目次

  1. 1. みなし贈与とは 贈与との違い
  2. 2. みなし贈与とされるケースとは
    1. 2-1. 父が長男に自宅(時価7500万円)を4000万円で売却した場合
    2. 2-2. 長男は父から200万円の借金したが返済を免除してもらった場合
    3. 2-3. 奨学金を返済中の長男に代わって父が200万円の債務を代わりした場合
    4. 2-4. 父(保険契約者)が保険料を支払う保険が満期になり、長男が満期保険金500万円を受け取った場合
    5. 2-5. 自宅(父と長男で1/2ずつ共有名義)を5000万円で購入したが、父が4000万円、長男が1000万円を負担した場合
    6. 2-6. 父名義の自宅を長男名義に変更した場合
    7. 2-7. 離婚により財産分与を受ける場合
  3. 3. 贈与とみなされると高い税率がかかる
  4. 4. みなし贈与とされないために贈与をうまく活用するには
    1. 4-1. 暦年課税による110万円の基礎控除
    2. 4-2. 相続時精算課税による2500万円の特別控除
    3. 4-3. 住宅取得等資金の贈与の非課税
    4. 4-4. 贈与税の配偶者控除の非課税
    5. 4-5. 生活費や教育費の贈与の非課税
    6. 4-6. 教育資金の一括贈与の非課税
    7. 4-7. 結婚・子育て資金贈与の非課税
    8. 4-8. 特定障害者に対する贈与税の非課税
  5. 5. まとめ 財産を移動させる前に相談を

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贈与とは、財産を渡す側の「あげます」という意思と、受け取る側の「もらいます」という双方の合意に基づき、相手に無償で財産をあげることをいいます。1年間にもらった財産の合計額が110万円を超える場合には贈与税(暦年贈与の場合)が課税されます。ただし、双方に贈与の認識がなかった場合でも、借入れを免除してもらったり、著しく安い価額で財産を売買したりするなど相手から利益を受けた場合は、実質的に贈与を受けたものとみなして贈与税を課税するという税法独自の規定があります。

私たちの日常生活の中でも「みなし贈与」になる可能性は多くあります。今回はどのような場合に「みなし贈与」になるのか事例をもとに解説していきます。

普段、家族の間で何げなくお金のやりとりしているケースでみなし贈与とされる事例を紹介します。

父は無償で長男に自宅をあげているわけではないので、贈与とは異なります。しかし、本来7500万円で売却する自宅を4000万円と著しく低い価額で売却していますので、その差額の3500万円について利益をうけたものとみなして贈与税が生じます。
ここで「著しく低い価額」について、どのくらいが著しく低い価額なのかということですが画一的な定義はありません。目安として時価の約80%以上の価額であれば「著しく低い価額」にならないとされていますが、時価よりも安く売却をしようと考えている方は、事前に専門家に相談することをお勧めします。

長男は父から財産をもらっていませんが、借金を免除してもらうことで長男は借金分の利益を受けたことになりますので、200万円のみなし贈与になります。

父は長男の奨学金200万円を肩代わりすると、長男は200万円分の利益を受けたことになりますので、200万円のみなし贈与が生じます。
後述しますが、親などから教育資金の贈与を受けた場合は非課税になる制度があります。もし、奨学金ではなく教育資金の贈与が可能であれば、奨学金の肩代わりによるみなし贈与が発生することはありませんので、奨学金を受ける前に教育資金の贈与を検討してみることをお勧めします。

長男は父の契約により自動的に満期保険金を受け取っていますので、双方の合意に基づいた契約をしていませんが、父が支払った保険料で長男が保険金をもらっている(利益を受けている)ため、長男は保険金500万円のみなし贈与が生じます。似たようなケースとして、父が支払った保険料を長男が個人年金で受け取るケースも同様にみなし贈与が生じます。

父と長男が1/2ずつ共有名義で自宅を購入した場合、負担額は各2500万円にする必要がありますが、長男は1000万円しか負担していませんので、その差額の1500万円について利益を受けたものとみなして贈与税が生じます。

長男が父名義の不動産を無償で取得している(利益を受けている)ため、長男は自宅の評価額分のみなし贈与が生じます。また、不動産の名義についてよくある事例で、長男が父名義の建物の増改築費用を出して増改築工事を行った場合、その増改築部分は父の所有に帰属してしまうため、父が増改築費用を支払っていなければ父にみなし贈与が生じてしまうケースがあります。

離婚の際、婚姻期間中に夫婦で協力して築いた財産を分け合う財産分与の手続きをするケースがよくあります。通常、財産分与によってもらった財産は贈与税になりませんが、その財産分与によってもらった財産がいろいろな事情を考慮しても多すぎる場合や、その離婚自体が相続税や贈与税を免れるために行われたと認められる場合には、みなし贈与になる可能性があります。
財産分与の手続きを行う場合は弁護士に相談するケースが多いですが、財産分与の内容によってはみなし贈与になる可能性もあるため、税理士にも相談することをお勧めします。

日常生活で起こりそうなみなし贈与について解説しましたが、利益を受けた人が資力を喪失しているなど一定の条件を満たしている場合にはみなし贈与にならないケースもあります。該当しそうであれば早めに専門家に相談してみてください。

贈与税は暦年課税と相続時精算課税の2種類の課税方法がありますが、今回は暦年課税を前提に解説します。相続時精算課税については、相続時精算課税制度の注意点 3つのメリットと7つのデメリットをご覧ください。
みなし贈与が生じた場合は贈与税を支払うことになりますが、贈与税の税率は最大55%であるため、数千万円のみなし贈与が生じた場合には、多額の贈与税を支払わなければなりません。また、みなし贈与に気づかないまま贈与税の申告期限が過ぎてしまった場合、本来の贈与税の他に延滞税等の税金まで支払わなければならないので、申告期限に注意が必要です。

事例から贈与税を計算の仕方を紹介します。税率については、父母や祖父母による18歳以上の子や孫への贈与には「特例税率」、その他の贈与には「一般税率」が設けられています。

(事例)父は自宅(時価7500万円)を長男(40歳)に4000万円で売却した場合を考えます。
●贈与税の計算式
納付すべき贈与税=(贈与財産の課税価格-基礎控除(110万円))×速算表の税率-速算表の控除額
7500万円-4000万円=3500万円(贈与財産の課税価格)
(3500万円-110万円)×50%-415万円=1280万円

みなし贈与が課税されると、想像以上に高い贈与税を支払わなければならないこともあるため、うっかり贈与にならないように特に大きな財産を動かすときは専門家に相談するなどしましょう。

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みなし贈与にならないためには事前に専門家に相談することも重要ですが、贈与税がかからない制度を知って上手に活用することも重要です。贈与税がかからない制度はいくつかありますが、ここでは8つの制度について概略を取り上げます。制度を知り計画的に活用しましょう。
贈与税の控除と非課税の違いは? 税金がかからず生前贈与できる八つの制度

暦年課税による贈与の場合、もらった財産の合計が年間110万円まで贈与税がかかりません。

相続時精算課税による贈与を選択した場合、18歳以上の人が60歳以上の親や祖父母からもらった財産は合計2500万円まで贈与税がかかりません。

親や祖父母からマイホームの購入資金やマイホームのリフォーム資金の贈与を受けた場合、一定額まで贈与税がかかりません。

婚姻期間が20年以上の夫婦間でマイホームの贈与やマイホームの購入資金の贈与を受けた場合は、最大2000万円まで贈与税がかかりません。

親などから扶養する家族に日常生活に必要な生活費や教育費をわたす場合、贈与税がかかりません。

親や祖父母から教育資金の一括贈与を受けた場合は、贈与をうけた人が30歳に達するまでに支払った教育資金は最大1500万円まで贈与税がかかりません。

18歳以上50歳未満の人が親や祖父母から結婚費用・子育て費用にあてるために一定の手続きによりもらった贈与は、最大1000万円まで贈与税がかかりません。

特定障害者(特別障害者又は特別障害者以外で精神または身体に障害のある人)が一定の手続きによりもらった贈与は6000万円(特定障害者のうち特別障害者以外の人が受けた贈与は3000万円)まで贈与税がかかりません。

今回はみなし贈与を中心に解説しましたが、実務ではみなし贈与になる行為を行った後に専門家に相談し、多額の贈与税を支払わなければならないケースが多くなっています。贈与税を上手に活用できれば税金対策にも使えますが、贈与について知らないと高い税金を課される可能性もありますので、不動産や多額の財産を移動させるときは、事前に税理士といった専門家に相談することをお勧めします。

(記事は2022年9月1日現在の情報に基づきます)

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