目次

  1. 1. 判断能力によって三つの種類がある成年後見
  2. 2. 成年後見のデメリット 生涯にわたって報酬を払い続ける 
  3. 3. 財産管理の自由度が高い家族信託
  4. 4. 成年後見と家族信託を使い分ける方法
    1. 4-1. 任意後見と家族信託を併用を検討する
    2. 4-2. 親の介護や医療が心配……任意後見を選択する
    3. 4-3. 親の財産管理が必要……家族信託を選ぶ
  5. 5. まとめ 状況に合った方法で、安心の備えを

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判断能力が低下した人を支援するための法定後見制度は「成年後見」「保佐」「補助」の三種類があり、本人の判断能力の低下具合によって三つのうちどの制度を利用するかが決まります。

判断能力の低下が最も著しいなら「成年後見」、成年後見ほどでもないなら「保佐」、判断能力の低下が最も軽微なら「補助」です。この判断は、医師がおこないます。

その中でも成年後見制度は、家庭裁判所が選んだ成年後見人に、判断能力が著しく低下した「被後見人」の財産管理、契約行為、身上監護を任せる制度です。利用するには家庭裁判所への申立てを要します。

被後見人の家族も成年後見人になれますが、家族に多額の借金があったり、被後見人の財産が高額だったりする場合は弁護士や司法書士などの専門家が成年後見人に選ばれやすいです。

成年後見人の役目は、判断能力が低下した被後見人のために財産を維持、管理し、法律行為を代行し、生活をサポートすることです。
そして成年後見制度は、財産の「維持と管理」に権限が限られています。投資は財産が減るリスクがあり「維持と管理」から外れるため、財産を積極的に投資して、増やそうとする行為などは認められません。

投資とまではいかずとも、たとえば、被後見人の所有する収益用マンションの老朽化で減った入居者を増やすためのリフォーム工事であっても、正当な理由と認められない場合があります。なぜなら目的がどうであれ、財産を目減りさせる行為には変わりないからです。

また被後見人が居住する不動産を売却したいケースでも、成年後見人は勝手に売買契約を締結できません。被後見人の居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要なうえに、その許可も「どうしても不動産を売却しなければならない理由」がなければ下りないからです

このように、成年後見人はさまざまな制限を受けているため、財産管理や運用、処分の面では家族信託のほうが自由度が高いと言えます。しかし、家族信託の受託者に認められていない「身上監護」の権利が、成年後見人に認められている点は無視できません。
成年後見制度と家族信託それぞれのメリットとデメリットを比較したうえで、必要な方法を選ぶのが良いでしょう。

家族信託と後見制度の違い

成年後見制度のデメリットの中でも、財産管理の不自由さ以外の問題点を簡単に説明します。

その問題点とは「成年後見をやめるタイミングを選べない」ことです。成年後見は、一度開始すると被後見人が死亡するか症状が完治するまで続きます。被後見人の資産内容によっては、被後見人の生涯にわたって成年後見人や成年後見監督人への報酬を払い続けなければならないのです。

成年後見人への報酬は、ひと月2~6万円ですが、長い目で見れば大きな負担になることは間違いありません。

家族信託は比較的新しい財産管理、承継方法です。成年後見や任意後見に比べると財産管理や処分、承継の自由度が高いため、多くの人の多様な悩みを解決できる手法として注目を集めています。

家族信託なら、遺言では不可能な「自分が死んだ後の財産の行方や管理方法」まで指定できます。また、あらかじめ家族信託を契約しておくことで、認知症になった人の財産が塩漬けになるのを防いだり、生前贈与に代わる手法として用いたりも可能です。方法によっては、もしものときの生活費をキープしておくことも可能です。

できることの範囲が広い家族信託ですが、成年後見制度とは違って受託者に「身上監護権」が原則認められていないため、注意が必要です。
また、信託の効果は永遠に続くわけではありません。その点も踏まえて信託契約の内容を考えましょう。

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ここからは、成年後見制度と家族信託の使い分けについてパターン別に説明します。

親が健康で認知症などで判断能力が低下していない段階であれば、任意後見と家族信託の併用がおすすめです。併用することで家族信託により財産管理、処分面の備えを万全にしつつ、任意後見の「身上監護権」で生活のサポート面もカバーできるからです。

成年後見制度は、認知症になってから利用する制度のため、判断能力があるうちは検討する必要はないでしょう。成年後見制度では財産の処分に制限がかかってしまうため、財産管理の柔軟性を求めるなら、認知症にならないうちに家族信託契約を結んでおきたいところです。

財産管理の重要性が低い場合で、将来的な親の介護や医療に不安があるなら、任意後見がおすすめといえます。任意後見は成年後見と違って介護や医療の方向性を親自身が決められますし、任意後見を任せたい人をあらかじめ選べるので安心感も大きいからです。

生活のサポートよりも、財産管理や財産の承継について対策をしたいなら、家族信託の利用をおすすめします。家族信託なら、財産を託す「委託者」と託される「受託者」や家族間の話し合いにより財産管理や処分の方法を決められるため、将来的な希望や不安について、柔軟に対応することが可能です。

家族信託か成年後見か、それとも任意後見を選ぶべきかは、その人が置かれた状況によって異なります。まずは家族の将来を見据え、親の生活のサポートを重視するのか、財産管理を優先するのかを判断しましょう。

優先順位の高いものを整理したうえで利用する制度を決めておけば、過分に悩むことなく、将来に備えることができるでしょう。専門家の司法書士に相談すれば、状況を見定めたアドバイスを得られるはずです。

(記事は2020年5月1日現在の情報に基づきます)

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