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感情的対立を防ぎ、納得感のある合意を目指す「遺産分割調停」

――遺産分割に関して、牧野先生は「調停活用派」とのことですが、遺産分割調停を活用するメリットを教えてください。

調停のメリットは、まず第三者である裁判官と調停委員が間に入ってくれることです。調停委員はこれまでさまざまな遺産分割のケースを扱ってきた人たちです。法的な後ろ盾を得ながら、当事者たちの言い分をすり合わせた「中間まとめ案」のような調停案を提示してもらえます。当事者同士での感情的対立や親族間の関係悪化を防ぐことができる、非常に便利なサービスで、活用しない手はありません。

調停を起こすと、相手方が「ケンカを売られた」と勘違いするケースがよくあります。弁護士を立てたというだけでも腹を立てる人もいます。でも、「調停=ケンカ」ではありません。調停委員を通じて一緒にもう一度話し合いをするという機会なのです。

――調停はどのような流れで進むのでしょうか。

調停は、家庭裁判所の裁判官1人と調停委員2人を中心に進められます。最初に裁判官と調停委員、そして申し立て人と相手方が顔合わせをして手続き内容の説明を行います。相手方と顔を合わせるのはこのときだけで済みます。

調停は1回あたり2時間ほど。調停委員2人が当事者双方から約30分ごとに交互に言い分を聞きながら、合意を目指していきます。争点が明らかになってきたら、次回の調停期日までに再度考えを整理するように言われたり、資料の準備を求められたりすることもあります。

次回期日はおおよそ1カ月~1カ月半先に指定します。早いケースでは3回ほどの調停で合意に至りますが、長引くときは1年以上かかることもあります。相続人全員が合意すれば調停が成立し、調停調書が作成されます。調停調書は強制執行できる効力もあります。

――調停でもまとまらない場合は審判へと手続きが進みますが、審判も活用する方が良いとお考えでしょうか?

私はできるだけ審判には進まない方が良いと思ってます。調停であれば「話し合いによって解決できた」と双方が納得して終えることができます。いわゆる「納得感が強い」結果が得られるのです。審判の場合は否応なしに上から結論をつき付けられてしまい、当事者全員の納得には遠いことが多いためです。

【関連】遺産分割調停とは? 流れから有利に進める方法を弁護士が解説

調停をまとめるコツは、双方が「ちょっと悔しい」と思う着地点を探ること

――実際に牧野先生がサポートした遺産分割調停の案件で、印象に残っているものを教えてください。

しばらく前の案件ですが、依頼者は4人きょうだいで、母親はいくつかの不動産など多くの資産を持っていました。その後母親が病気になってしばらくすると長男が「今いる病院はあまり良くないから、僕の方で面倒を見るからあとは心配しないでくれ」と言って母親を連れ出し、そのまま音信不通になってしまいました。そして母親が亡くなると、「長男にすべて遺産を相続させる」という内容の遺言書の存在が明らかになったのです。「これはおかしい」ということで、残りのきょうだいで家裁に調停を起こしました。

このケースでは「長男が自分に都合の良いように母親に遺言書を無理やり書かせたのではないか」という争点にもとづき調停委員を通じて訴えていきました。母親は今まで子ども4人を平等にかわいがっていた、突然音信不通にされた、という証拠を出しながら「長男だけを優遇する遺言書を書くはずがない」ということを説明したのです。すると調停委員も理解してくれて、長男が母親の面倒を最後まで看ていたことも考慮しつつ、「遺言無効的」な調停が成立しました。遺言無効確認訴訟を起こしたり「詐欺的な遺言を書かせた」と刑事事件にして泥沼化することなく、うまくいったケースでした。

――「遺言書を無理やり書かせた」という点はとことん追及しなかったということですか?

遺言書が無効であることを立証するには、判決を得る必要がありますが、立証は難しいですし手間もかかります。遺言無効訴訟に勝てば法定相続分の全てが取れますが、負けたら遺言通りになってしまいますしね。今回は、遺言書の効力を弱める内容の調停でまとめたということです。
遺言書があっても、遺言書と違う内容の調停協議にトライすることができる場合もあるということです。

「調停はケンカではありません。親族間の関係悪化を防ぐことができる非常に便利なサービスです」と牧野弁護士(写真提供:牧野茂さん)

――調停をうまく進めるコツはあるのでしょうか。

調停でも、法定相続分で平等に分けるということが大原則です。まずは「大きな財産を法定相続分に応じてどう分けるか」という全体像を先に確定させてから、次に調整として寄与分や特別受益的なものを考慮する、という流れで行うことです。「私の方がこれだけ母親の面倒を見たんだから半分ぐらい遺産をもらってもいいでしょう」と寄与分だけ永遠に議論するなど、付随的な部分で突っぱね続けていてはまとまりません。

調停でも審判においても、客観的な証拠やさまざまな経過が事実として積み重なった「間接事実」が重視されます。遺産(預金)の使い込みもトラブルの種になるひとつですが、先ほどの遺言無効の実証と同様に、使い込みを認めさせるためには地裁に裁判を起こして立証する必要があります。確固たる証拠が無いにもかかわらず、その点だけにこだわり続けていては、審判でさらにひどい結果になることもある。それよりは、とにかくわかっている範囲の遺産できちんと取る。100%の納得はできないかもしれませんが「このくらいでまとめた方が結局は得じゃないですか」と落としどころを考えることも大事です。

私の経験上、話し合いや調停でまとまるときは双方が「ちょっと悔しい」と思う内容のときですね。依頼者から「先生よくやってくれました。でももうちょっと(遺産を)得られるはずだったんだけどな」と言って帰るときはうまくまとまったときです。「相手方も悔しがっていますよ」と言うと「そうだよな」と納得されます。今後の親族関係の平和を考えると、白黒勝ち負けをはっきりさせるよりも良い着地点を探ることもポイントですね。

また、調停を活用する際の鉄則は調停委員を味方につけることです。たまに調停委員とけんかをする弁護士もいますが、調停は自分の考えを押し通す場ではありません。誤解があれば解きますが、調停委員も人間ですから温和な態度が鉄則です。こちらのわがままばかり言っていると耳を傾けてもらえませんが、理にかなった言い分を伝えることで理解し同情してもらう。「調停委員を介して、相手方を説得させる」ぐらいの気持ちでいることが大事です。

「お互いにちょっと悔しいと思う着地点であること。それが調停をまとめるコツなんです」という牧野弁護(写真提供:牧野茂さん)

早めの相談で解決に向けての選択肢が広がる

――遺産分割で悩んでいる人へのアドバイスをお願いします。

「なんとなく揉めそうだけど、何が問題なのかはっきりとはわからない」という状態でも、どのあたりが揉めるポイントになるか見極めることができます。だからこそ早めに相談に来てほしいですね。

早く相談に来てくれると、解決に向けての選択肢が広がります。例えば、最初はご自身の名前でお手紙を出すことにしたら、その文面のサポートから入ることもできます。そこでけんもほろろな返事が返ってきたならば、私が代理人として正式について話し合いの場を提案することもできますし、それでも話し合いが進まない場合は調停へ、様々な道が選べます。揉めに揉めてから相談に来られるともう調停しかありませんからね。

遺産の範囲がわからない、不動産の分け方で揉めそうだ、など少しでも不安要素がある場合にはできるだけすぐに相談にいらしてください。結果的に、早い解決でまとめることができると思います。

【フェアネス法律事務所】

東京・霞が関にオフィスを構える。弁護士歴40年以上で、あらゆる相続問題の解決で豊富な実績を重ねてきたという牧野弁護士が、遺産分割における紛争解決や相続前の紛争予防の相談に応じる。相談者の背景事情から相続に対する思いまで、丁寧なヒアリングを心がけている。連携している税理士・司法書士を必要に応じて紹介することができるので、ワンストップで各種士業のサービスへのアクセスが可能。

(記事は2023年7月1日現在の情報に基づきます)

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