親の認知症に備えた財産管理 4つの手法のメリットとデメリットを解説
親が認知症になり判断能力が低下すると、契約締結に関する適切な意思決定ができなくなったり、詐欺などの被害に遭いやすくなったりするなど財産管理が難しくなります。認知症対策として有効な任意後見・法定後見・家族信託と、これらと比較されることの多い財産管理契約の計4手法について、それぞれの特徴を弁護士が解説します。
親が認知症になり判断能力が低下すると、契約締結に関する適切な意思決定ができなくなったり、詐欺などの被害に遭いやすくなったりするなど財産管理が難しくなります。認知症対策として有効な任意後見・法定後見・家族信託と、これらと比較されることの多い財産管理契約の計4手法について、それぞれの特徴を弁護士が解説します。
目次
「相続会議」の弁護士検索サービスで
認知症になった場合、契約などの法律行為をする際に、メリット・デメリットを適切に比較して意思決定を行うことが難しくなります。
その結果、親が認知症になると、以下について困るケースが多いです。
上記の中から、3つについて補足説明します。
重度の認知症と診断されると、法律上の「意思能力」がない人と判断されます。意思能力のない状態で行われた相続対策(例えば遺言書作成や生前贈与)は無効になってしまいます。
そのため認知症を発症する前に、もしくは症状が軽度のうちに、遺言書を作成したり、生前贈与をしたりしておくことが賢明です。
認知症の程度が進行すると、「何かを買う・売る」などの意思表示を行うことが、能力的にも法律上もできなくなります。たとえば、認知症の親が介護施設に入居した後、親の自宅を売却したくてもできない状態となってしまいます。
親が認知症になると、銀行の預金を一人で引き出すことができなくなる可能性があります。家族が代理で引き出そうとしても、本人が認知症により意思能力を失っていれば、代理権の授与は無効です。結果的に、介護や医療にかかる費用、さらには生活費さえ引き落とすことができなくなり、親族がその費用を負担しないといけなくなってしまいます。
こうした事態は、認知症の方に不利益を及ぼすばかりでなく、周囲の親族などにも大きな負担になり得るので、あらかじめ認知症対策を行っておくことが望ましいでしょう。
認知症になった場合、財産管理に支障を来すケースが多いので、信頼できる人にあらかじめ財産管理を託しておくことが有効です。
認知症対策に有効となる財産管理手法としては、以下の3つが挙げられます。
なお、任意後見と法定後見は、成年後見制度の種類です。
以下の表は、認知症対策に有効な財産管理手法のメリットとデメリットの一覧図です。
3つの手法に加えて、比較されることの多い「財産管理契約」の計4つについて、それぞれの概要や特徴を見ていきます。
任意後見とは、本人の判断能力が不十分となったことを条件として、本人が所有する財産の管理を、契約によって定めた任意後見人に委託することをいいます。
任意後見人には代理権が付与されるため、本人に代わって契約締結などの法律行為をすることが可能です。
本人が元気なうちに任意後見契約を締結することで、本人が自ら選んだ信頼できる人に、あらかじめ財産の管理を任せられます。
また、任意後見契約は公正証書の作成が必須なので(任意後見契約に関する法律3条)、契約締結の事実や契約内容が公的に証明される点もメリットです。
なお、任意後見人ができるのは、任意後見契約によって定められた行為のみです。たとえば、預金口座の管理や介護施設の入居、自宅の売却など、任意後見人に任せる事項を具体的に記載する必要があります。
ただし任意後見人には、後述する法定後見とは異なり、本人の行為についての取消権は認められていません。
そのため、本人が悪徳商法や詐欺などに騙されてしまった場合には、十分な保護を受けることができないおそれがある点に注意が必要です。
法定後見とは、家庭裁判所の審判によって、判断能力が低下した本人の財産管理をサポートする人を選任する制度をいいます。
判断能力低下の程度に応じて、成年後見・保佐・補助の3種類が設けられています。
認知症によって常に判断能力を欠く人につけられるのが成年後見人、判断能力が著しく不十分な人につけられるのが保佐人、判断能力が不十分な人につけられるのが補助人となります。
法定後見の最大のメリットは、本人の行為についての取消権が認められる点です。
成年後見人の代理権、保佐人・補助人の同意権の範囲に含まれる行為を、本人が単独で行った場合には、本人または成年後見人・保佐人・補助人が、当該行為を取り消すことができます。
そのため法定後見は、悪徳商法や詐欺などの被害に対して、特に有効な認知症対策といえるでしょう。
その一方で、民法で制度内容が厳密に決まっているため、法定後見の内容を自由に設計することはできません。
また法定後見は、実際に本人の判断能力が低下してからでなければ申し立てることができません。したがって、事前の認知症対策としては利用できない点にご注意ください。
全国47都道府県対応
家族信託・成年後見の相談ができる弁護士を探す家族信託とは、信託契約で定めた受託者に対して形式的に財産を移転し、当該財産を受託者に管理してもらうことです。認知症などによって本人が財産を管理できなくなることに備え、家族に財産を管理する権限を与えることができます。
家族信託は、信託の内容を自由に設計できる点が最大の特徴です。そのため、家族信託を利用すれば、認知症になる前の本人の意思に適った財産管理を、受託者に義務付けることができます。
さらに、
など、認知症対策以外の目的にも、家族信託は有用です。
ただし家族信託は、あくまでも財産の管理のみが対象であり、療養看護に関する法律行為の代理権を受託者に付与することはできません。
たとえば、本人の代わりに入院や介護施設への入居に関する契約を締結したり、手術に同意したりといった行為は、家族信託の受託者には認められないのです。
したがって、より実効的に認知症対策を行うためには、必要に応じて任意後見や法定後見と家族信託を併用するとよいでしょう。
財産管理契約とは、本人が所有する財産の管理を、第三者に委託する契約をいいます。
任意後見と似ているようですが、財産管理契約の場合は、「任意後見契約に関する法律」に準拠していないという違いがあります。そのため財産管理契約は、任意後見契約よりも自由に内容を設計することが可能です。
ただし財産管理契約は、実際に本人が認知症になってしまった場合には、その効果を十分に発揮することができません。
金融機関を中心として、契約締結の有効性を確保するため、本人の意思確認を行うケースが多いからです。
そのため、あらかじめ認知症対策を行いたい場合は、任意後見や家族信託の利用をお勧めします。
また、財産管理契約の締結後に本人が認知症になってしまったら、法定後見への切り替えをご検討ください。
任意後見・法定後見・家族信託などは、弁護士や司法書士、行政書士に相談することができます。
ただし、司法書士と行政書士には業務範囲の制限があるので、包括的に認知症対策の設計を依頼したい場合には、弁護士への相談がお勧めです。
弁護士費用は、他士業への依頼費用よりも若干高くなる傾向にありますが、弁護士によっても費用体系は異なるので、複数の弁護士から見積もりをとってみるとよいでしょう。
親が実際に認知症になってしまうと、財産管理を任せる方法についての選択肢が狭まってしまいます。
本人の意思を尊重し、かつ家族にとってもメリットのある形で認知症対策を行うには、本人がお元気な段階で、早期に検討に着手することが大切です。
ご自身やご家族が高齢に差し掛かってきた方は、弁護士などにご相談のうえ、お早めに認知症対策をご検討ください。
(記事は2022年11月1日現在の情報に基づきます)
「相続会議」の弁護士検索サービスで