目次

  1. 1. 「おしどり贈与」とは?
  2. 2. 贈与税の配偶者控除の要件
  3. 3. 「おしどり贈与」のメリット
  4. 4. 「おしどり贈与」の手続き
  5. 5. 「おしどり贈与」のデメリット
  6. 6. 相続税の配偶者控除(配偶者の税額軽減)とは?

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「おしどり贈与」とも呼ばれる「贈与税の配偶者控除」とは、婚姻期間20年以上の夫婦間に認められている贈与税の優遇制度です。「居住用不動産(いわゆるマイホーム)そのもの」か、「居住用不動産を買うためのお金」を夫婦間で贈与する場合は、2,000万円までなら贈与税はかけないという制度です。贈与税には、年間110万円という基礎控除がありますので、同じ年にほかに贈与を受けていないのであれば、合計で2,110万円まで贈与税はかからないということになります。

ではなぜ、婚姻期間20年以上の夫婦にはこのような優遇が認められているのでしょうか。

そもそも、どんなに仲のいい夫婦でも親子でも、お金や不動産(土地・建物)などの財産のやり取りをすると贈与になります。年間110万円を超える財産をもらった人は、翌年3月15日までに確定申告をして贈与税を納めなければなりません。でも、夫が妻に渡す生活費や、親が子のために支払う教育費などにも贈与税がかかると言われたら、ビックリしますよね? なので、常識的な範囲内での生活費などのやり取りには、贈与税はかからないのが通常です。

結婚20年以上の夫婦に対する優遇も、これに近い話です。一般的な世帯では、一生のうちで最も高い買い物とも言えるのがマイホーム。そのマイホームの購入に、夫婦の協力は不可欠でしょう。マイホーム(土地建物)の名義は夫だったとしても、妻もそれなりに貢献しているはずです。そんな妻に対して、夫が生前に自宅を贈与して、自分の死後も妻が安心して住み続けられるようにしたいと思ったとします。そのときに多額の贈与税がかかるとしたら、これまたビックリしますよね?なので、一定の範囲で贈与税を優遇しようということで作られた制度なのです。

贈与税の配偶者控除を活用する際の要件は、以下の3点です。

  1. 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと
  2. 配偶者から贈与された財産が、居住用不動産であること又は居住用不動産を取得するための金銭であること
  3. 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した居住用不動産又は贈与を受けた金銭で取得した居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること

(注)
1「居住用不動産」とは、専ら居住の用に供する土地若しくは土地の上に存する権利又は家屋で国内にあるものをいいます。
2 配偶者控除は同じ配偶者からの贈与については一生に一度しか適用を受けることができません。

参考:国税庁

ちなみに、婚姻期間20年以上というのは、法律上の婚姻関係である必要があります。婚姻届を出してから20年以上である夫婦間で、マイホームそのもの、もしくは、マイホームを買うためのお金を贈与した場合は、基礎控除も合わせて2,110万円までは贈与税がかからないというわけです。

おしどり贈与(贈与税の配偶者控除)の最大のメリットは、やはり合計2,110万円まで贈与税がかからないということでしょう。

贈与税は、最も負担が重い税だと言われています。仮に、夫から妻へ普通に2,110万円を贈与したとすると、基礎控除110万円を差し引いた2,000万円に対して贈与税がかかることになります。

この場合の贈与税額は、なんと750万円!
2,110万円-750万円=1,360万円しか手元に残らない計算になります。

ちなみに、父母または祖父母から18歳以上の子または孫への贈与の場合(特例贈与財産に該当する場合)は、少し税負担が軽くなりますが、それでも2,110万円を贈与した場合の贈与税額は635万円にもなります。夫婦間で750万円もの贈与税となる贈与が非課税で行えるわけですから、おしどり贈与の税負担軽減のメリットは大きいでしょう。

具体的な利用方法としては、例えば、結婚20年の記念に、夫名義のマイホーム(土地建物)の持ち分を2,110万円相当分だけ妻に贈与するとか、土地部分だけを贈与するとか、建物部分だけを贈与するなどといった方法が考えられます。

将来、夫が亡くなった際には、すでに妻名義になっているマイホームの全部または一部は、夫の相続財産にはならないので、遺産分割の対象にもなりませんし、相続税もかかりません。相続対策としてもメリットがあるわけです。

そのほか、細かなメリットではありますが、相続開始前3年以内の贈与財産の相続財産への加算の対象外となっている点が挙げられます。通常は、相続開始前3年以内に行われた贈与については、相続財産に加えて相続税の対象とする決まりがあります。それが、おしどり贈与の場合は、相続開始前3年以内であっても、相続財産に加えなくてよいのです。

それから、もう一つ細かなメリットですが、おしどり贈与を行ってマイホームの持ち分の一部を妻に贈与しておくことで、将来、マイホームを売却したときに、夫婦のそれぞれが「居住用財産の3,000万円特別控除」を利用できるようになります。

この制度は、マイホームを売って利益が出る場合に、その利益から3,000万円を差し引いてくれる制度です。つまり、マイホームを売って利益が出ても、3,000万円までは税金がかからないということです。これを夫婦それぞれで利用できると、合計6,000万円を超える利益が出ない限り、税金はかからないことになります。いまどき、マイホームを売って利益が出る人は、そんなにはいないと思いますので、メリットと言えるかどうかは微妙ですが、おしどり贈与によってマイホームを共有にしておくことで、そのような効果もあるということです。

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次の書類を添付して、贈与税の申告をすることが必要です。

  1. 財産の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍謄本又は抄本
  2. 財産の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍の附票の写し
  3. 居住用不動産の登記事項証明書その他の書類で贈与を受けた人がその居住用不動産を取得したことを証するもの

金銭ではなく居住用不動産の贈与を受けた場合は、上記の書類のほかに、その居住用不動産を評価するための書類(固定資産評価証明書など)が必要となります。(参考:国税庁)

贈与税の申告期限は、原則、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までとなります。

大きなデメリットは、マイホームを贈与してもらった妻に対して、不動産取得税(地方税)や登録免許税(国税)がかかるということです。不動産取得税は、相続の場合はかからないのですが、贈与の場合はかかります。令和6年3月31日までに取得した不動産の場合、土地も住宅も、固定資産税評価額の3%の税率で課されます。ただし、一定要件を満たす土地や住宅の場合、軽減措置が受けられます。

名義変更などの登記の際にかかる登録免許税も、相続の場合は固定資産税評価額の0.4%ですが、贈与の場合は固定資産税評価額の2%の負担となります。登記の際に司法書士などに手続きを依頼した場合は、司法書士報酬などもかかってきます。

したがって、固定資産税評価額にもよりますが、不動産取得税と登録免許税、その他、手続き費用などで合計100万円前後の負担が必要になるケースもあります。さらに、マイホームの一部を取得した妻に対しては、その後、毎年、固定資産税や都市計画税の請求が来ることになります。

それから、もう一つのデメリットとしては、贈与してもらった妻が夫より先に死んでしまうと、贈与した意味がなくなってしまいます。せっかくマイホームの一部または全部を贈与して妻名義に変えても、妻が先に死んでしまうと、夫が相続をして、また夫名義に戻すことになってしまうからです(この場合、妻の持ち分を子どもが相続するのであれば、問題はありません)。

次に、相続税の配偶者控除(配偶者の税額軽減)を取り上げます。この制度は、配偶者の相続税負担を大きく引き下げてくれます。配偶者は、「法定相続分相当額」か「1億6,000万円」のどちらか多いほうの金額までの相続であれば、相続税はかかりません。

例えば、夫が100億円の財産を残して死んだとき、法定相続人が妻と2人の子どもだった場合、法定相続分は妻が2分の1、2人の子どもはそれぞれ4分の1ずつとなります。
したがって、妻は夫の遺産100億円の2分の1である50億円以内の相続あれば、相続税はかからないのです。

また、夫の財産が2億円だった場合は、2分の1である1億円を超えても、1億6,000万円以内の相続なら、妻には相続税はかからないということです。

それから、マイホームの土地部分については、「小規模宅地等の特例」がある関係で、330㎡までの部分については評価額を80%減額してもらえる制度があります。妻がマイホームにそのまま住み続ける場合は、相続財産としての評価額も大きく下げてもらえるわけです。

そう考えると、一般的な世帯で、夫が亡くなったときの相続財産が高額にならない妻は、相続税を心配する必要はないですし、高額な相続財産だったとしても法定相続分の範囲内の相続に抑えておけば、相続税はかからないわけです。

ただし、配偶者の税額軽減によって妻に対して相続税がかからなくても、将来、妻が亡くなったとき(二次相続)に、子どもたちの相続税負担が重くなってしまう可能性が考えられます。やはり、相続財産が高額になりそうな人は、おしどり贈与や子どもたちへの贈与(相続時精算課税制度の利用など)も含めて、早くから有効な方法を探っていくのがベターでしょう。個々の事情によって有利不利が変わってきますので、詳しくは税理士といった専門家に相談するようにしてください。

(記事は2022年9月1日現在の情報に基づきます)

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