土地を譲渡し、財産分与を原因とする所有権移転登記手続きをする」というような記載がある場合の必要書類は以下のとおりです。

  • 登記申請書
  • 調停調書または審判書または判決書
  • 妻の住民票の写し
  • 固定資産評価証明書または課税明細書

なお、このような場合は妻が単独で登記申請できるため、夫の登記済権利証や印鑑証明書は不要です。

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相続、生前贈与、財産分与と、いずれのケースで名義変更するかによって、課税される税金や税率は変わります。下の表は、各ケースで課税される税金と税率、司法書士に名義変更を依頼した場合の報酬相場をまとめたものです。

ケース別の課税の有無と司法書士報酬の目安
不動産取得税 相続税 贈与税 登録免許税 司法書士報酬
相続 ×
税率は下記
速算表参照
×
税率0.4%
※1
10~20万円
生前贈与
税率3%
※2
×
税率は下記
速算表参照

税率2%
10万円前後
財産分与 ×
※3
× ×
※3

税率2%
10万円前後

相続の場合は不動産取得税や贈与税は課税されませんが、相続財産の総額が「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」で算出される基礎控除額を超える場合には相続税が課税されます。なお、登録免許税は固定資産評価額が100万円以下の土地については非課税です(※1)。

一方、生前贈与の場合は贈与税だけでなく不動産取得税も課税されます。その税率は、軽減措置により2027年3月31日までに取得した場合は3%、それ以降は4%です(※2)。

財産分与については、登録免許税以外は課税されないのが原則ですが、分与された財産の額が多すぎる場合や、離婚が贈与税や相続税を免れるために行われたと認められる場合は贈与税や不動産取得税が課税されます(※3)。

なお、不動産取得税と登録免許税は固定資産評価額に税率を乗じて算出しますが、相続税と贈与税については路線価によって算定された評価額を使用します。

下記は相続税と贈与税の税率を示した速算表ですので、参考にして下さい。

相続税の税率速算表。相続分に応じた取得金額が多くなるほど、税率が高くなる
相続税の税率速算表。相続分に応じた取得金額が多くなるほど、税率が高くなる
贈与税の速算表。相続税と同様、最高税率は55%となっている
贈与税の速算表。相続税と同様、最高税率は55%となっている

相続、生前贈与、財産分与それぞれのケースで名義変更をする際の注意点を挙げていきます。

相続による土地の名義変更、いわゆる相続登記は2024年4月1日から義務化され、相続によって不動産を取得した人は3年以内に登記を申請しなければなりません。正当な理由なく期限内に登記をしなかった場合は、10万円以下の過料が科せられる可能性があります。

また、相続登記をせずに放置している間に他の相続人が亡くなったり音信不通になったりすると、名義変更が困難になります。相続で土地を引き継いだときは、できるだけ速やかに名義変更を行いましょう。

【関連】相続登記の義務化とは【4月開始】 罰則から過去の相続分の扱いまで解説

相続税対策として生前贈与が行われるケースもありますが、その場合には「生前贈与加算」に注意が必要です。

生前贈与加算とは、相続開始前の一定期間内に贈与された財産を相続財産に加えて相続税を加算する制度です。2023年度税制改正により、これまでは3年だった加算期間が毎年1年ずつ段階的に引き上げられ、2031年以降に発生する相続については7年になります。

たとえば、2031年6月1日に相続が発生したとすると、亡くなる7年前の2024年6月1日以降に贈与した財産が相続税の課税対象になります。贈与を行った時期によっては、相続税対策で生前贈与をしたにもかかわらず、結果的に相続税がかかってしまう可能性があります。

【関連】生前贈与は亡くなる7年前まで相続税対象に 実質増税への対応策も解説

財産分与で土地を譲り受ける場合、その土地に住宅ローンの残債があるときには注意が必要です。住宅ローンでは、土地や建物に対して抵当権などの担保権を設定するのが一般的です。担保権が設定されたままでも土地の名義変更は可能ですが、銀行に無断で名義変更をすると、契約違反で一括返済を請求される可能性があります。

土地の名義変更では、さまざまな税金が課税されます。税率だけを見ると相続よりも生前贈与のほうが高いため、相続のほうがお得だと思えるかもしれません。しかし、夫婦間での相続や生前贈与では、下記のような税額控除や非課税制度を利用できる可能性があります。

【基礎控除(暦年贈与)】
毎年1月1日から12月31日までの1年間に受け取った財産が合計110万円以下であれば非課税となり、申告も不要です。

【関連】暦年贈与とは 2024年の改正内容から有効な活用法・注意点まで解説

【贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)】
婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産や居住用不動産の購入資金の贈与を受けた場合、最大2000万円が非課税になる制度です。110万円の基礎控除と併用できるため、最大2110万円まで非課税で贈与できます。

なお、2500万円まで非課税で贈与を受け、贈与者が亡くなったときに相続税として納税する「相続時精算課税制度」は、子や孫に対する贈与のみが対象のため夫婦間での贈与では利用できません。

【関連】おしどり贈与とは?メリット・デメリットと向いているケース、利用時の注意点を解説

【基礎控除】
相続した財産の総額が「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」で算出される基礎控除額以下であれば非課税となり、申告も不要です。

【相続税の配偶者控除】
配偶者が相続した財産について、法定相続分もしくは1億6000万円までを非課税とする制度です。

【小規模宅地の特例】
自宅の敷地など一定の要件を満たす土地であれば、相続税における評価額を最大80%減額できる制度です。

相続と生前贈与、どちらが軽い税負担で済むかは、土地も含めた財産の総額や家族構成、名義変更のタイミングなどによって変わります。税金対策として夫から妻への土地の名義変更を考えている人は、税金の専門家である税理士への相談をお勧めします。

【関連】小規模宅地等の特例とは? 適用要件から計算例、必要書類まで解説

Q. 夫から妻へ土地の名義変更は自分でできる?

土地の名義変更手続きは、司法書士などの専門家に依頼せずに土地所有者や相続人本人でも行えます。

登記手続きを自分で行う最大のメリットは、専門家に支払う報酬を節約できる点です。しかし、登記手続きでは多くの書類を準備する必要があり、書類の取得や作成に一定の知識が求められます。「自分で手続きしようと思ったが、集める書類が多すぎて途中で挫折した」「法務局に行く時間がなくて手続きが進まない」といった理由で司法書士に依頼する人も少なくありません。

土地は非常に重要な財産ですし、名義変更をせずに放置していると、いざというときに処分ができなくなる可能性もあります。自分での手続きが難しいと感じたら、早めに司法書士などの専門家に相談してください。

Q. 土地の名義変更はしなくてもよい?

相続による土地の名義変更を義務化する法律が2024年4月1日に施行されました。これにより、相続によって土地を取得した妻は、夫の死亡によって土地を引き継いだと知ったときから3年以内に名義変更をしなければなりません。

一方、生前贈与や財産分与によって土地を取得した場合には、名義変更をするかどうかは当事者の任意とされています。しかし、名義変更をしないでいると、妻は夫以外の第三者に土地が自分のものであると主張できないばかりでなく、夫が自分の土地であると偽って第三者に売却したときには土地の所有権を失う可能性もあります。

つまり、土地を取得した原因が何であるかにかかわらず、できるだけ早く登記申請を行い、名義変更を完了させるのがよいでしょう。

【関連】相続した家の名義変更 しないとどうなる? 放置するリスクや期限を解説

土地の名義が夫から妻に変更される代表的なケースとしては、相続、生前贈与、財産分与が考えられます。手続きに必要な書類はそれぞれ異なりますし、かかる費用も違います。また、相続登記は2024年4月1日から義務化され、3年以内に登記申請しない場合は罰則の対象になるので注意が必要です。

相続や生前贈与など夫婦間で土地の所有権が移ることはめずらしいことではありません。赤の他人に対しての売買であれば不動産業者や司法書士が介在してすぐに名義変更を行いますが、夫婦間の場合は2人の間での口約束だけで名義変更を行わないまま放置する事例も少なくありません。逆に、安易に生前贈与で名義変更をしてしまったために、多額の贈与税を払わざるを得なくなるケースもあります。

夫から妻へ土地の名義変更を行うときは、その方法やタイミングについて、司法書士や税理士などの専門家に相談することをお勧めします。

(記事は2024年12月1日時点の情報に基づいています)

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