目次

  1. 1. 相続登記とは
  2. 2. 相続登記を自分で行うメリット|専門家への報酬を節約できる
  3. 3. 相続登記を自分で行うデメリット
    1. 3-1. 時間と労力がかかる
    2. 3-2. 登記漏れが生じるおそれがある
  4. 4. 相続登記を自分で行う際の見落としがちな注意点
    1. 4-1. 必要な戸籍謄本がすべてそろっていない
    2. 4-2. 登記簿上の住所と死亡時の住所が違う
    3. 4-3. 自筆証書遺言の検認を受けていない
  5. 5. 相続登記を自分で行う場合の流れ
    1. 5-1. ステップ1:必要書類の準備
    2. 5-2. ステップ2:申請書の作成
    3. 5-3. ステップ3:法務局へ申請
    4. 5-4. ステップ4:登記識別情報通知(権利証)の受領
  6. 6. 相続登記を自分で行う場合の必要書類
  7. 7. 相続登記を自分で行う場合の費用 
    1. 7-1. 必要書類の取得費用
    2. 7-2. 登録免許税
  8. 8. 相続登記を司法書士に依頼すべきケース
    1. 8-1. 相続関係が複雑な場合
    2. 8-2. 相続した不動産が未登記だった場合
    3. 8-3. 急いで相続登記を完了したい場合
    4. 8-4. 遠方の不動産について相続登記手続きを行う場合
    5. 8-5. 相続人が忙しい場合
  9. 9. まとめ|相続登記は司法書士に相談を

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相続登記とは、被相続人(以下「亡くなった人」)が所有していた不動産の名義を相続人の名義へ変更することを言います。

不動産の所有者が誰なのかは法務局で管理されている登記簿(登記記録)に記録されていますが、所有者が亡くなったときに法務局が勝手に名義変更をしてくれるわけではありません。

その不動産を相続した人が、「相続を原因とする所有権移転登記」、いわゆる相続登記を申請する必要があるのです。たとえば、亡くなった父親名義の不動産を長男が相続した場合、長男はその不動産の所在地を管轄する法務局に対して相続登記を申請して父親名義から自分の名義に変更する必要があります。

現在、相続登記を申請するかどうかは相続人の任意とされていますが、令和6年4月1日からこれを義務化する法律が施行されます。施行後は、不動産を相続したことを知ったときから3年以内に相続登記を申請しなければならず、正当な理由なく期限内に登記をしなかった場合には10万円以下の過料が科せられることになります。

【関連】相続登記の申請義務化が決定 2024年までに施行される制度を解説

相続登記は、司法書士などの専門家に依頼せずに相続人本人が自分で行うこともできます。相続登記を自分で行う最大のメリットは、専門家に支払う報酬を節約できることです。

相続登記には、大きく分けて下記3つの費用がかかります。

①登録免許税
②戸籍謄本などの取得費用
③専門家へ支払う報酬

①登録免許税及び②戸籍謄本などの取得費用は、いわゆる実費に相当するもので専門家に依頼しても自分で行っても同じ金額がかかりますが、③専門家へ支払う報酬については自分で行えば生じない費用となります。どんなに手間がかかっても必要最小限の費用で相続登記をしたい場合、専門家へ支払う報酬を節約できるメリットは大きいでしょう。

なお、相続登記を業務として行える専門家は弁護士と司法書士のみです。相続登記を業務として取り扱っている弁護士は少ないので、相続登記と言えば司法書士に依頼するのが一般的です。司法書士への報酬は自由化されているため一概にいくらとは言えませんが、相続登記の報酬は5~15万円ぐらいが目安になるでしょう。

登記申請のみを依頼するのか、戸籍謄本取得や遺産分割協議書作成などの付随業務も依頼するのかによって報酬も変わってきます。

必要書類はすべて自分でそろえて登記申請のみを依頼することで報酬を低く抑えられることもありますので、どこまで依頼したら報酬がいくらになるのかしっかり確認することが重要です。

相続登記を自分で行うと費用を抑えることができますが、デメリットも少なくありません。

登記は不動産の権利関係を公示する重要な制度ですから、その内容を変更する手続きは法律で細かくルールが決められています。相続登記も例外ではなく必要書類から申請書の書き方までルールに沿って行う必要があり、決して簡単な手続きとは言えません。

戸籍謄本などの必要書類をそろえるのにいくつもの役所を周ることになりますし、法務局にも何度か足を運ぶことになります。インターネットなどでどんなに下調べしていたとしても、実際に必要書類を不足なく集めて、正確な申請書を作成するには相当な時間と労力が必要です。

「遠方の役所に戸籍謄本を取りに行ったら、さらに遠方へ転籍していて途方に暮れた」とか「自分で申請してみたが間違いが多すぎて申請をやり直すように言われてしまった」といった理由で、途中で挫折してしまうケースも少なくありません。

自分で相続登記を行ったときに起こりがちなのが「登記漏れ」です。登記漏れとは登記すべき物件を見逃してしまうことです。

たとえば、実家が一戸建ての場合には、建物とその敷地以外に道路後退(セットバック)部分や私道に持分を持っていることがあります。マンションの場合でも、所有している部屋(専有部分)以外に集会所やポンプ室などの共用部分に持分を持っていることが珍しくありません。

このような私道や共用部分の持分は、相続人はもちろん、亡くなった人自身も所有していることを忘れているケースが多いです。法務局は申請書に記載された物件について登記を行いますが、それ以外に亡くなった人名義の物件があるか調査してくれるわけではありません。物件の特定は申請人である相続人が行う必要があるため、亡くなった人が所有していた物件をしっかり把握していないと登記漏れが起こるのです。

私道などの共有持分に登記漏れがあったとしても日常生活で困ることはありませんが、売却や建て替えを行うときに登記漏れが問題になることがあります。契約を結ぶときに買主や業者から登記漏れを指摘されて、慌てて相続登記をやり直すことになります。ほかの相続人から協力が得られず相続登記ができない場合には、売却や建て替えができなくなる可能性もあります。

相続登記は自分で行うこともできますが、手続きは法律で細かくルールが決められています。進め方がわからない人は、司法書士に相談すると手間が省け、確実です。

登記漏れ以外にも相続登記を自分で行うときに見落としがちな注意点がたくさんあります。代表的な注意点をいくつかあげてみましょう。

相続登記には亡くなった人の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍謄本や改製原戸籍も含みます)が必要となります。転籍(本籍地を変えること)を繰り返していたり、結婚や離婚にともなって何度も本籍地が変わっていたりする場合には注意が必要です。必要な戸籍謄本がすべてそろっていないと相続登記はできません。

亡くなった人の登記簿上の住所と死亡時の住所が異なる場合には、住所の繋がりを証明する書類が必要となります。亡くなった人の住民票の除票に前住所として登記簿上の住所が記載されていれば良いですが、住所を転々としている場合には戸籍の除附票や改製原附票を取得しなければいけません。相続登記を申請する前に登記簿謄本(登記事項証明書)を取得して登記簿上の住所を確認してみましょう。

自筆証書遺言に基づいて相続登記を行う場合には、その前提として家庭裁判所で遺言の検認を受けなければなりません。検認とは、遺言書の内容を明確にして偽造変造を防止するために家庭裁判所において相続人の立ち会いのもとで遺言書を開封する手続きです。

検認を受けていない遺言書では登記ができませんので注意しましょう。なお、公正証書遺言と法務局における遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言の場合には検認は不要となります。

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相続登記を自分で行う場合の大まかな流れや必要書類は以下のとおりです。必要書類の取得費用や登録免許税についても簡単に解説します。

相続登記を行うまでには大きく4つのステップがあります。

相続登記には、申請書のほかにさまざまな添付書類が必要です。詳しくは後述しますが、戸籍謄本や住民票などを市役所や区役所で取得し、相続人間で分割協議をした場合には遺産分割協議書を作成する必要があります。

必要書類がすべて整ったら申請書を作成します。申請書の書き方は細かくルールが決まっており、必要な事項が過不足なく記載されている必要があります。申請書は提出時にチェックをしてもらえるわけではないので、不備があると後日修正を求められたり、申請自体がやり直しになったりすることもあります。

登記の申請方法には以下の3つがあります。

  1. 法務局へ出向いて申請書類一式を窓口で提出する方法(窓口申請)
  2. 申請書類一式を郵送で送付する方法(郵送申請)
  3. インターネットを利用して申請データを送信する方法(オンライン申請)

オンライン申請には電子署名や電子証明書が必要になるため、一般の方が相続登記を自分で行う場合には窓口申請か郵送申請の方法になるでしょう。

申請書や必要書類に不備がなければ、申請から1~2週間で登記が完了し、登記識別情報通知が交付されます。これが一般的に権利証と呼ばれる大切な書類です。登記識別情報通知を受領し、登記簿謄本(登記事項証明書)で名義が変わったことを確認すれば相続登記は完了となります。

相続登記には、大きく分けて①法定相続分による相続登記、②遺産分割による相続登記、③遺言による相続登記の3つがあります。どの相続登記を申請するかによって必要書類も変わります。3つの相続登記で一般的に必要となる書類は「相続登記の添付書類」の図表とおりです。

相続登記の添付書類
相続登記の添付書類の一覧。どの相続登記を申請するかによって必要書類も変わります

相続登記を自分で行う場合でも、次の2つの費用が必ずかかります。

相続登記では、戸籍謄本等の各種証明書を添付書類として提出する必要があります。これらの証明書は市役所や区役所で発行してもらえますが、発行手数料がかかります。相続登記で必要となる証明書とその発行手数料は下記のとおりです。

  •  戸籍謄本(戸籍全部事項証明書):1通につき450円
  • 除籍謄本(除籍全部事項証明書):1通につき750円
  • 改製原戸籍謄本:1通につき750円
  • 戸籍の附票の写し:1通につき300円
  • (除)住民票の写し:1通200~300円程度 ※
  • 印鑑証明書:1通200~300円程度 ※
  • 固定資産評価証明書:1通200~400円程度 ※

※は自治体により異なります

1通あたりの手数料は大きな金額ではありませんが、相続登記において必要な証明書は1通ではありません。配偶者と子が法定相続人になるような一般的な相続の場合でも5~10通程度になることが多いです。転籍(本籍地の変更すること)を繰り返している場合や兄弟姉妹が法定相続人になる場合にはさらに通数が増えます。代襲相続や数次相続の場合には、必要な戸籍が数十通にもなることもあります。

また、戸籍謄本は本籍地の市役所や区役所でしか取得できませんので、本籍地が遠方にある場合には、その役所までの交通費や郵送請求する場合の郵送費もかかります。

登録免許税とは、登記を申請するときに国に納める税金のことです。税額は土地や建物の固定資産税評価額に法律で定められた税率をかけて算出します。相続登記の税率は1000分の4と定められていますので、たとえば固定資産税評価額が1000万円の土地であれば4万円の登録免許税を納める必要があります。ただし、遺言によって相続人でない人が不動産を取得する場合には税率が1000分の20になるので注意が必要です。

また、相続登記を促進するために登録免許税の免税措置が定められており、一定の要件に該当する場合には登録免許税が非課税となります。詳細は法務局の「相続登記の登録免許税の免税措置について」のページを参照してください。

一言に相続登記と言っても、相続人の数や権利関係の複雑さによってその難易度は大きく変わります。以下のような場合には、司法書士に依頼するほうが安心です。

  • 相続関係が複雑な場合
  • 相続した不動産が未登記だった場合
  • 急いで相続登記を完了したい場合
  •  遠方の不動産について相続登記手続きを行う場合
  • 相続人が忙しい場合

亡くなった人が離婚と再婚を繰り返して異父(母)兄弟がいる場合や認知した子がいる場合、養子縁組や離縁をしている場合など相続関係が複雑な場合があります。兄弟姉妹が相続人になる場合で代襲相続(相続人が亡くなった人より前に死亡しており相続人の子が代わって相続人になること)が発生していると相続人の数も多くなります。

このような場合には戸籍謄本をしっかり読み込まないと法定相続人を間違えてしてしまう可能性があります。法定相続人の特定は、遺産分割協議や相続登記の前提として非常に大切なポイントです。相続関係が複雑な場合には戸籍謄本の取得から司法書士に任せたほうが良いでしょう。

今までは相続登記をするかどうかは任意だったため、長年にわたって相続登記がされていない不動産はたくさん存在します。たとえば、父親が亡くなって相続登記をしようと登記簿を確認したところ、何十年も前に他界した祖父の名義のままになっていたということも珍しくありません。この場合には、祖父から父、父から子という2つの相続登記を申請しなければなりません。

このようなケースは数次相続と呼ばれますが、父に兄弟姉妹がいる場合にはその兄弟姉妹(子からみると叔父や叔母)にも手続きに協力してもらう必要があります。登場人物が増えるぶん、必要な書類も増えますので自分で相続登記をするのはハードルが高いと言えます。

相続税の納税資金を工面するために相続した不動産を売却したり、不動産を担保に入れて銀行から融資を受けたりすることがあります。このような場合には、できるだけスムーズに相続登記を行う必要があります。

相続税は原則として故人が亡くなった日から10カ月以内に納税を行う必要があります。「買い手が見つかったけど、相続登記が終わっていないから契約ができない」「相続登記が完了しないと銀行が融資を実行してくれない」という事態が生じるかもしれません。売買や担保権設定を控えている場合には、相続登記の間違いや遅れが大きな影響を及ぼしますので、司法書士に依頼したほうが安心でしょう。

相続登記は、不動産の所在地を管轄する法務局に申請しなければなりません。たとえば、札幌市にある実家の相続登記を東京に暮らしている相続人が申請する場合、東京法務局ではなく札幌法務局に申請する必要があるのです。

登記申請は前述のとおりオンラインでも申請することができますが、一般の方は申請書を法務局に直接持ち込むか郵送することが多いです。必要書類も申請書も一回で完璧に整えられることは少ないので、法務局とは何度かやり取りをすることになるでしょう。

直接出向くにしても郵送でやり取りをするにしても法務局が遠方にある場合には負担が大きいです。ほとんどの司法書士はオンライン申請に対応しているため全国どこの物件でも相続登記を行うことができます。まずは自宅や職場の最寄りの司法書士に相談してみましょう。

法務局の開庁時間は平日8時30分から17時15分までです。戸籍謄本などを取得する市役所や区役所も同様です。印鑑証明書など一部の書類はコンビニエンスストアで取得することもできますが、除籍謄本や改製原戸籍など市役所や区役所でないと取得できない書類のほうが多いです。

また、遺産分割協議書など相続人全員から署名や捺印をもらわなければならない書類もあります。ある程度時間に余裕がないと必要書類の準備から申請までを短期間で完結するのは難しいでしょう。

前述したように令和6年4月1日から相続登記は義務化されます。忙しいからといって放置してしまうと過料を科せられる可能性もあります。そのため、無理に自分でやろうと思わず最初から司法書士に依頼したほうが良いかもしれません。

相続登記を自分で行うことは、費用を節約できるというメリットがありますが、それ以上にデメリットや注意点があります。

大切な親族を失って精神的にもストレスを抱えている状況で、慣れない登記手続きを自分で行うのはかなりの負担です。手続きに自信がない場合はもちろんのこと、忙しくて時間がない場合、できるだけ早く相続登記をしたい場合は司法書士への依頼を検討してみてください。

(記事は2023年4月1日時点の情報に基づいています)

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