目次

  1. 1. 親が認知症になると銀行口座は凍結されてしまう
    1. 1-1. 資産を守るために銀行口座は凍結される
    2. 1-2. 銀行口座が凍結されるタイミングはいつなのか
    3. 1-3. 医療費や介護費などに限り親族がお金を引き出せる
  2. 2. 親が認知症になったら、成年後見人をつけて財産管理する
    1. 2-1. 成年後見制度利用のメリットとデメリット
  3. 3. 認知症になる前の口座凍結対策
    1. 3-1. キャッシュカードと暗証番号を聞いておく
    2. 3-2. 代理人カードや代理人予約サービスを利用する
    3. 3-3. 任意後見契約を締結する
    4. 3-4. 家族信託契約を取り交わす
  4. 4. 家族信託の5つのメリット
    1. 4-1. 受託者を家族や親族の中から選ぶことができる
    2. 4-2. 遺言と同じように財産を子どもに引き継ぐことができる
    3. 4-3. 成年後見制度よりも柔軟な対応が可能
    4. 4-4. リスクのある不動産の共有を避けることができる
    5. 4-5. 相続による遺族の負担を軽減することができる
  5. 5. 家族信託の契約の流れ
    1. 5-1. 親子で家族信託契約の内容を作り込む
    2. 5-2. 家族信託契約書を公正証書で作成する
    3. 5-3. 銀行で子ども名義の信託口座を作成する
  6. 6. まとめ|認知症による口座凍結の事前対策は家族信託がお勧め

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金融機関が口座を凍結するのは、なぜでしょうか? 大きく3つの理由が考えられます。

1つ目は、銀行口座からお金を引き出す際に、その人の意思が必要なためです。重い認知症になって判断能力が欠けると、意思表示が確認できません。

2つ目は、銀行取引の安定のためです。認知症の人がお金を引き出して、引き出したことを忘れてしまう。そして銀行窓口に来て、「私のお金がなくなっている。盗まれたのではないか」と相談が入る。このような場合にトラブルにつながる可能性があるため、銀行側も安心をして取引をすることができず、口座の凍結につながります。

3つ目は、家族の争いに巻き込まれることを防ぐためです。実は相続後のトラブルで多いのは、介護費用のことだと言われています。

子どもの一人が親の介護のために親のお金を管理している場合に、相続発生後、ほかの相続人が残高を見て、その用途が証明できないことなどから、使い込みを疑われトラブルに発展するようです。そのときに出金対応した銀行側もトラブルに巻き込まれる可能性があります。それを防ぐことも、凍結をする一つの理由と考えられています。

銀行口座の凍結につながるケースとしては、以下の3例が挙げられます。

  • 子どもや配偶者が銀行窓口で、本人が重い認知症であることを告げてしまう。
  • 本人のキャッシュカードを使って代わりにおろしていたところ磁気不良が起こり、窓口での対応が必要になる。
  • ATMでまとまった金額を一度におろす、連日に数十万程の預金をおろすなどすると、「オレオレ詐欺」などの疑いからATMで出金できず、窓口対応を求められる。

正直なところ、上記のような例も含め、凍結を完全に防ぐのは難しいのが実情です。

窓口での手続きが必要になり、本人に判断能力がないと判断され凍結されるほか、特殊詐欺を防ぐ目的でATMからイレギュラーな取引がされると自動で凍結されることもあるようです。

銀行としては、本人への意思確認がしっかりとできれば、凍結を解除し、通常の取引に戻せますが、万が一、本人の判断能力に問題がある場合には、成年後見制度の利用を求めてきます。成年後見制度は、認知症などで判断能力が不十分な人を法的に支援する制度です。

2021年(令和3年)2月18日の全国銀行協会の発表で、認知機能が低下した顧客の預金を引き出す際、法的な代理権がない親族らの引き出しも認める「考え方」を示しました。

預金者本人との関係性のわかる書類や入院・介護施設費用の請求書などお金が必要な理由がわかる書類を持参して、本人以外の手続きで預金が引き出せるというものです。

しかし、「原則として預金者本人の意思確認が必要」という方針に変更はなく、「本人以外が継続的に預金のお引出しを希望される場合は、成年後見制度」の利用を勧めています。

そのため、医療費や介護費などであっても家族が必ず引き出せるとは限りません。

成年後見制度は、認知症などで判断能力が低下した本人の代わりに財産の管理や契約手続きを行う代理人を選任し、本人の財産を守る制度です。代理人のことを後見人等と呼び、選任は家庭裁判所が行います。

成年後見制度のメリットの一つは、銀行口座の凍結が解除されることです。本人に代わって後見人が銀行預金を引き出し、本人の生活費や医療費、施設費用などを支払っていくことができます。

後見人には、年に1度、家庭裁判所へ財産状況を報告する義務があり、家庭裁判所の監視機能も働きます。また、本人がだまされて締結した契約などを取り消す権限も後見人は持っています。

一方で、デメリットもあります。

必ずしも家族が選任されるわけではありません。令和4年の調査では、成年後見人等と本人との関係は、全体の約80.9%が親族以外となっており、親族が後見人になっているケースは全体の約19.1%にとどまっています。専門職後見人として司法書士や弁護士、社会福祉士などの専門家が選ばれている割合が多いようです。
詳しくは最高裁判所事務総局家庭局による「成年後見関係事件の概況 ―令和4年1月~12月―」をご確認ください。

ただし、預金口座の凍結の解除が目的で成年後見制度を利用し、その目的が解決したとしても、後見制度は途中でほぼやめられない仕組みになっています。原則として本人が亡くなるまで続きます。不満があったり、相性が合わなかったりしても、専門職後見人を交代させることは難しいのが現状です。

後見人が就いている間は、本人の通帳や印鑑などは後見人が管理します。また、後見人には通帳の残高などを家族に報告する義務はありません。そして、最低24万円の年間報酬(本人の財産額により変動する)がかかり続け、全額本人の財産から払っていくことになります。

このように、成年後見制度には使いづらい側面があることから、積極的に活用したい人が増えていないのが現状です。

もしも成年後見制度の利用を回避したい場合には、本人が元気な間に対策をしておく必要があります。

親子の間で、キャッシュカードと暗証番号を共有することで、親の同意のもと、子どもが親の銀行口座からお金を引き出すことができます。

一方で、キャッシュカードの磁気不良や、オレオレ詐欺など防ぐためのATM操作の停止が生じた場合には、窓口での対応が必要になり、本人確認や本人の意思確認が求められます。また、親の承諾なく、預金を子どもがおろしている場合には、刑事罰に問われる可能性もゼロではありません。

加えて、一人の相続人がお金の引き出しをしていると、後々遺産分割でもめる可能性も残ります。

銀行によっては代理人カードという方法もあります。代理人カードは家族内で同じ口座を共有し、あらかじめ届け出た代理人もキャッシュカードを持つことで、利便性を高めるサービスです。

代理人カードの発行は、本人が手続きをすることが必要です。代理人の持つキャッシュカードによって、本人口座から引き出すことが可能です。

注意点は、認知症対策のサービスではないため、本人の認知症が悪化した場合などは使用できなくなる可能性があることです。また、銀行ごとに取り扱いが異なり、「生計をともにする親族」でないと作ることができないとする銀行もあります。

近年、代理人予約サービスを提供する銀行も出てきました。認知症が悪化し、本人による手続きが難しくなる場合に備え、将来、本人の代わりに取引が可能な代理人をあらかじめ指定できるサービスです。

ただし、すべての銀行で提供しているサービスではないので、親名義の口座がある銀行に確認が必要です。

あらかじめ子どもを後見人に指定する対策もあります。任意後見契約です。

親と、任せたい子どもとで任意後見契約を締結します。将来、親が重い認知症になり、契約や財産管理が難しくなった場合には、子どもが優先的に後見人に選ばれる仕組みです。後見人となった子どもは、親の代理人として銀行預金の手続きをすることができます。

注意点として、任意後見契約は公証役場で締結する必要があります。また、任意後見契約をスタートし後見人になるためには、後見監督人を必ずつけなくてはいけません。

後見監督人は、後見人となった子どもをサポートする役割や、子どもが親のお金を使い込まないよう監視する役割があります。誰を後見監督人とするかは家庭裁判所が選任し、弁護士や司法書士などの専門家がなります。

そして、後見監督人となった専門家にも報酬が発生します。後見人に専門家がなった場合の半分が報酬の目安となっており、最低12万円からの年間報酬(本人の財産額により変動する)がかかります。本人が亡くなるまで、全額本人の財産から払っていくことになります。

家族信託契約を、親子で締結しておくことで、子どもが親の金銭を代わりに管理をし、親の認知症などの影響を受けずに、親の介護費などのために使うことができます。

家族信託の基本的な登場人物は、以下のとおり「委託者」「受託者」「受益者」の3者です。

  • 「委託者」:財産のはじめの所有者で信託する人
  • 「受託者」:財産の管理運用処分を任される人
  • 「受益者」:財産権を持ち、財産から利益を受ける人
家族信託のよくある事例を図解。親が「委託者兼受益者」、子どもが「受託者」となるパターンが多いようです
家族信託のよくある事例を図解。親が「委託者兼受益者」、子どもが「受託者」となるパターンが多いようです

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家族信託には次のように5つのメリットがあります。

  • 受託者を家族や親族の中から選ぶことができる
  • 遺言と同じように財産を子どもに引き継ぐことができる
  • 成年後見制度よりも柔軟な対応が可能
  • リスクのある不動産の共有を避けることができる
  • 相続による遺族の負担を軽減することができる

それぞれのメリットについて、ポイントを解説していきます。

財産の管理を任せる受託者は、自分で選ぶことができます。

通常は、配偶者、子ども、兄妹姉妹、甥姪が受託者になります。ただし、「家族」信託とは呼ばれながらも、「親族関係がなくても信頼できる人」がいれば、受託者になることはできます。

また、家族信託契約を本人と受託者との間で締結するだけでなく、受託者名義の口座に、対象の金銭を送金することが必要です。

家族信託契約の効果として、将来の相続対策もできるメリットがあります。

親が「縁起が悪い」などの理由で遺言に抵抗を示す場合でも、家族信託契約に定めることで相続で財産を渡す人を決めることができます。将来、相続人間の遺産分割協議でもめることを防ぎ、家族の平和を守ることにつながります。

成年後見制度と異なり、家庭裁判所の関与が入りません。専門家の監督人をつける必要もなく、家族だけで管理ができるので、柔軟な対応ができます。

また、守りたい財産が金銭だけではなく不動産もある場合には、家族信託は大きな力になります。

親の財産に不動産がある場合に、相続が発生したあとの遺産分割協議がまとまらないと、不動産を共有で相続することになります。共有状態となった不動産は、共有者全員の合意がないと売ったり貸したりすることができません。

たとえば、親の自宅を共有で相続した場合、ある相続人は「空き家の維持費がかかるから早く売却したい」と思っていても、ほかの相続人が「将来値上がりする可能性があるから売却したくない」と意見が対立する場合には、自宅不動産を売却することは難しくなります。自身の持分だけを売却することは可能ですが、全体で売却するよりも価格は下がってしまいがちです。

しかし、家族信託をしておけば、相続する人を定めておくことができ、遺産分割協議が必要ありません。これにより、リスクのある不動産の共有を避けることができます。

近年増加している問題として、父親の相続時に母親の認知症が悪化しているというケースがあります。

母親が重い認知症で後見人もいない場合、父親の相続で遺産分割協議ができず、父親の相続財産が凍結され動かせなくなってしまいます。母親の介護費用のために使うこともできません。介護をする子どもにはさらなる重い負担がのしかかります。

しかし、家族信託をしておくことで父親の相続後は母親のためにも財産を使える仕組みを作ることができます。さらには、母親が遺産を承継する税務メリットもあります。

ここでは、家族信託の契約の流れを簡潔に紹介します。

親子で家族信託契約に盛り込む内容を決める必要があります。

家族信託契約は、5年、10年と続いていく契約です。完璧なひな型は存在せず、ご家族ごとにカスタマイズしていく必要があります。専門家にもサポートしてもらい、親子の希望を実現でき、柔軟に対応できるよう内容を作り込んでいきます。

家族信託契約書は公正証書にすると安心です。

公証人が親の意思を確認して作成しますので、ほかの相続人から「子どもが勝手に作った」などの疑いを持たれないように予防することもできます。

家族信託契約締結後には、子ども名義の口座に対象の金銭を送金する必要があります。

このときに、受託者である子どもには分別管理義務があり、自分の金銭と親から預かった金銭とを、きちんと分けて管理しなくてはいけません。そのため、新しく子ども名義の口座を開設することがお勧めです。

親の介護にかかるお金は、親の預貯金が支払っていくことが鉄則です。子どもの貯蓄から払わなくてはいけない状況になると、子どもへの金銭的な負担が重くなり、余裕がなくなって親子間での関係性が悪化し、生活や介護がうまくいかなくなることにもつながります。

そのため、親の財産を子どもが使える仕組みが必要です。成年後見制度もありますが、まだ使いづらい側面があります。

対して、すでに紹介したとおり、家族信託はメリットが少なくありません。親が元気なうちに司法書士など専門家に相談をしてみることをお勧めします。​​

(記事は2023年4月1日時点の情報に基づいています)

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