目次

  1. 1. 弁護士に依頼するか、ケースごとに解説
    1. 1-1. 相手の都合で弁護士を立ててきた場合
    2. 1-2. 遺産分割協議をしても交渉がうまく進まない場合
    3. 1-3. 相手方の弁護士が言っていることが専門的過ぎてわからない場合
    4. 1-4. 遺産分割調停に進んだ場合
    5. 1-5. 遺産分割審判に進んだ場合
  2. 2. まとめ

遺産分割協議で相手方が弁護士を立てる理由は千差万別であり、対抗してあなたも弁護士に依頼したほうがいい場合と、依頼しなくてもいい場合があります。この記事では、あなたに弟Aがいると仮定し、遺産分割協議において、Aが弁護士を立ててきた場合の対応について考えてみましょう。筆者に実際に相談があった事例も挟みながら解説しているので、参考にしてみてください。

遺産分割協議のやり方がわからない、物理的に距離が離れている、日本語がわからない、あなたと会いたくないなど、Aが弁護士を立てるのには、いろいろな理由があるでしょう。

また、あなたに頭が上がらず、自分で交渉すると、あなたの言いなりになってしまうかもしれないと不安に思って弁護士を立てているのかもしれません。

弁護士によって対応の仕方はさまざまですが、このような事情で当事者の一方だけに弁護士がついた場合、自分の依頼者だけの利益ではなく、全体での利益を考え、中立的な立場で両者を取り持ってくれる弁護士もいます。

そのようなときは、必ずしもあなたの方で弁護士を立てる必要はありません。弁護士を立てなくても、Aの弁護士と交渉し、納得のいく結論が導ければそれでいいのです。Aが弁護士を立ててきたからといってやみくもに弁護士に依頼するのではなく、しばらくは弁護士を立てずに相手の出方を見てみるという形でもよいでしょう。

ただし、その弁護士はAの代理人であって、あなたの代理人ではないということは肝に銘じておいてください。弁護士は、自分の依頼者の正当な利益の実現に努める義務を負っています。

Aの弁護士からの提案は、Aに有利である可能性も大いにあります。Aの弁護士の言うことが腑に落ちなかったり、不利な条件を突き付けられていると感じたり、あなた1人では納得のいく結論にならないと思う場合には、ずるずると交渉を続けず、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。

【筆者が実際に相談を受けた事例】

筆者は以前、故人の妻から「亡くなった夫に腹違いの兄弟が3人おり、その3人も相続人になるのに、全く面識がなく困っている」という相談を受けたことがあります。 この案件では、夫婦に子どもがいなかったので、相続人は、妻と夫の兄弟3人でした。この方は、兄弟の連絡先さえわからないし、面識のない兄弟との交渉は負担だというので、依頼を受けました。筆者が連絡先を調査し、兄弟と連絡を取り、遺産分割協議を申し入れましたが、相手方は誰も弁護士を立ててきませんでした。

本件では、生前、被相続人と兄弟の間の交流は一切ありませんでしたが、特にいがみ合っているというような複雑な事情はなかったので、スムーズに協議がまとまりました。

相続人の意見が割れたら弁護士に!
相続トラブルに強い弁護士の選び方 相談するメリットや費用も解説
相続トラブルに強い弁護士の選び方 相談するメリットや費用も解説

次に、もともと兄弟仲が悪かったり、遺産分割協議が長引いたりして感情の行き違いが生じた段階で、Aが弁護士を立ててきたと想定してみましょう。Aに弁護士がつけば、あなたはその弁護士と交渉すればよく、Aと直接交渉しなくて済むので、感情のぶつかり合いを避けることができます。あなた自身がAの弁護士との協議で感情的にならず、冷静に対処できるのであれば、弁護士を立てなくても問題はないでしょう。

ただし、その弁護士はAの代理人ですので、必ずしもあなたの納得する結論が導かれるわけではないことは上記の通りです。相手の出方を見て、必要と思えば早い段階であなたも弁護士に依頼することをおすすめします。また、遺産分割協議には時間も手間もかかります。遺産分割協議が長引いて負担に感じるのであれば、あなた自身の時間と手間を省くために、弁護士に依頼すべき場合といえるでしょう。

【筆者が実際に相談を受けた事例】

筆者のところにも、夫の死亡後、共同相続人である娘が弁護士を立ててきたと言って、相談に来られた方がいました。この件では、全財産を妻である自分に相続させるという遺言が見つかったものの、娘が遺言は偽造だと主張して譲りません。

娘との関係を悪くしたくなかった依頼者は、やむなく遺言がなかったものとして遺産分割協議をすることにしました。しかし、その後も娘は弁護士を通じて依頼者が遺産を隠しているなどと難癖をつけてきて協議が進まないとのことでした。

先述の通り、弁護士は依頼者の正当な利益の実現に努める義務を負うとともに、依頼者の意思を尊重しなければならない義務も負っています。この娘の弁護士も、娘が遺言書の偽造や隠し財産があると疑っている以上、それを無視するわけにはいきません。筆者は、依頼者本人での交渉は負担が大き過ぎると判断し、代理人として交渉に当たることにしました。

民法では、相続人が公平に財産を分けられるように、法定相続分、遺留分、特別受益というような、相続について原則となるさまざまなルールを規定しています。

Aの弁護士は、これらのルールからAの意思に沿うものを選択して交渉してくるでしょう。遺留分とか特別受益などと言われても、わからない方も多いと思います。あなたも、Aの弁護士が言っていることが十分に理解できない場合には、弁護士に相談することをおすすめします。

当事者間では協議がまとまらない場合、遺産分割調停という手続きを利用することができます。遺産分割調停というのは、調停委員が第三者として当事者間の協議を取り持ち、妥協点を探る手続きです。裁判所の手続きになりますが、必ずしも弁護士を立てなくても構いません。

弁護士を立てていても、Aは弁護士と一緒に調停に出席することができます。しかし、調停の話し合いは、通常、調停委員が一方当事者と行い、その結果を他方当事者に伝えるという形で行われるので、直接当事者同士が顔を合わせることはありません。

あなたが弁護士を立てていなくても、Aの弁護士やA本人と会わずに済みますので、顔を合わせたくなくても、それだけで弁護士に依頼する必要はありません。

また、調停の進め方は調停委員によってかなり違いがあります。調停委員は、あなたにアドバイスする立場ではありませんが、調停委員によっては、代理人がついていない当事者にはある程度柔軟に対応し、適切な方向性を示してくれることもあります。

まず、調停に出席してみて、調停委員の対応などを見たうえで、自分の手に負えそうかどうかを考え、弁護士に依頼するか否かを決めてもよいでしょう。

調停をしても協議がまとまらない場合は、遺産分割審判という手続きに移ります。審判では、各当事者と裁判官が一堂に会して手続きを行うため、Aの弁護士やA本人と顔を合わせたくない場合には、弁護士に依頼するのもひとつの方法です。

また、審判では、双方の当事者が法的な主張と証拠を裁判所に提出して、それを見て裁判官が妥当な遺産分割の方法を決定します。この手続きを専門知識がない方が自ら行うのは、負担が大きいため、遺産分割審判まで進んだ場合は弁護士に依頼することをおすすめします。

相手方に弁護士がついたからといって、必ずしも、こちらも弁護士を立てなければならないということにはなりません。しかし、自分がどう対応すべきか迷った場合や自分の手に負えないとわかった場合は、早めに弁護士に依頼しましょう。

(記事は2022年5月1日現在の情報に基づいています)